第20話 報告

「ダメでした」


薄暗い空間。

足元から上がる光だけが周囲を照らす場所に、二人の女が立っていた。


「あの姉妹。どっちも自分の方が勝つって思ってるみたいで、その後も自分達だけで十分だって思ってるみたいだよ……です」


呆れからか赤毛の女性が素の言葉を使ってしまい、慌てて言い直した。

どうやらもう一人の方が彼女より立場が上に当たる存在の様だ。


「困った子達ねぇ。一体誰に似たのかしら?」


女の言葉に、赤毛の女性が顔を顰める。

その表情は「あんたがそれを言うのか?」と言わんばかりだった。


「何か言いたそうねぇ?」


「いえ、別に何も……」


「あら、そう?」


女がおかしそうに笑う。

赤毛の女性の心中など察したうえで、それを我慢している姿を見て。


相手を揶揄って楽しむ、嫌な性格をしている事が良く分かる行動だった。


「言っておくけど、別に私の姿を模倣して作った訳じゃないわよ。あの子達は」


「それだけ瓜二つなのに……ですか?」


赤毛の女性の頭の中にある、あの子達と言われる二人の姿。

それは目の前の女性と非常によく似ている物だった。

瓜二つと言っていいだろう。


唯一つ決定的な違いがあるとすれば、それは年齢だ。

親子ほどではないが、その姿には大人と子供ほどの差があった。


「そもそも、片方は別に私が作った訳じゃないしね。作ったのは妹の方だけ。そっちのデザインを姉に合わせているから、双子みたいになっちゃってるけど」


「片方だけ?両方とも娘って言ってませんでしたっけ?」


それは赤毛の女にとって、どうでももいい事だった。

だが敢えて彼女は尋ねる。

振られた話を無視して、機嫌を損ねるのを避けたかったからだ。


「もちろん、両方とも私の娘よ。魂を分けた……ね。体なんて物は所詮入れ物でしかないから、些細な事。まあこの死体・・・を私が使ってるから、結果的に親子そろって同じ様な見た目になっちゃってるけどね」


「そうですか……」


「あっちの体が使えれば便利なんだけど、ゲームが始まった以上そう言う訳にもいかないのよねぇ」


女の視線の先。

そこには巨大な竜が座っていた。

その身は焔の様に赤く、その頭部には2対の瞳が真っ赤に輝いていた。


「ふふ、今なら貴方でも私を倒せるわよ。この体、そんなに強くないから」


女が挑発的に笑う。

その言葉通り、赤毛の女性がその気になればその体を引き裂くのは容易い事だった。

だがそれは所詮入れ物でしかない。

そんな真似をすれば、待っているのは確実な滅びだである。


「冗談を……2度も殺されちゃ溜まらないですから」


「あらそう?一度も二度も同じだと思うけど?」


二人の間にしばしの沈黙が流れた。

赤毛の女性は苦虫を噛み潰したかの様な表情をしており、片やもう一人の女は口の端を歪めて挑発的な笑みを浮かべている。


「ちょっと虐め過ぎたかしら。まあ今回の失敗に関しては、貴方だけのせいじゃないものね」


「文句は出来れば、あの姉妹に言って欲しいです」


「ふふ、そうね。今度会ったら、あの子達を叱らないといけないわね。まあそのためにも、貴方にはもう一働きして貰う事になるわ」


「今度は何です?」


赤毛の女性は明らかに嫌そうな顔をする。

内容におおよその予想がついているのだろう。


「戦争になって私の駒同士がぶつかったら、最悪メインの二人だけでも死なない様にお願いするわね」


「……分かりました」


それは無茶な命令だった。

だがそれを失敗すれば、赤毛の女性は始末されてしまうだろう。

断ることが出来ない以上、彼女は命を賭けてその任務に挑まなければならない。


「じゃ、お願いね。私は死体らしく、ここでじっとしておくから。朗報を期待してるわ」


「くそ女が……」


赤毛の女性は相手に聞こえない様、口の中で吐き捨てる。


「あら?何か言ったかしら?」


「いいえ何も……じゃあ行ってきます」


女に背を向けた赤毛の女性の目は、憎悪に燃えていた。

それは復讐したい相手に何もできず、その顎で使われる事に対する怒りの炎。

彼女は心の中で女を罵りながらその場を去る。


「ふふふ。ゴミは本当に哀れで面白いわねぇ。精々頑張って私の為に働きなさい。ま、不要になったら捨てちゃうんだけどね。ふふふふ、あーっはっはっは」


一人残された女は笑う。

その声は薄暗い広大な空間に響き続けた。

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