第16話 封印

俺の拳を受け、エターナルが沈む。

ちゃんとリリアに言われた通り、死なない様に加減した攻撃だ


「あらあら、トドメを刺さないなんて……反吐が出るほど甘いですねぇ」


ティアの結界が消え、皆が俺の元に駆け付ける。


「お見事です、マスター。ですが、ここからが本番ですよ」


「ああ、分かってる」


どう考えても、エターナルと組んで俺を倒した方がティアにとっては楽だったはずだ。

だが彼女は、一切の手出しをしなかった。

それはつまり、一人で俺達の相手をする自信がある事の表れに他ならない。


間違いなくティアは、エターナルより強いはずだ。

それもかなり。


「リリア、エターナルは説得できそうか?」


「完全にいっちゃってましたし、ちょっと難しいかと。たぶん回復させたら、問答無用で襲ってきますねぇ」


やっぱ無理か。

普段からおかしかった奴だが、馬鹿笑いしてからは完全に目がいっていたからな。

正気を失った相手を引き込むのは流石のリリアでも難しいだろう。


「さて、それじゃあ次は私の番ですよ。言っておきますけど……お母様の使徒になった私は、そこのポンコツとは次元が違いますから」


リリアの背中の羽が大きく開き、凄まじい殺気を孕んだ突風が巻き起こる。

その圧に吹き飛ばされそうになるが、俺はそれを足を踏ん張り堪えた。


「く……」


「あの出鱈目な結界の時点で分っちゃいたけど……こりゃ、簡単には勝たせてくれそうにないねぇ」


ドギァさんが苦々しくそう呟く。


こいつを倒し。

更に女神まで倒す。

どう考えても実現不可能だ。


だけど諦める訳にはいかない。

この世界の運命がかかっているのだから。


……あの女神の思い通りになんて、させてたまるかよ。


「それでもやるしかない」


「ああ、その通りだ」


「行くぜ!」


レアとガートゥが突っ込む。

俺はそのすぐ後に続く。


「はぁっ!」


「オラァ!」


「そんな攻撃が、天使である私に効くとでも?」


二人の正面からの同時攻撃を、ティアが右手と左手で刃先を掴む様にして容易く止める。

その顔には余裕のニヤケ笑いが張り付いていた。


――隙だらけだ。


千載一遇のチャンスが早々に転がり込んで来た。

油断している所を一気に押し切らせて貰う。


「はぁ!」


レアとガートゥが体を素早く外側に動かし、二人の間に隙間が出来る。

そこに俺の一撃。

再発動させた神殺しチートスレイヤーの乗った、渾身の一撃を捻じ込む。


「しまったっ!?」


その刃は真っすぐに、驚愕の表情をしているティアの顔面へと――


「なーんてね」


――触れる事なく止まる。


「なっ!?」


ティアの顔の前に小さな盾の様な物が浮かび、それが俺の剣を受け止めたのだ。


「私に隙なんてありませんよ。ざーんねん」


彼女は嫌らしく口元を歪め、小ばかにした様に笑う。


「貰ったべ!」


その頭部に、俺を飛び越えたテッラのハンマーが振り下ろされる。


「オラァ!」


更に、背後に回り込んだドギァさんが。


「わぉん!」


「はっ!」


そして両サイドからは、ベリーとセイヤさんが同時攻撃を仕掛ける。


「む、だ」


だがそれよりも早くティアの羽が羽搏き、強烈な突風が巻き起こされた。

先程とは比べ物にならない規模のそれに、俺達全員が一斉に吹き飛ばされてしまう。


「くっ……」


「うぉっ!」


「くそっ……」


羽搏き一つでこの威力。

やはり……とんでもなく強い。


「ふふふふ。ほんっと、無力で哀れですねぇ。そんなんじゃ、この私に掠り傷一つ付けられませんよぉ」


ティアが余裕の表情で、此方をあざけ笑う。


「くそ……」


眩暈から体がふらつく。

エターナルとの戦い。

そこからの連戦であったため、神殺しチートスレイヤーの限界が近い。


「マスター!限界ですから力を切ってください!」


リリスが素早く俺の側により、力を引っ込めろと言う。


「けど……」


全力を出してすら、全くいとどいていないのだ。

とてもではないが、この状況で力を切って勝機があるとは到底思えない。


「言いたい事は分かります。でも、倒れて動けなくなったら邪魔にしかなりません。だから、いざという時用に取っておいてください」


確かに、無理をして倒れれば足手纏いになる。

リリアの言う通りだ。


「分かった」


俺はスキルを停止する。


「残念ですけど、いざという時なんて来ませんよぉ。このまま一方的になぶって終了です。まずは……」


ティアがとんでもない速度でガートゥに迫る。

彼女は剣を振るうが、それを躱され――


「一匹目」


「がっ!?」


ガートゥの胴体に、ティアの細腕が深々と突き刺さる。


「ガートゥ!」


「さて、では次は――」


リリアが手を引き抜き、ガートゥから離れて次のターゲットを物色しようとする。


「舐めんなぁ!!」


だがガートゥは倒れる事無く、手にした大剣を高々と掲げる。

その刃は緑色に強く輝いていた。


翠魔閃光斬エメラルドバスター!!」


ガートゥの奥義フェイバリットが放たれる。


「無駄ですよ」


だがそれはティアの前に現れた光の盾。

恐らく結界だろうと思われるそれが、完全に防ぎきってしまう。


「くそが……」


無理をしたためか、ガートゥが膝からその場に崩れ落ちた。


だが大丈夫だ。

俺達には【生命力Lv2】のスキルがある。

大ダメージを一瞬で全快させる事が出来、一度だけなら死んでも蘇る事の出来る飛んでもスキルだ。


だからガートゥも……


「――っ!?」


だが、何故か彼女は起き上って来ない。

それどころか、その体が空気に溶け込む様に消えてしまった。


「一体なに――えっ!?」


急に、【収納ストック】に入れていた筈のゴブリンを呼ぶ笛が目の前に出て来る。

そしてそれは俺の目の前で、粉々に砕け散った。


「何が……」


「ゴブリンが死んだから、召喚用のアイテムが壊れたんですよ。鈍いですねぇ」


「ばかな!ガートゥが死んだだと!私達には【生命力】のスキルがあるのだぞ!そんな訳があるか!」


レアの言う通りだ。

仮に回復が間に合わなかったとしても、その場合は蘇生効果が適応されるはずである。

ガートゥが死んだなんて、ありえない。


「ああ、使徒になった私にはあるんですよぉ。そこの聖女さんと同じスキルが」


ティアがセイヤの方を見て、ニヤリと笑う。


ある?

いったい何のスキルがあるというのか?

セイヤさんの特徴的なスキルと言えば【聖女】だが……


「そう、【封印】のスキルがね」


「なっ!?【封印】だって!?そんな……」


【封印】

それは触れた相手のスキルを、一時的に封じ込めるスキルだ


その【封印】によって【生命力】のスキルが封印されたなら、確かに回復も蘇生も起こらなかった説明がつく。


それじゃあガートゥは……あいつは、こんなにあっさり死んだって言うのか?

あの誰より雄々しく勇敢だったガートゥが……


「これは神に選ばれ使える者に与えられる、特権的なスキルですから。私も当然持っているって訳です。だ・か・ら……死んでも蘇生できるなんて、夢にも思わない方がいいですよ」

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