第15話 ダイエット
「ふぃ~」
軽い休憩のため、教会に備え付けられている工房から出て大きく体を伸ばす。
超貴重金属ダークマターを使った武器の製作はもう9割がた終わってると言っていいだろう。
「精が出ますね」
体を動かしストレッチしていると、背後から声をかけられた。
声の主は聖女のセイヤである。
「さっき騒がしかったみたいだべが?」
「ふふ、ドギァさんが一暴れなさっていたので」
「ああ」
そう言えば、あの体の大きなシーフの女性はこの教会への侵入でレベル上げしていたんだった。
まあセイヤが相手では、目標達成は難しいだろう。
目の前の聖女はとにかく隙が無い。
戦闘能力もそうだが、高い魔法能力や早い頭の回転。
弁も経ち、何をやらせてもそつなく――どころかほぼ完ぺきにこなしてしまう。
正に完璧超人。
ドギァには悪いが、彼女ではセイヤを出し抜くのは難しいだろう。
因みに――私はこの聖女を一ミリたりとも信頼していない。
何故なら、セイヤからはリリアと同じ様な胡散臭い匂いがしてならないからだ。
いや、それ以上と言っていい。
リリアはなんだかんだで、アドルの事をちゃんと気にしている節がある。
だがこの聖女からは、そう言った人間味をまるで感じない。
これは私の勘だが、少しでも利害関係が崩れればセイヤは迷わず私達を裏切るだろう。
アドルはその辺り、一切気づいてない様だが――
まあ何かあったら、その辺りはリリアが対処するだろう。
一応私も気を付けておくが。
「頼まれていた物をご用意しました」
セイヤが懐から金色の金属を取り出す。
それは聖金と呼ばれる、教会で生成される特殊な金属だった。
「助かるべ」
セイヤからそれを受け取る。
武具制作には適さない金属ではあるが、これには人の精神を安定させる効果があった。
私はこれを使い、ダークマターで作った剣の鞘と柄に特殊なコーティングを施すつもりだ。
「これがあれば、ダークマターの影響が抑えられるべ」
「それは何よりです」
ダークマターは特殊な魔力を帯びた金属だ。
その魔力には人の心を惑わせる力があり、長時間身に付ければ精神に影響が出てしまう。
かくいう私も、実は鍛治中に何度も不穏な気分に襲われている。
聖金のコーティングを施すのはそれを抑えるためだ。
まああのレアという女剣士クラスの精神力なら、無くても心配ない様な気もするが……
対策はないより施しておいた方がいいに決まってるので、ちゃんとしておく。
「しっかし……太り過ぎでねーべか」
セイヤに言った言葉ではない。
彼女が左手で抱える、ベリーに対しての言葉だ。
「少し運動不足の様でして」
彼女の腕の中にはぶくぶくと肥え太り切った、ベリーの姿があった。
まるで豚に角が生えている様な姿で、今もしリリアが名前を付けたら、きっと肉達磨か豚饅頭辺りになる事だろう。
「甘やかしすぎだべ」
セイヤは私の言葉に苦笑いを浮かべる。
まあ聖女という立場上、神の獣である聖獣にはきつく言えないのだろう。
――だからわざわざここに連れて来た。
聖金を用意した貸しを返せと、暗に突き付けるために。
「しょうがない。ワタスが運動させてやるべ?」
「まあ。よろしいですか?私はドギァさんの事があって教会から動けないので、そうしていただけると助かります」
つまり運動させるなら外でさせろ。
という事か。
まあ聖獣が教会内を走り回るのは問題があるのだろう。
そもそもそれが大丈夫なら、流石にセイヤも少しは運動させているはずだ。
「じゃあ三日間ほどワタスがベリーを預かるべ」
約束の期日までは1週間ほどある。
剣の製作は2~3日もあれば十分なので、余った時間は豚――じゃなくベリーのダイエットに当てるとしよう。
「お願いします」
三日間最低限の食事――そこらに生えてる雑草とか――ときつい運動をさせれば、流石に少しはましになるだろう。
「じゃあ運動だべ」
私が手を伸ばすと、ベリーが物凄く嫌そうに顔を逸らす。
どうやら体だけではなく、心まで豚になってしまっている様だった。
これは本格的に根性から叩きなおす必要がありそうだ。
「拒否権はないべ!」
首根っこを掴み、持ち上げる
「きゅうぅぅん」
鳴き声だけは可愛いが、残念ながら私には通用しない。
さあ、
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