第7話 負けないで-7
―――ただいま!
イチローが部屋に戻るともうあたりは暗かった。ジローはおばさんに頼んであった洗濯物を片づけていた。
―――兄さん、今日はどこへ行ってたの?いいかげん練習に出ないと、首にされるよ。
―――まぁまぁ、もうすぐ出るから。それより、ジロー、相談があるんだけれど。
―――何だよ、あらたまって。気持ち悪いな。
―――いや、実はな・・・。
イチローはジローに耳打ちした。
―――兄さん、何考えてるんだよ。
―――いいからいいから、オレが責任とるって。
―――バカなこと言わないでよ。兄さんが責任取れるわけないだろう。
―――ジロー!物事は成るように成るんだ。
―――だけど、それは、はん…
―――明日、頼むぞ!メシメシ。おばさん、ハラ減った!
―――ちょっと、兄さん!
イチローの後を追ってジローも階段を降りた。
翌日十時過ぎにイチローとジローは綾の家に着いた。
―――おはよう!あやちゃん!
勢いのいいイチローの声に応えるように玄関が開き、綾が出てきた。
―――やっほー!元気?
イチローの素っ頓狂な態度にあきれながらも綾は微笑んでいた。
―――親父さんはどうしてる?
―――奥で寝てる。
―――そう。じゃあ、都合いいや。あ、これ弟のジロー。弟といっても双子だから、同い年なんだけどな。おい、ジロー挨拶しろ。
―――あの、兄さんが何かとんでもないことを考えてるみたいで、すみません。
―――え、何のこと?
―――いいからいいから。あやちゃんは、とりあえず身の回りのものをまとめて持って来て。二人で運ぶから。着替えと、お母さんの形見とか。
―――死んだわけじゃないけど・・・。
―――ごめんごめん。あとは・・・、教科書はいいや。どうせ違うし、貰えばいいや、なぁ。
―――なぁって言われても、ボクはわかんないよ。
―――まぁ、そんなもんでいいよ。早くね。
―――あの、あたし、何が、何だか、よくわからないんだけど。
―――いいからいいから。何だったらオレがやろうか。下着なんかも全部。
―――兄さん、何考えてるんだよ。
―――だから、あやちゃん、早く準備して。
綾は要領を得ないまま不承不承といった様子で家の中に入っていった。そしてスポーツバッグとリュックサックを持ち出してきた。
―――こんなもんか?オレひとりでもよかったな。じゃあ、行こうか。
―――行くって、どこへ?
―――オレんち。今日からあやちゃんは、オレんちで暮らすの。
驚く綾を尻目にイチローとジローは荷物を担いだ。
―――あの・・・、でも・・・。
―――いいから、いいから。あとはオレに任せとけって!
―――ということなので、行きましょう。兄さんは悪いヤツじゃあないから。大丈夫だよ、多分。おばさんにちゃんと頼んでみるし。
綾はジローに促されてようやく歩き出した。
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