第18話 呪い

「よし。後一体だ」


ダンジョン下層でミノタウロスを倒すと、レベルが99に上がった。

現在の総経験値は19億6千万。

下層の魔物を後一体でも倒せば、目標だったレベル100に上がるだろう。


「ほんと【超幸運】様様だな」


もしブーストがなかったなら、きっと未だに中層で狩りをしていた筈だ。

下層と中層では経験値効率がまるで別世界なので、きっとまだレベル90にすらなっていなかっただろう。


アミュンが幸運ポーションを返してくれて本当に良かった。


……ま、刺された事は絶対許さないけどな。


「あっちに魔物の反応がありますねぇ。ちゃちゃっと上げちゃいましょう」


リリアがダンジョンの奥を指さした。

俺はその勧めに従い、奥へと進む。


「人間?いや――」


巨大な空間。

その中央には黒のスーツとマントを身に纏い、シルクハットをかぶった老紳士が立っていた。

当然こんな場所に人間が単独でいる訳がないので、相手は魔物に間違いない。


「ヴァンパイアか」


人の生き血を啜ると言う高位の魔物で、暗闇の中では無類の強さを誇ると言われている存在だ。


「……つか、エリアボスじゃねぇか!」


「あれ?バレちゃいました?」


「バレるに決まってるだろうが」


酷い悪ふざけだ。

もし俺が気づかず仕掛けていたら、冗談抜きで昇天物だぞ。


「まあ安心してください。あれと戦うのは私ですし」


「はぁ?」


「忘れたんですか、マスター。私、攻撃手段はありませんが浄化系は出来るって事を」


そういえば以前、浄化という名の暴力でゴーストを消し飛ばしていたな。

とは言え、相手はエリアボスだ。

いくら何でも無理がある。


「ふふん。今無理って思いましたね?でも大丈夫です。レベルが上がってブーストまで覚えたリリアちゃんの敵ではありませんよ。あんな雑魚」


「雑魚ってお前……」


だが確かに……


リリアのレベルは現在209相当だ。

ブーストを使えばそれが418にまで上がる事になる。

最下層のエリアボスがレベル300程と考えると、下層のエリアボスぐらいなら倒せてもおかしくはないだろう。


「本当に勝てるのか?」


「余裕ですよぉ。一発で始末するのでおまかせあれー」


リリアが片足を上げて、変なポーズをとる。

本人は余裕を現してるのか知れないが、見てるこっちは逆に不安になって来るんだが?


「では」


リリアがポーズを解き、左手を胸元に水平に構える。

そして右手を左手の前で垂直に立てて十字架の様な形を作った。


「おい!?ちょっとまて!」


勝手に話を進めて攻撃を仕掛けようとしたので慌てて止める。

だがそれよりも早く、リリアの全身から膨大な魔力が立ち上り攻撃が発射されてしまった。


「リリアちゃん!聖極光ビーム!」


交差された十字の腕から、強烈な青い閃光が走る。


その膨大の光はバンパイアを飲み込み。


そして一瞬で消滅させてしまった。


「マジかよ……エリアボスだぞ」


ドロップ品が地面に転がっている事から、エリアボスが死んだのは確実だった。


まさか本当に一撃で倒してしまうとは……

アンデッド系相手だと冗談抜きで無敵だな、こいつ。


「ティアラを装備したら、ビームはティアラから出る様になりますよぉ」


「いや、それは別にどうでもいっ――」


右手に鋭い痛みが走る。

見ると、手の甲にそれまでになかった赤い痣が浮かび上がっていた。

まるで一対の瞳の様な形の、赤い痣だ。


「なんだこりゃ!?」


痛みは一瞬で収まったが、痣は消えずに残っている。

一体なんだってんだ?


「んんー、右手がどうかしたんですかぁ?」


リリアが俺の手を覗き込んで来る。

だが彼女は眉根を顰めるだけだ。


「何にもなってませんけど?」


右手の甲には、はっきりと赤い痣が浮かんでいる。

だがリリアは不思議そうに首を捻るだけだ。


ひょっとして……見えていないのか?


「右手に痣が出来てるんだが?見えないのか?」


「痣……ああ、成程」


リリアがニンマリと嫌らし笑う。

凄く嫌な表情だが、どうやら何か思いついた様だ。


「いわゆる、中二病って奴ですか」


「は!?中二?なんだそりゃ?」


聞いた事のない病気だった。

それがこの痣の正体なのだろうか?


「成程成程。マスターもそういうお年頃なんですねぇ。ま、少し遅い気もしますが」


リリアが腕を組んでうんうんと頷く。

凄く馬鹿にされている気がする。


なんか今のこいつに聞くのは腹が立つので、俺は取り合えず鑑定の魔法で自分の状態を確認してみた。


「――なっ!」


思わず声を上げる。

スキル欄が赤く輝き、その一番上にな赤黒い文字が浮かび上がっていた。


邪神グヴェル加護呪い


スキルの一番上に刻まれたその不吉な文字を見て、俺は背筋に寒い物が走った。

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