第22話 ありがとう
空を見上げると、白い月が煌々と輝いている。
邪神グヴェル討伐により、月の色は白く戻っていた。
そのため人々は、邪神による脅威が去ったと思っている。
――だが実際には違う。
女神と。
そして女神の手による滅びによって、この世界の運命は風前の灯火だ。
だが俺達は、一部教会や国の上層部を除いてそれを伝えてはいなかった。
もしそんな事実が広がれば、世界が大混乱に陥ると分かり切っていたからだ。
世界の終わりを醜くい物にしたくない。
それが国や教会、俺達の出した結論だった。
それは酷く独善的な判断だとは思う。
けど――
勝てばいい。
そう、リリアの残してくれた希望で女神を打ち破ればいいのだ。
勝ちさえすれば、この世界を救う事が出来る。
俺達が勝ちさえすれば――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……え?」
赤黒い刀身をした、鞘のない剥き出しのシンプルなデザインの剣。
それをセイヤさんから受け取る際に、俺は衝撃的な言葉を彼女から聞かされる。
「この剣の製作のため、テッラさんとベリーが命を落としました」
と。
「冗談……ですよね?」
女神による世界の滅びは、いつ訪れるか不明だ。
その猶予が分からない以上、
だからテッラは寝る間も惜しんで剣を制作してくれていたのだ。
リリアが残した、対女神用の武器を生み出すために。
そう、テッラがやっていた事は武器の製作である。
無茶をしたからと言って、それで彼女が命を落とすなどありえない。
ましてやベリーが死ぬなど、意味不明も良い所だ。
悪い冗談。
そう思って聞き返したが……
「事実です」
セイヤさんは、真面目な顔でそれが事実だと告げる。
その目は真剣そのものだ。
「そんな……どうして……」
「その剣の元となった鉱石は、邪神の力を秘めていました。それを加工するには、鍛冶師の命を込める必要があったからです。そしてベリーはそれを手伝うため、テッラさんに自らの命を吹き込んでいました」
「そんな……そんな事、一言も……」
テッラはそんな事、言っていなかった。
ただ剣を作るのに集中したいから、工房には近づくなと言われていただけだ。
「すまない、アドル」
レアが沈痛な面持ちで謝って来る
どうやら、知らなかったのは俺だけだった様だ。
そんな大事な事、どうして俺だけ秘密に……
「彼女は自分達の死が、貴方の負担にならない様にしたかったんだと思います。【神殺し】の精神への負荷の事も考えて、余計な物を背負わせたくなかったんでしょう」
「テッラ……ベリー……」
俺の精神状態を気遣って……
「ですから、本当は上手く誤魔化す様に彼女には言われていました。ですが……」
だがセイヤさんは敢えて、俺にそれを伝えて来た。
その意味は分かる。
仲間が命をかけて生み出してくれた希望を、その重みをしっかりと握りしめ、動揺する事無く覚悟を持って臨めという事だろう。
世界を本気で救いたいのなら、仲間の死を乗り越え逆境を跳ね返せと。
「セイヤさん。教えてくれてありがとうございます」
セイヤさんに礼の言葉を伝える。
そもそも、大切な仲間の死を知らないまま最後の戦いに臨むなんてありえない。
だからそれを真っすぐに伝えてくれた事に、俺は心から感謝する。
「行こう!」
手にした剣からは、確かな力を感じる。
流石はテッラが作った最高傑作だ。
だがそれでも、あの時感じた女神ンディアの波動にそれは遠く及ばない。
だとしても――
テッラ。
ドギァ。
ガートゥ。
ベリー。
それに……フィーナにリリア。
勝つとは約束できないけど、俺は全力を尽くすよ。
命を、全てを賭けて。
――俺達は最後の戦いへと向かうべく、女神の塔へと向かう。
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