第15話 お前はダメ
剣姫レアは生まれながらにしての天才だった。
通常、ユニークスキルを持って生まれて来る人間は少ない。
そんな中、彼女は生まれつき6つのユニークスキルを持って生れて来ている。
それだけで彼女の特異性が分かるだろう。
因みに、俺の幼馴染だったフィーナは3つのユニークスキルを所持していた。
【魔法強化】――魔法の威力や効果が2倍になる。
【魔力ストック】――限界を超えて最大3倍まで魔力を蓄積する事が出来る。
【魔法高速習得】――魔法の習得速度が大幅に向上する。
この三つだ。
そしてこのユニークスキルがあったからこそ、彼女は聖女候補として教会に引き取られた。
まあ結局は聖女にはなれなかったわけだが、それは決してフィーナが無能だったからではない。
むしろ3人いた聖女候補の中で最も優秀だったからこそ、彼女は女神の天秤への出向を命じられたのだ。
彼女が聖女になれなかった一番の理由は――ユニークスキル【聖女】を習得した人間が見つかったからに他ならない。
スキル【聖女】は聖女としての資質が大幅に上昇し、更に訓練によってそれらの能力が大幅に伸びるという効果を発揮する強力なスキルだ。
このスキルを持つ者は、正に聖女になるべく生まれてきた存在と言っていいだろう。
そしてそんな人間が見つかった以上、それ以外の候補がいくら優秀だったとしても、他の人間を教会が聖女に定める事はない。
「う……うぅ……」
気絶していた地響きの面々が目を覚ましだすと、剣姫レアは俺から離れ、魔法で自身の涙で腫れた顔を素早く回復させる。
「みっともない姿を見せてしまった」
「気にしないでください」
彼女はそう言って気まずそうにする。
だがその涙は、仲間であったフィーナの事を思って流してくれた涙だ。
それがみっともないはずなどない。
「私はレア。剣姫の二つ名を持つ物だ」
「剣姫レア!?」
起き上った地響きの連中は、その名を聞いて何故自分達が気絶していたのかに気付いた様だ。
皆一様にその顔色を青く変える。
「お前達の悪辣な行動は、一部始終見させて貰った。この事はきちんとギルドに報告させて貰う。覚悟しておけ」
さっきまでとは違う冷たい声で、地響きの面々にレアは淡々と告げる。
ダンジョン内で人を襲う行為は、冒険者にとって最も忌み嫌われる行為だ。
当然それが露見すれば、彼らには重いペナルティが課せられる事になる。
「ま、待ってくれ!俺達はただその……そいつ――アドルをパーティーに誘いたかっただけなんだ!」
「縛って相手を殺す事が勧誘だと?」
レアは腰の剣に、静かに手をかける。
そこから放たれる殺気は本物だ。
余りにもふざけた言い訳に、頭に血が上っているのだろう。
どうやら彼女は落ち着いた雰囲気とは裏腹に、結構短気な様だ。
「こ!殺す気なんてねぇよ!そんな事をしたらガーディアンに殺されちまう!」
「そこの男は、外に運び出して殺すと言っていた」
レアは倒れているガンドに一瞥を投げかける。
奴はまだ伸びたままだ。
まあこっぴどくやられていたからな、そう簡単には目を覚ましはしないだろう。
「そ!それは只のハッタリだ!俺達はそんなことしねぇよ!本当だ!」
まあこれは事実だろう。
ガーディアンが出ないとはいえ、外での人殺しはリスクが高すぎるからな。
そもそも今回の揉め事で俺はボコボコにされてしまった訳だが、仮にその事を国やギルドに訴えても、奴らにしらを切られたらどうしようもなかった。
残念ながらそれを証明する術がない。
だから、俺を口封じにわざわざ殺す意味はないのだ。
ガンドの言った事も、冷静に考えれば只のハッタリだと分かる。
もっとも、今回は剣姫レアがこの場に居合わせてしまったので、奴らがしらを切る事は不可能になってしまったが。
何せ信用度が段違いだからな。
「そんな言葉を私が信じるとでも――」
「いやまあ、そこは本当だと思います」
「……」
彼らを庇う様な言葉を口にした俺を、レアが目を見開いて凝視する。
「何を言っているんだこの男は?馬鹿なのか?」そう顔に書いてあった。
思ったより分かりやすい人だ。
「パーティーの財政状況が悪くて、つい魔が差したんだと思います。今回は穏便に済ませて貰えませんか」
彼らに報復するのは簡単だ。
黙って見ているだけでいい。
だがこのままだと――他人を寄ってたかって殺そうとしていたとなると――極刑もあり得た。
流石にそれは不憫だ。
だが中途半端な罰則で治めてしまうと、彼らから逆恨みされる可能性が出て来る。
こういう場合は中途半端が一番まずい。
0か100でないと。
少し腹は立つが、ここはなかった事にして彼らに恩を売るのが正解だろう。
勿論、レアがそれに納得してくれればの話ではあるが。
「貴方がそういうのなら……私は構わないが……」
「ありがとう」
「すまねぇアドル!それに剣姫さんも恩に着る!――ぅっ……」
地響きのリーダーが俺達に寄ろうとするが、レアが剣先を向けてその動きを制する。
俺の頼みを聞いてはくれたが、彼らに関する嫌悪感が消えたわけでないのだからまあこの対応は当然の事だろう。
「ただし、今の話には一つ条件がある」
ガンドの事だ。
奴は絶対に恩なんて感じるタイプの人間じゃない。
必ず俺に、何らかの報復をして来る筈だ。
そんな危険人物を放っておく訳にはいかない。
「普段から俺に絡んできていた奴が、頭に血が上って単独で俺を殺そうとした。そう証言してくれ」
「ぬ……俺達に仲間を売れって言うのか?」
「彼の性格はあんた達も良く知ってるだろう?絶対逆恨みしてくるに決まってる。俺は自分の身を守りたいんだよ。それとも、あんた達が俺を四六時中ガードしてくれるのか?」
勿論、最後の一言は皮肉だ。
実際にそんな事されたら迷惑なだけだからな。
「……」
俺の言葉に、地響きの面々が無言で顔を見合わす。
だが誰も口を開く事無く、直ぐに全員が黙って頷きあった。
「分かった。ガンドの奴にはちゃんと責任を取らせる」
少しは粘られるかと思っていたのだが、地響きの面々はあっさりと切り捨てる事に同意する。
……こいつらも大概だな。
まあ別にいいけど……粘られても面倒臭いだけだし。
「じゃあガンドを外に運び出して、ギルドに突き出しておいてくれ。もちろん後からギルドに行って確認するけど、その際におかしな話が出れば……言わなくてもわかるよな?」
「も、勿論だ!せっかく貰った温情を無駄にするほど俺達も馬鹿じゃねぇよ!」
リーダーの男は気絶しているガンドに駆け寄り、乱雑に担ぎ上げた。
乱暴に扱われたせいか、ガンドが痛みに目を覚まし呻き声を上げる。
だが彼はそんな事などお構いなしだ。
切り捨てると決めたからなのか、それとも元から大雑把なのか……
「じゃあ俺達はガンドの奴をギルドに突き出してくる」
物の様に扱われ痛みに呻くガンドを見て一瞬哀れに思えたが、こいつを自由にしておいたらこれからの自分の行動に支障が出てくるのは目に見えている。
心を鬼にして、呻き声を上げて運ばれていくガンドを黙って見送った。
「ありがとうございます。助けて貰った上に、俺の頼みまで聞いて貰って」
「気にしなくていい。私も……その……貴方の胸を借りたしな……」
改めてお礼を言うと、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
そういえばフィーナの手紙に、剣姫が実はテレ屋だと書いてあった事を思い出す。
その時はフーン程度に読み流したが、成程確かに手紙に書いてある通りだ。
「それより……今からダンジョンを出て私のとっている宿に来てくれないか?」
さっきまでのテレ顏が嘘の様に、彼女は急に真剣な表情に戻る。
「宿……ですか?」
「ああ、貴方に渡す物があるんだ」
「渡すもの?」
俺に渡すものとは一体なんだろうか?
全く思いつかない。
「ソロになった君のためにフィーナが用意していた物。言ってみれば、彼女が貴方に残した遺品だ」
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