第7話 メンバー

「二人とも、助かるよ」


ケネスの話を聞き、その2時間後には俺達はダンジョン入口に集合していた。

レアの救出に向かうために。


「邪神の眷属討伐には、レア様は不可欠ですから当然です」


急な話ではあったが、セイヤとテッラの二人は快く同行すると言ってくれた。


「このワタスが鍛えたオリハルコン製のハンマー。ピコピコハンマーが火を噴くべよ」


テッラが手にしたハンマーを軽く回す。

可愛らしい名前ではあるが、その際の風切り音は重々しい物だった。

かなりの重量があるように感じる。


俺の剣はかなり軽いのに謎だ?

どうやって重くしたんだろうか?


「おや?リリアちゃんとベヒンモスへの感謝の言葉が聞こえませんが?」


「はいはい。ありがとう。後、名前はべリーだからな」


ベリーは白蛇の様な姿に変身して、リリアの腕に巻きついている。

どうやらこの状態でも雷を放てる様なので、リリアが遠距離武器代わりに使うつもりらしい。


まあ前に出して戦わせるのは少し不安があるからかな。

丁度いいだろう。


ベリーのレベルは101だ。

特殊なテイムの効果で俺のレベルの半分だけ強化されているので、実質レベルは181になっている。

決して低くないレベルではあるのだが、何せあのレアが追い詰められている様な状況だ。

そう考えると、レベル181で前に出すのはリスクが高いと言わざる得なかった。


まあ一応ベリーにも【生命力Lv2】――ベヒーモスでもスキルポーションは有用だった――を覚えさせているので、万一があっても大丈夫ではあるのだが……まだ小さな子供に無理をさせるのは忍びないからな。


「よし、行くか」


ブースト込みで考えるのなら、レベル300台が3人。

リリアに至っては、攻撃能力がないとはいえ400オーバーだ。

きっと何とかなるだろう。


「誰か来ますねぇ」


王都の北のダンジョン入口は周囲を囲われ、要塞の様になっている。

万一魔物が出て来た時に対する備えだ――出てこない事はほぼ確定しているが、保険として。


「ん?」


あけ放たれている通用門から、3つの人影が駆け寄って来るのが見えた。

一人はケネスだ。

残りの二人は見た事ない人物だった。


「フィーナ!?……いや、以前言っていた人形か」


先頭を駆けて来た体格のいい女性がリリアを見て驚くが、直ぐにヒロイン・ドールと気づいた。

リリアの事を知っている人間は少ない。

特徴から、この人が女神の天秤のリーダーだと俺は予測する。


「間に合ったみたいだな」


「間に合った?」


少し遅れてケネスともう一人の男性がやって来る。

恐らくこの男性は――


「私の名はトーヤだ。そっちのでかいのがドギァ。君がアドル君だね」


「あ、はい」


やはり、二人は女神の天秤の生き残りだった。

だが彼らは冒険者を引退したと聞いている。

何故こんな場所にいるのだろうか。


「レアの救出に向かうのだろう。出来たら俺達にも協力させて欲しい」


どうやら俺達に協力するため、ここへ急いで駆け付けてくれた様だ。


「本当は……レアの事は諦めるつもりだったんだ。自分で言うのもなんだが、最低な話だよな」


ドギァさんが辛そうに口を開く。

誰も彼女を責める事などできないだろう。

ダンジョン最下層で行方不明になった人間を助けられるなんて、普通は思わない。


俺だって、リリアや仲間達が居なければ同じ決断をしていた筈だ。


「けどあの子が生きてるって聞いて。あんたが救出に向かうって知って。居てもたってもいられなくなっちまったんだ。だからあたしも連れて行ってくれ!」


「よろしくお願いします」


俺はドギァさんに左手を差し出す。

彼女はその手を両手で力強く握り返した。


「ありがとう!」


いたた。

あいたたた。

この人めっちゃくちゃ馬鹿力だ。


流石に痛いからと言ってそれを顔に出すのは格好悪いので我慢はするが、はよ離してくれ。


「アドル。俺も役に立つかは――」


「はい!男性連中は帰って下さいねー」


ケネスの言葉を遮って、リリアがトーヤさんとケネスに帰れと言い出す。

100歩譲ってケネスは分かる。

能力的に厳しい物があるからな。


だがトーヤさんは転移魔法まで使える優秀な魔法使いだ。

断る意味が分からない。


「待ってくれ!俺はともかく、トーヤさんは――」


「事態は一刻を争ってますからねぇ。私達は全力疾走で現場に向かう事になりますので、ご遠慮ください。足の遅い貴方達に合わせていたら、レアさんが死んじゃいますからねぇ」


それは至極まっとうな理由だった。

ドギァさんはシーフ系だから足は速そうだが、魔法使い系の二人は間違いなく鈍足なはず。

急ぐのなら、確かに連れていくべきではないだろう


トーヤさんの転移魔法でダンジョン内に飛べればそんな事は気にしなくて済むのだろうが、残念ながら外部から内部に転移する事は出来ない様になっていた。

何故そうなるのかまでは知らないが、結構昔から知られる有名な話だ。


「ケネス。それにトーヤさん。お気持ちだけ頂きます。レアの事は俺達に任せて下さい」


「自分の足の遅さが恨めしいよ」


「アドル……お前にこの前の借りを返したかったんだがな……」


この前と言うのは、エビルツリー戦で彼らを救った時の事だろう。


「それなら――もう十分に返してもらったさ。レアの危機を教えてくれて、ここに駆け付けてくれただけで十分だ。ありがとう」


「そうか……」


もうケネスを恨んではいない。

確かに追放された事は辛かった。


だが、今の俺があるのはそのお陰だ。


追放されたから強くなれた。

追放されたからこそ、フィーナを助けると言う目標を真っすぐに持つことが出来たんだ。


だから――


「ま、あれだ。戻ってきたら一杯やろうぜ。俺を追放した事の釈明ぐらい聞いてやるよ」


「アドル……お前酒飲めないだろ」


「ああ、そういやそうだった」


俺は軽くおどけて見せる。

昔はこうやってよく馬鹿なやり取りをしていた物だ。


「ふ。追放した釈明はしないさ。お前が剣姫を救い。ダンジョンを完全攻略した暁には、自分を追放した見る目のない馬鹿が居ると、周りに吹聴してくれていい。だから……死ぬなよ」


「おう!お前に大恥かかせてやるよ!」


ケネスと握手する。


「男同士で手をにぎにぎするとか、見ていて寒気しかしないんでさっさと行きましょうか」


リリアが出発を口にする。

もうちょっといい方はないもんかね?

まったく。


「ドギァ。俺の分も頼む」


「分かってる」


「アドル君。レアを頼む」


「任せておいてください。必ずレアを救ってきます」


俺はそう力強く宣言し、ダンジョンへと向かうのだった。

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