第13話 プラン

「皆さん。暇を死ぬ程持て余す中、よくぞお集まりくださいました」


レアを救出してから二日。

俺達――俺、リリア、ベリー、テッラ、セイヤ、ドギァ、レアの5人と1匹と1体――は教会本部の一室に集まっている。


全員長テーブルの席についている訳だが、一人だけ立っている奴がいた。


まあ言うまでもないとは思うが、今のふざけた開幕の挨拶をしたリリアだ。


「さて……これからこのパーティー、‟リリアと愉快な仲間達”の行動計画を発表したいと思います」


「そんな名前にした覚えはないぞ?」


というか、パーティーに名前を付けた覚えすらない。

勝手に変な名前を付けるな。


「まあ、便宜上の仮名ですので。些細な事は気にしないでください」


まるで駄々を言うなと言わんばかりに、リリアが肩を竦めて首を横に振る。


「仮の名前でも駄目だ。パーティーって言え」


リリアは仮の名と言うが、ここでそれを許すとなし崩し的に押し切ろうとするのは目に見えていた。

だから釘は早いうちに差しておく。


「……はーい」


彼女は俺の言葉に不服そうに唇を尖らせてから返事を返した。

多分それでもちょこちょこ挟んで来ると思うので、その度に訂正する事になりそうだ。


流石に‟リリアと愉快な仲間達”なんて名前は絶対に嫌だからな。

何としても阻止せねば。


「方針の前に少しいいか?」


レアが手を上げる。

何か言いたい事がある様だ。


「ああ」


彼女は椅子から立ち上がり――


「まずは改めて礼を言わせてくれ。危険な所を助けて貰って助かった。ありがとう」


ダンジョン脱出時にも言われているのだが、彼女はもう一度俺達に深く頭を下げた。


「それともう一つ。ダンジョン攻略を手伝ってくれる事、心から感謝する」


彼女の言葉から深い感謝の念が伝わって来た。

声だけでもそれがハッキリと分る。


「私からは以上だ。続けてくれ」


「はいはーい。では続けまーす」


しんみりとした空気を、知った事かと言わんばかりにリリアが軽く流す。

ここまで終始一貫してマイペースだと最早アッパレと言いたくなる。


「ではまず、ドワッコ」


「前も口にしてたべが、それってひょっとしてワタスの事だべか?」


リリアが指さした事で、テッラもそれが自分を指す言葉だと気づいた様だ。


「そうですよー」


「変な呼び方は止めて、普通に名前で呼んで欲しいべ」


「お断りします」


リリアが人の言う事など聞く筈もなく、テッラは小さく溜息を吐いた。


「ドワッコには、例の金属を加工してレアさん用の武器を加工してもらい貰います」


レアを救った時に手に入れたダークマターという金属は、量が少なめだった。

作れて剣一本といった所だろう。

俺にはオリハルコンで出来たアドラーがあるので、テッラには二刀流様にレアの武器を作って貰う事にする。


「これがデザインですから、この通りに作ってください」


「むむむ、何でこんな形なんだべか?」


リリアからデザインの書いてある紙を受け取り、テッラが唸る。

それは柄から伸びた3本の刀身が螺旋状に絡まり、最終的に先端部分で一つになる形の刺突剣だった。


かなり複雑な形ではあるが、それには理由がある――


「経験値の為に決まってるじゃないですか」 


それは経験値だ。


テッラのユニークスキル【匠】は複雑な物を仕上げれば仕上げるほど、より多くの経験値を得る事が出来る様になっている。

それを利用し、彼女には出来るだけ多くの経験値をこの武器製作で稼いで貰うつもりだった。


「経験値だべか」


「ええ。狩りは人手が増えれば増えるほど安定しますけど、その分一人頭の経験値が減ってしまいますから。狩り以外で稼げる人は、可能な限りそっちで稼いで貰うつもりです」


最下層の魔物を狩るだけなら、俺とレアだけで十分だ。

だから他の皆には、称号スキルで経験値を稼いで貰う予定だった。


「期間は2月程差し上げますんで、早めに出来たら鋳つぶして作り直してくださいね」


「それはドワーフとして承服しかねるべ。ワタス達は一本一本、魂を込めて鍛えてるべ。それを潰して作り直すなんて真似は出来ないべ」


一本一本魂を込めて鍛える……か。

その熱意があるからこそ、ドワーフの作る武器は優秀なのだろう。


作って潰して作って潰してで、いくらでも経験値を稼げると思っていたのだが、少し考えが甘かった様だ。


「ふぅ……仕方がないですねぇ。まあリリアちゃんは寛大なので、その我儘を許しましょう」


リリアにしてはあっさりとテッラの主張を認める。

ひょっとしたら、最初からその事に気付いていたのかもしれない。


その上で求めて、我儘として許す事で貸しを作る。

まるで悪人の手口だ。


「では次はセイヤさん。貴方は今まで通り、神殿でお勤めを頑張ってくださいな」


「それでよろしいんですか?」


「ええ」


セイヤさんは称号スキルから得られる経験値だけで、レベルが330にまでなっている。

彼女の場合、下手に狩りに参加してもらうより普段通りの生活を送って貰った方が経験値を稼げるはずだ。


「ああ、それと。ベヒンモスも預けますんで、世話の方をよろしくお願いします」


ベリーはまだ子供だからな。

戦いに参加させるよりは、教会で食っちゃねしてた方が育ちはいいだろう。

セイヤさんの魔力があれば食事の心配もないしな。


それに聖女として聖獣の世話をすれば、彼女の称号スキルによる取得経験値も増えるはず。

正に一石二スライムだ。


「お任せください」


「おっと、大事な事を忘れてました。これから教会本部に毎日泥棒が侵入しますんで、そこの所もよろしくお願いしますね」


「毎日泥棒?」


リリアの不穏な言葉に、セイヤさんの視線が鋭くなった。

まあ自分の所に泥棒が入る。

しかも毎日とくれば、それは当然の反応だった。


内心穏やかではないだろう。


「ええ。詳しいお話はドギァさんの行動計画で説明します」


「私はシーフだが、泥棒ではないぞ?」


急に話を振られ、ドギァさんは驚いて返事する。


実は彼女は、俺達のパーティーに加わってくれる事になっていた。

ドギァさんが言うには、俺達が見事にレアを救った事で希望を見出せたからだそうだ。

此方としては彼女の申し出は大歓迎だった。


「似た様なもんですよ。という訳で、ドギァさんにはこれから毎日教会に潜入して貰います。最終目標は、降臨の聖殿にある女神像への落書きにしときましょう。頑張ってください」


「いやいやいや!無茶苦茶だろう!捕まったらどうする――というか絶対に捕まるぞ!」


教会本部は人が多い。

当然警備の数もかなりの物だった。

それを抜けて聖域ともいうべき場所に潜入するのだ、それは神業に等しい行為だろう。


普通に考えれば絶対に捕まる。

だが――だからこそだった。


ドギァさんのレベルは148しかない。

しかも経験値アップスキルの恩恵などもないのだ。

普通にレベルを上げたのでは、戦力として期待できる様になるまで相当な時間がかかってしまう。


だから彼女には無茶をして貰うのだ。

称号スキルである【シーフ】で、ガンガン経験値を稼ぐ為に。


「という訳でセイヤさん。彼女をとっ捕まえても、追い出すだけでお願いしますねぇ」


「……分かりました。それが邪神討伐に繋がるのであれば、教主様に許可を貰っておきましょう。ですが――当然教会は彼女の侵入を全力で阻止します。よろしいですね」


「もっちろん。バカスカとっ捕まえてやってください。その方が経験値になりますし」


「はぁ……まさか仲間を救うために、泥棒の真似事をさせられるなんてね」


「頑張ってください」


それ以外、言葉のかけようがない。

心情は分かるが、彼女には冗談抜きで頑張ってもらいたい所だ。


「で、私とレアさんとマスターはダンジョンで狩りです。アイテム収集も兼ねての」


「レア、よろしく頼むよ」


「ああ、此方こそよろしく頼む」


まずは下層の倒せていない魔物達だ。

レアもいるので、当然エリアボスも狙う。

それが終わってから最下層で本格的にレベル上げだ。


最下層のエリアボスは……まあ行けそうならって所だな。

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