新たな仲間

 山に春の息吹がそこかしこに芽吹くある日のことです。

 山の中腹に作られた山の民の村では、ちょっとした集まりがありました。

 今日は兼ねてより計画されていた、一斉山菜狩りツアーの決行日なのです。

 毎年恒例のこの日は、立って歩けて物が掴める年の幼児から青年になる前の子供まで全員が参加する一大イベントなのです。

 この山菜狩りを通して、三巳や付き添いの大人達から山の様々な事を学んでいきます。これを通さずには山の民は名乗れない事でしょう。


 「よーし、皆そろったな~。それじゃぁしゅっぱ~つ、しんこ~う」


 三巳が片腕を元気よく上げて掛け声ひとつ。皆を先導していきます。

 山の中は危険がいっぱい。肉食の動植物やモンスター達の気配があっちにも、こっちにも。そっと息を潜めて様子を伺っています。

 でも大丈夫。だって、三巳がいますから。どんなに怖いモンスターだって三巳には敵いません。

 だって神様ですから。


 三巳を中心に幾つかの班に別れて山菜探しに夢中です。

 何人かの元気な男の子は山菜に飽きたのか、冬眠から覚めた虫を見つけて大はしゃぎ。

 すかさず班のリーダーの年長さんが叱っています。子供を叱るのは子供です。大人はここぞという時しか動きません。これも勉強なのです。


 山菜狩りも佳境に入った頃、ちょっと下まで降り過ぎた少女と少年がいました。

 離れすぎては危険です。すかさず年長さんが大人に一言声を掛けて追いかけます。


 「あんまり離れすぎるのは危険だよ。モンスター達は僕たちが孤立したところを狙っているよ」


 モンスターを刺激しない様に、でもちゃんと伝わるように声を掛けて静止を促します。

 気づいた少女が少年の袖を掴んで、止めました。

 そんな時です。少年が何かを発見しました。

 木の洞に布の塊が見えたのです。

 誰かもの好きがわざわざ持ってこない限りそんな事はあり得ません。

 きっと誰かいるのでしょう。

 しかし山の子供たちは少年少女と追いかけてきた年長さん以外は三巳のそばです。

 では誰か大人でしょうか?しかし今日は子供たちの為の山菜狩りの日。保護担当の大人以外は村にいます。

 となると誰でしょう。少年は好奇心に負けて、少女に袖を掴まれたままとっとこ近寄ります。

 少女はあわや転びそうになってしまい、手を放します。


 そうして木の洞の中を覗き込んで発見したのは三巳くらいの背丈の少女でした。

 それも大変です。あちこち怪我をしているではありませんか。火傷の後まであります。


 「兄ちゃん大変女の子が怪我してる!」


 大きな声で叫びます。これには少女と年長さんだけではなく、周りの動物モンスター達もビックリ仰天です。

 

 「ぎゃおおう!」


 大きく嘶き猛スピードで突進する準備万端です。

 けれどそんなことは起きませんでした。

 少年の叫びにいち早く気付き、あわやというところで神気を爆発させて辺りを結界で満たします。

 突進しかけたモンスターもこてーんと気を失ってしまいました。


 「本当だ。木の強烈な匂いで判らなかった」


 三巳はひとっ飛びで木の洞までやってきて、少年の上から中を覗き込みます。

 少女がいたのは一番匂いのきつい木の洞でした。しかも気を失っています。だから気配も無かったのでしょう。


 「怪我も火傷も酷いけど、衰弱が一番酷い」


 ロキ医師に最近教わったやり方で、ひとつひとつ確認していきます。

 習っていて良かったと内心ガッツポーズで自画自賛している三巳です。


 「三巳はこの娘をロキ医師に連れてく。

 皆も山菜取りは今日は終わり。ちゃんと皆で帰るんだぞ」


 三巳は少年と少女の頭をなでて、年長さんに託します。

 3人は素直に頷き、事の次第を報告しに皆の元へ戻ります。 

 三巳はウォーターベッドに少女を寝かせて急いで医師の元へと向かいます。


 ロキ医師は、三巳が連れてきた見知らぬ少女にビックリ仰天しました。あわやギックリ腰になるところでした。なりませんでしたが。

 診療所の周りは、見知らぬ少女を見に集まった山の民で溢れ返ってしまいました。


 「外野がうるさいが、今はこの子の治療さな」


 医師は飄々と手早く処置を進めます。見事な手際です。

 気を失っている少女の口に薬湯を染み込ませた清潔な布を当てて湿らせます。喉に詰まらせてはいけないので飲ませません。飲むのは起きてからです。

 三巳に布を任せて、怪我の治療を開始します。


 「こりゃぁ、いかんのう。怪我は兎も角火傷は女の子には辛かろう。後で了承取って治してあげんさい」

 「わかった」


 前世も今も三巳は女です。女の子の気持ちになって考えられるので素直に頷きます。

 そうして、少女の治療が完了した時には、山菜狩りのメンバーは全員村に戻って来ていました。


 「目が覚めたらあの子どうするんだろうね」

 「この山に入れたんだ。悪い子じゃないだろうがね」

 「でも、山を出てからここの事話されたら嫌だわ」

 「そうじゃの、少女さえ否と言わんけりゃこの村の一員にするのがええの」


 三巳とロキ医師を蚊帳の外に山の民によって少女の処遇が決まっていました。

 勿論良く聞こえる耳でしっかり聞いていた三巳は全面的に同意します。

 三巳だって、むやみやたらと他の人間達に知られたくはありません。


 こうして、少女が目を覚まさないまま暫定的に村の仲間が増えたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る