第26話 vs四天王

「爆雷炎!」


爆炎の魔女、レイゼの放つ炎の魔法に聖獣ベリオンの雷が組み合わさった。

二つの力が絡み合い、爆発的にその威力が上がる。


「ベリー、下がっててください!聖なる障壁ホーリー・バリア!」


両手を前に突き出し、闘気を含んだ空気の壁を生み出す。

そこに聖なる結界の魔法を組み合わせる事で、私は強力な防壁を生み出した。


称号スキルである【聖女】と【闘士】を併せ持つ私だけが使える最強結界だ。


雷を纏った炎がそこに直撃する。

凄まじい轟音が空気を震わせ、周囲に熱をまき散らす。

だが私の張った結界は微動だにしなかった。


「あれを止めた!?どうやら……聖女の肩書は伊達じゃないみたいね」


「降伏するのであれば、命までは取りません」


「はっ!舐めないで貰いたいわね!私は帝国四天王よ。たった一撃止められた程度の事で、怖気づく訳ないでしょ」


やれやれ。

早くアドルさん達と合流したいのに、この様子では無駄に粘られそうだ。


帝国皇帝・エターナル。


彼から感じた力は、今まで相対して来たどの人物よりも巨大だった。

恐らくブーストを使ったレアや、本気を出したガートゥでも敵わないだろう。


数では此方が勝っているので、そう簡単にやられる心配はないと思うが……


「魔女対聖女。どっちが上か――」


レイゼが急に言葉を途切ららせ、変な顔をする。

その視線は、何故か真っすぐに私の股間部分を捕らえていた。


この女、まさか……


「嘘でしょ!?聖女!?あんたが!?ありえないわ」


レイゼは驚愕に目を見開き、ありえないと口にする。


――別にありえない事ではない。


そう、神に選ばれた存在にとって、それは些細な事だ。


「何故、気づいたんですか?」


「あたしは熱で、周囲を感知できるスキルを持ってるのよ。爆雷炎の影響で辺りの温度が上がったから、ハッキリと見える様になったのよ。あんたの本当の姿がね」


「成程」


可哀そうに。

私は聖女だ。

相手が命乞いをする様なら、トドメを刺す事はしない。


――だが、秘密を知られたとなれば話は別だ。


私自身は大した問題ではないと思っている。

だが周囲に知れ渡れば、聖女としての名に傷が付く恐れがあった。


――その種を、ここで確実に狩り取らせて貰う。


「全く……聖女が聞いてあきれるわね。どこの世界におと――」


「無駄話はそこまでです。余り、あなたに無駄な時間を使う気はありませんので」


さっさと口封じをして、アドルさん達の所へ向かうとしましょう。


「ベリーさん。雷で牽制をお願いしますね」


「くぉん!」


ベリーはまだ子供だが、その力は成体にも引けを取らない。

私が聖女として献身した成果と言えるだろう。

まあテッラさんのシゴキも、少しは影響してはいるだろうが。


「では、行きます」


私は迷わず、魔女へと突っ込んだ。

その命を刈り取る為に。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「はぁ!」


「おおぉぉぉぉ!」


デカブツが突っ込んで来る。

奴は俺の剣を腕で受け止め、そのまま体当たりをぶちかまして来た。


「くっ!」


凄まじいパワーだ。

その激しい当たりに、俺は吹き飛ばされてしまう。


「くそっ!剣が効きやしねぇ!」


すぐさま身を起こし、吐き捨てる。

恐らく体に何らかの細工が施されているのだろう。

そこに奴の超パワーが合わさって、出鱈目な耐久力が生まれていると見た。


「うううぅぅぅぅ!!」


起き上った所に奴が突っ込んで来る。

巨体の割には素早いが、スピードは此方の方が上だ。


「こういう戦い方は好きじゃねぇんだがな」


攻撃は受けてなんぼ。

その方が戦っていて楽しい。

しかしパワーに勝る相手にそれをやると、待っているのは敗北だけだ。


相手の攻撃を素早くよけ、筋肉の薄そうな部分に剣を叩き込む。

それを何度か繰り返すが。


「あんま効いてる気しねぇな」


相手の動きは一向に鈍る事無く、ガンガン突っ込んで来る。

このままだと間違いなく長期戦になるだろう。


――そいつは勘弁だ。


あの皇帝と呼ばれる男から感じた力。

それはかなりの物だった。

レア達が簡単に負けるとは思わないが、さっさと駆け付けてやった方がいいだろう。


「それに、こいつと戦っても今一燃えねぇしな」


相手は明らかに正気を失っている。

恐らくだが、自我ももう残っていないだろう。


哀れな操り人形。


そんな奴相手に楽しめって方が無理がある。

本気を出して、一気に気終わらせるとしよう。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


足を止め――覚醒を発動させる。


動きの止まった俺に、デカブツが両手をハンマーの様にして叩きつけて来た。

俺は両手に剣を持ち、避ける事無くそれを受け止める。


地面が砕ける音。

勢いで体が肩まで地中に埋まってしまったが、まあダメージはない。

俺は中から飛び出すと同時に、奴の顔面に回し蹴りを喰らわして吹き飛ばした。


――覚醒。


それはかつての召喚主ともが俺に与えてくれた力だ。

寿命が減っていくと言う欠点はあるが、使うと能力が大きく跳ね上がる。


体が縮んでしまうのが少し不満ではあるが、まあある程度は仕方がない事だろう。


「さあ、楽にしてやるぜ」


手にした剣に、闘気と魔力を流し込む。

馬鹿みたいな耐久力をしてそうなので、中途半端な攻撃では通用しないだろう。

俺の持つ最強の奥義で一気に決める。


「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!」


翠魔閃光斬エメラルドバスター!」


突っ込んで来るデカブツ相手に、俺は真っすぐに剣を振り下ろす。

奴はそれを腕で受け止めようとする。


それは愚かな行動だった。

もし相手に意識があったなら、危険を察知して躱そうとしたはずだ。


だがそれを完全に失っている奴は、それ受け止めようとして――俺の一撃で腕ごと真っ二つになる。


その体は左右別々に地面に崩れ落ち、息絶えた。


「地獄であったら、その時は改めて勝負しようぜ」


心を奪われた化け物ではなく、一人の戦士として。


「さて、んじゃ救援に向かうとするか」


俺はその場を離れ、新たな主アドルの元へと向かう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「た……助けて……」


地に這うレイゼが命乞いをして来る。


「中々の腕でした」


純粋な魔術師かと思っていたのだが、鞭の腕もかなりの物で、彼女には思った以上に手古摺てこずらされてしまった。

流石は四天王といった所だろう。

まあそれでも私の敵ではなかった訳だが。


「お願い……お願いよ、貴方の秘密は誰にも言わないから」


「貴方みたいな女性の言葉を、私が信じるとでも」


「ひっ!?たす――」


彼女の顔面に闘気を込めた足を叩きつける。

頭部が砕ける感触が足から伝わり、彼女はそれ以降ピクリとも動かなくなった。


「気づかなければ死なずに済んだでしょうに。馬鹿な人。さて――」


残るは聖獣ベリオンだけだ。

満身創痍で立っているのもやっとといった感じではあるが、その瞳からはまだ闘士は失われていない。


まあ皇帝への忠誠というよりは、恐らく彼の持つ【支配者】のスキルの影響と考えた方がいいだろう。


「仕方ないですね」


聖獣に手をかけるのは好ましくない。

だがこれ以上、ここで無駄な時間を使うつもりはなかった。

早く皇帝との戦いに加勢しなければならないからだ。


――だから、立ちふさがるのならば容赦はしない。


「二匹目は必要ありませんので」


聖女としての名声を高めるための聖獣は、一匹いれば十分だ。

無理に二匹目を保護する必要性はない。


「行きますよ」


拳を構える。

突っ込んで全力の拳を叩き込めば、それで――


「クゥーン」


その時、ベリーが私の足元で悲し気に泣いた。

この子は気づいたのだろう。

私が目の前の同族を殺そうとしている事に。


「はぁ……まったく。何やってるのかしら」


それを見て、自分の間抜けな行動にため息が出た。

どうやら、レイゼとの戦いで少々気が粗ぶっていた様だ。

完全に冷静さを欠いてしまっていた。


――ベリーの前でベヒーモスを殺す。


それは聖獣との絆に罅を入れる行為だ。

真の聖女たる私が、傍に置く聖獣との間に不和の種を抱くなどありえない。


「大丈夫。殺したりはしません」


私はベリーに優しく微笑みかける。


「気絶させるだけなので、安心してください」


そこにベリオンが、最後の力を振り絞るかの様に突っ込んで来た。

私はそれをひらりと躱し、その背に乗って首元に手を回す。


ベリーへの健康チェックのお陰で、頸動脈の位置は分かっている。

私はそこをピンポイントで強く抑え込み、ベリオンの意識を奪う。


聖獣が元気な状態でなら、こんな真似は通用しなかっただろう。

だが、弱り切っている相手になら容易い事だった。


「念のため、回復しておきましょう」


頑丈な聖獣なら、このまま放置しても死ぬ事はないだろう。

だが万一を踏まえて、私は回復魔法でベリオンのダメージをほんの少しだけ回復しておいた。


完全に魔力の無駄ではあるが、これでベリーとの絆が強まるなら安い物だ。


「さあ、皆さんの所へと向かいましょうか」


私はベリーを連れ、その場を後にする。

アドルさん達と合流するために。

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