第4話 負けないで-4

 ―――昨日は、可愛い子を助けてさ、お礼がしたいなんて、言われちゃったよ。

 ―――本当にお前が?でも、本当にかわいかったの?

 ―――そりゃあ、もう。少しか弱い感じだけど、アイドル系ってとこだな。

 ―――こないだ転向してきた、B組のあのコとどっちがかわいい?

 ―――あのコよりは落ちるよ。でも、結構いいんだ、これが。

朝のホームルームが始まる前、一郎は昨日の手柄を新井に話していた。

 ―――ちょっと、潤んだような瞳でさ、オレを見るんだ、コレが。

大笑いする一郎の頭を、突然叩いたのは、森美恵子だった。

 ―――ナニするんだよ。なんだ、ミエちゃんか。なんで叩くんだ。

 ―――うるさいのヨ、アンタは。大体、クラブさぼって、ドコほっつき歩いてるのヨ!ジローちゃんが、どんなに困ってるか、理解ってるの、アンタ!

 ―――ナニ言ってるんだよ。オレは、練習で走ってるの。ワカル?それで、たまたま、オレの正義の血を駆り立てる事件に遭遇したってだけ。

 ―――いいねぇ、いいねぇ。さすがは、イチロー!

 ―――褒めるな、褒めるな。

 ―――ふざけてる場合じゃないだロ!まったく…。ホントにバカなんだから。

 ―――うるせえな、オレがこないだのテストで何番だったのか、知ってるのか?

 ―――知ってるわけないでしョ。

 ―――じゃあ、教えてやろう。ナント、247番だ。久しぶりに、250番内に入ったんだぜ。すごいだろぉ。

 ―――俺より、悪いよ。バカだろ、オマエ。

 ―――言っとくけどね、あたしは50番内から落ちたことはないの。

 ―――ウソ!お前が?

 ―――当たり前じゃない。ちゃんと勉強してるんだから。

 ―――まぁ、オレはクラブもあるしな。

 ―――あたしも、クラブはやってます。ちゃんと、バレー部のレギュラーになってます。

 ―――それは、イ・ヤ・ミか?昔からこいつは性格が悪くてな。

 ―――へぇ、イチローとミエちゃん、同じ小学校だったの?

 ―――そう、当然、ジローもな。あと、リエちゃんも一緒だったんだけど。ウチの親が仕事で隣の県に引っ越したんだ。俺らはここに受かったし、通うのも大変だから、親戚の下宿屋に住んでるんだ。そこが、コイツん家のすぐ近く。嫌になっちゃうぜ。

 ―――何を、ごちゃごちゃ言ってるの。ちゃんと、クラブに出なさいよ、わかった?

 ―――女がぐちゃぐちゃと口出しするんじゃねえよ。男には男の理屈ってものが、あるんだから。

 ―――じゃあ、言ってもらいましょうか。

 ―――男のおしゃべりはみっともないじゃねえか。だから、言わない。

 ―――ほぉら、大した理由なんてないじゃない。言い訳なんかしてないで、ちゃんとクラブに出なさい!

 ―――うるせぇ、小姑みたいなヤツだな。

 ―――何よ。弟のジローちゃんの方がよくできるなんて、情けないと思わないの。

 ―――いいんだよ、あいつは優等生で。オレは劣等生。それでいいの。

 ―――ごまかさないで!努力もしないで!やるだけやってから言いなさいよ、そんなこと。

 ―――だから、やってるんだよ、オレなりのやり方で!ぐちゃぐちゃ言うな!

始業のベルが鳴り、気まずい雰囲気が霧散した。慌ただしく席に着く美恵子と新井。そして、先生が入ってきた。

 ―――オレはオレのやり方でやるんだ・・・。

イチローはそう呟いた。


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