第27話 人形に宿る物
「さて、無能なポンコツに引導を渡してあげるとしましょうか」
「おやおや。私に勝てる気でいるんですかぁ?いいでしょう。姉の偉大さという物を、貴方に叩き込んであげます」
「くすくす。面白い冗談だこと。攻撃手段のないガラクタが、一体何をどうやって叩き込むっていうのやら」
ティアが此方を見て、馬鹿にしたように笑う。
「まあそれを差し引ても、貴方と私じゃ天と地ほどの差がありますから。どう足掻いても私には勝てませんけどね」
ティアは上半身を仰け反らせ、見下す様に私を見て来た。
私とあの子。
制作者や素材の違いから、ドールとしての基本スペックには倍以上の開きがある。
加えて私はそのコンセプト上、アンデッド系以外への攻撃手段を持ち合わせていない。
それを知っているからこそ、彼女は私を見下しているのだ。
糞忌々しい。
「ふふふ。今泣いて謝るんなら、私の下僕として飼って上げなくもないですよぉ?」
「差がある?無知とは哀れですねぇ」
やり返すように体を仰け反らし、ティアを見る。
私はマスターと共にダンジョンで活動し、様々な素材を吸収してきている。
そのため、制作時よりもその力は大幅に上がっていた。
それでもまだその差が大きいのは確かだ。
けど――私にはマスターから頂いた【超幸運】のブーストがある。
基礎能力を2倍近くにまで跳ね上げるこのスキルさえあれば、例え相手が神の作った人形でも後れを取りはしない。
それに攻撃手段だって――
「女神によって生み出された超越品である私を哀れだなんて、冗談でも笑えませんよぉ」
ティアが仰け反りを止め、構えた。
その指先からは青い光がのび、全てを切り裂く刃を形成する。
アレの直撃を喰らえば
「これだからポンコツは困るのよね」
「ええ、全くですねぇ」
彼女の言葉に同意して、私はニヤリと笑う。
言うまでもないとは思うが、私の言うポンコツは当然彼女の事を指している。
「全く……口の減らないお姉様だ事!」
ティアが突っ込んで来る。
攻撃はないと踏んでの、まっすぐな突進。
間合いを詰めた彼女は指の先から伸びた光の刃を振るう。
私はブーストを発動させ、その攻撃を避けた。
結界で防ぐ事も出来たが、敢えて使わない。
それは相手に、結界では攻撃を防げないと錯覚させるためだ。
私の力が大した物ではない。
そう彼女に勘違いさせる。
「どうしたの?逃げ回ってるばかりじゃ、私に偉大さを示せないわよ」
ティアが愉快気に刃を振るいまくる。
私は焦りの表情を作ってそれを躱した。
――まずは相手の油断を誘わなければ。
出来れば、急いで
皇帝はその性格はともかく、女神が死者の魂を転生させてまで駒に加えた存在だ。
力は間違いなくマスターよりもずっと上だろう。
レアとテッラ。
それに
だから1秒でも早く、マスターの元に駆け付けたかった。
だがもし焦って外せば、ティアとの戦いは無駄に長引く事になってしまう。
それだけは避けなければ。
私ははやる気持ちを抑え、回避に専念する。
「ちょろちょろと!」
「そんな攻撃、当たりませんよぉ」
内心の焦りを私はおくびにも出さず、ティアを挑発する。
――早く隙を見せなさいっての。
ティアはイラついてる様な口調とは裏腹に、その動きは慎重で中々隙を見せない。
お陰で、此方が逆にイラつかされてしまう。
万一マスターがやられたらと思うと、私は気が気でなかった。
いつからだろう。
こんな風に、マスターの事を心配するようになったのは?
最初はどうしようもない凡骨の世話を押し付けられたと、ずっとイライラしていた。
それがいつしか傍にいる事が当たり前になり。
そして私は、あの人の事を本気で心配する様になっていった。
あれはそう――最初にこの事に気付いたのは、エリアボスであるエビルツリーを倒した時の事だ。
あの時、彼は間抜けにも殴った相手に刺され、しかも女神がわざわざ特別に
そのありえない状況に呆れつつも、私は迷わずマスターの元へと駆け寄っていた。
――直ぐに追えば、あのアミュンという性悪女を逃す事なく捕らえる事が出来たにも関わらずだ。
マスターの負った怪我は、一目で致命傷ではないと私は気づいていた。
つまり、その治療を優先させる必要は無かったのだ。
なのにあの時の私はいてもたってもいられず、合理性を無視して彼の元へと駆けよっている。
何故か?
それは彼の事を心配で仕方がなかったからだ。
――それは本来ありえない感情だった。
神によって生み出された完全なる存在。
その私が、
私は自分の中で生まれたその感情に戸惑う。
悩み、考え、そして一つの答えに辿り着く。
この感情は、
古来より、人形には魂が宿ると言われている。
フィーナはマスターを強く思い、この体を作った。
その願いにも近い強い思いが、私の心を侵していたのだ。
最初こそ戸惑いを隠せなかったその感情だったが、いつしか私はそれを受け入れていた。
フィーナの遺した思いが強く、抗う事が出来なかったというのもある。
だがそれ以上に――心地よかったのだ。
誰かを思う事。
その相手の側にいられる事が。
そしていつしか私は自身に与えられた使命ではなく、自らの意思で彼の役に立ちたいと願う様になっていた。
――叶うならば、最期の瞬間まで彼と共に。
我ながら厚かましい願いだとは思う。
もし彼が真実をしれば、きっと私の事は許さないだろう。
何故なら、私は女神の
そう、マスターが大事に思っていた
それが私だった。
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