第30話 フレンドリー・ファイヤー

「思ったより数が多いな」


ダンジョン中層を東に進んだ突き当りの広い空間。

その中央にエリアボス――エビルツリーが静かに佇んでいた。


エリアボス・エビルツリー


その姿は巨大な枯れ木の様な姿をしており、無数に伸びた枯れ枝は伸縮自在の鞭となって冒険者達を襲う。


「偉そうな口を叩いてた割に、チキンだった訳ですか。クッソつまらない男ですね」


ギャンの集めた人員の数は約50名。

その大半は30後半から40代の冒険者からなる。


俺が想像していたよりも人数が多い。

欲張って人員を絞ると思っていたが、どうやら当てが外れた様だ。


「地響きも参加してるな」


討伐メンバーの中に、リーダーのスキンヘッドの男の姿が見えた。

当然だがガンドの姿はない。

まあ奴は今、強制労働の真っ最中だろうからな。


「失敗は期待できそうにないな」


俺は腕を組んで壁にもたれ掛り、ため息を吐いた。

レベルは80にまで上がっている。

ギャン達が良い具合に削ってくれれば、楽にエリアボスを狩れると期待しいたのだが、拍子抜けだった。


「そうですかぁ?所詮は寄せ集めの雑魚ですから、ボロがボロボロ出て来てきますよ、きっと」


「んな訳あるか」


残念ながらそれはない。


ギャン達がわざわざ1か月の準備期間を設けていたのは、エビルツリーを想定した連携の訓練をする為だ。

実力不足ならともかく。

足並みがそろわずに討伐を失敗する可能性は限りなく0に近いだろう。


「まあ折角だ。討伐を見学していくとしよう」


エリアボスとの戦闘経験は俺にはない。

それを体験できるわけではないが、見るだけでも得られる物はあるだろう。


それを期待してか。

もしくは興味から来るものか、空間の外周部には他の冒険者パーティーの姿がちらほら伺えた。


「しっかし、足元がクシャクシャして気持ち悪い場所ですねぇ」


リリアが足元の苔を踏みつけ、顔を顰める。

この空間エリアは一面苔で覆われている。


ヒカリゴケだ。

お陰でリリアの魔法なしでも見通しは良好だった。


「別に滑る訳じゃないから、大した問題はないだろ?」


「足に伝わって来る感触が気持ち悪いんですよぉ。まったく、乙女心が分かってませんねぇマスターは」


どこが乙女心だ。

単なる好き嫌いじゃねーか。


「はいはい。っと、そろそろ始まりそうだな」


メインと思われるパーティーがエビルツリーの正面に陣取る。

人数は30人程だ。

その両サイドに、10名づつの2パーティーが展開していく。


「おや、前後で挟まないみたいですね」


「エビルツリーには視覚がないらしいからな」


太い幹に醜い顔のが浮かび合ってはいるが、その目の部分は空洞だった。

そのためこの魔物に視覚はなく、此方の動きは何らかの能力で探っているのだそうだ。

更に伸縮自在の枝は360度全てに対応出来るため、背後を取る意味は殆どなかった。


「後、挟むと同士討ちもあるし」


直線上に敵を挟むと、外した魔法や弓が反対側の味方に当たる可能性があった。

それを避けるためだろう。

綺麗に並んでいる間は大丈夫でも、少しでも隊列が崩れるとそのリスクが跳ね上がるからな。


この手の大規模戦だと、フレンドリーファイヤーは最悪壊滅に繋がりかねない。


「成程。でも、サイドは挟んでますけど?」


「両方とも近接パーティーだ」


同士討ちを避けるため、両サイドのパーティーは最低限回復を行えるもの以外は近接で固められていた。

後はメインパーティーの魔法のタイミングで引けば、同士討ちの心配は全くなくなる。


「よく考えられてるよ」


まあ陣形や戦い方を考えたのは、ギャンではなくケネス辺りだろうが。


「はー、やだやだ。くっそ雑魚どもの癖に、小賢しい事考えますねぇ。正面から何も考えず突っ込んで、スキルドカーンのマスターを見習ってほしいもんですよぉ」


「それ、褒めてるのか?」


「大絶賛です」


今の俺の狩りは合理的とはいえ、脳筋全開のスタイルだ

そのため、どうにも褒められている気がしない。

まあそう感じるのは、口にしたのがリリアだからだろうが。


「あ、始まりそうですよ」


視線をリリアからギャン達に移す。

当然、緋色の剣はメインパーティーに組み込まれている。

そしてこの連合のリーダーは――


「撃て!!」


ギャンの野太い号令が響く。

同時に無数の魔法がエビルツリーに放たれた。


戦闘開始だ。

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