第24話 無力化

「本当に大丈夫なのか?」


遥か前方から、平原を進軍してくる帝国軍の姿が見えた。

話によると一万はいるらしい。


「リリアちゃんを信じて下さいな」


不安になって聞くと、いつもの悪い顔でるリリアが答えて来る。

顔だけ見れば全く信用が置けないのだが、彼女の場合は……まあ別だった。

ここまではっきり宣言するのだから、大丈夫だろう。


「頑張りましょう」


後ろからセイヤさんに声をかけられる。

彼女が今回の作戦の発案者だった。


戦争になんか参加したくはなかったが、冒険者である以上その辺りの拒否権はない。

どうせならばと、出来るだけ流血の少ない方法で寄与しようと彼女に持ち掛けられたのだ。

今回の作戦を。


「ええ」


内容は至ってシンプルな物だった。

俺のスキル【超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】を使って、敵軍を無力化した所を捕らえる。

という物だ。


背後を振り返ると、ずらりと王国軍の兵士が並んでいる。

その数は二千。

彼らは戦う為ではなく、無力化した帝国兵を捕らえるためにこの場にやって来ていた。


スキルが決まれば無抵抗になるとは言え、一万の兵を捕らえるとなると、それはかなりの大仕事になる。

彼らを縛る縄だけでも山いっぱいの荷物になるので、まあこれぐらいの人数は必要だ。


「本当に奴らを無力化する事など出来るのだろうな!」


ごついおっさんが俺達の元へやって来て、偉そうに聞いてくる。

この人は王国の将軍だ。


「ええ、問題ありません」


それにセイヤさんが答える訳だが、このやり取りは実はもう10回以上繰り返されていた。

まあ普通に考えれば、万の兵士が無力化されるなんて信じられない事だからな。

疑うのも無理はないだろう。


「ふん!貴様らが失敗したとみなしたら、この隊は即時撤退させるからな!」


「ご自由にどうぞ」


攻撃的ではあっても、言っている事は至極まっとうな事だ。

とは言え、リリアが太鼓判を押しているので失敗する事はないだろう。


「度肝を抜いてやりましょう」


下がっていく将軍の背を、リリアがニヤリと笑って見送る。

その表情から「動きの止まった帝国兵を見て、どんな顔をするのか見ものですねぇ」という声が聞こえてきそうだ。


「取り合えずド真ん中に突っ込んでスキル……か。結構度胸の居る仕事だねぇ」


そういうドギァさんの顔に曇りはない。

まあ成功すると確信しているんだろう。


「端っこからなら、気楽なんですけどね」


帝国兵は広範囲に広がってるので、端からスキルをかけても全体には届かない。

そのため、中心部に突っ込む必要があった。


――というか、ド真ん中でやっても実は全然届かない訳だが。


残念ながら、俺のスキルの届く範囲はそこまで広くはない。

だから一度に全員をというのは不可能だし、連発が効かないので手数でカバーする事も出来なかった。


じゃあどうするのか?


そこでリリアの出番である。

彼女の特殊魔法を使って、俺のスキルの効果範囲を無理やり広げるのだ。

そうする事で、中心部ならギリギリ全員を範囲に収める事が出来る。


らしい。


ま、リリアがその手の嘘を吐く意味がないので、範囲に関しては俺も心配してはいないが。

ほんと、攻撃以外は何でもござれな奴だ。


「そろそろですかね」


小さかった帝国軍がもうかなり迫って来ている。

少し緊張するが、そろそろ作戦開始だ。


「皆、準備はいいか」


「問題ない」


俺の言葉に皆が力強く頷く。

心の準備はオッケーの様だ。


因みに、ガートゥは既に呼び出している。

帝国軍を止めてからが本番だからな。


リリアの見立てでは、皇帝とその側近にはスキルが効かないらしい。

そして軍を止められたぐらいで彼らが撤退する事は絶対にないそうなので、皇帝達だけは力で制圧する必要がある。


万の軍を止められても止まらないって事は、それだけ自分達の強さに自信があるって事だろう。

相当な強敵に違いない。

気を引き締めていかないと。


「じゃあ、いこうか」


俺は指に嵌めた蝙蝠コウモリの指輪を発動させる。

これはパーティー単位で飛行できる便利なアイテムだ。


俺達六人と二匹の体が、空高く舞い上がった。

すぐさまその周囲に、リリアが球状の結界を発生させる。


単独で突っ込めば魔法や弓の的になってしまうが、こうやって結界を張っておけば安心して突っ込む事が出来る。

流石にこれが破られる心配はないだろう。


「おやおや、むーだですよぉー」


空から突っ込む俺達に、迎撃魔法が雨霰あめあられの如く襲い掛かって来る。

だがその全てがリリアの張った結界によって阻まれる。

その様子を見て、リリアが楽しそうに笑う。


「なんか後ろの方に人がいるべな。アレが皇帝だべか?」


テッラが遠くを指さす。


本隊よりも大分後方。

少数で動く人影が微かに影見えた。

皇帝は離れた後方にいるらしいとの話だったので、恐らく間違いないだろう。


皇帝おたのしみは後ですよ。あそこが軍の中心なので、降りてください」


「わかった」


別にお楽しみでも何でもないが、皇帝とはこの後嫌でも顔を合わせる事になるのだ。

今気にしても仕方がない。

俺はリリアが指さした場所に着地する。


「んじゃ、一発ぶちかましてやってください」


リリアが手を振ると、周囲を囲っていた結界が金色に輝き出す。

これで準備万端だ。


俺は大きく息を吸い込み――


「―――――――――――っ!!!!!!!!!!!」


声にならない雄叫び。


超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】を発動させた。

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