第39話 フジさんの死

日記  198x年...


[死]




さて、フルパワーに戻したRZVと俺は

タクシーの仕事が明けた日とかに

楽しく、ワインディングで全開走行を続けていた。



悪友Yやその周辺で、日本仕様の180km/hメータが

どこまで針が回るか、なんてハナシをして笑っていたが...



危険だ、なんて考えた事もなかった。




そんなある日、フジさんが死んだと言うハナシを聞いた。



フジさんは板金屋で、30代後半の独身。

RX350を自宅倉庫に持っているマニアだ。



この頃はドカティに夢中で、モト・トランスの350ヴェントを

シルバーのメタ・フレークに塗装して楽しんでいた。


450デスモにのりたかったらしい。若い頃。


オレンジ色のタンクに憧れたのだろう、その気持ちはよく分かる。




で...



このフジさん、走りがかなり危険な事は前に書いたが

対向車が来ても平気ではみ出して行くし

ブラインド・コーナーでもアクセルを緩めない。



今、思うと速い2stバイクに対抗するには

コーナリングスピードで稼ごう、と考えていたフシもあるが....



彼は、ついに....



その日は、やっと手に入れたドカ900ssの中古(モチロン当時だからデスモのLツインだ)

に、初めて乗っていったらしい。


例の、スカイライン・コースへ。




そして。



早朝、誰も居ないだろうとアウト・イン・アウトを決めていたその時....

対向してきた4輪(BMWだったらしい)が同じようにアウト・イン・アウト。




左コーナーを走っていたフジさんは

もともと無茶なスピード、乗り慣れないマシンだったんで

そのまんま正面衝突。


あっけなく死んでしまった。



現場を見ると、フジさんは自車線の中だったので

相手が悪いと言う事になるらしい。



つまり、いつも対向車線に飛び出していたフジさんは

反対の立場に立って恐怖を感じた次の瞬間、この世に別れを告げた、と言う事になる。




これを因果応報と言う奴も居たが


俺は、さすがにそこまで言う気になれなかった。





こうして、コーナーにまた名前が付いた。






スカイライン・コースの終わり近く、ある左コーナーの出口には

ドカのシート・カウルと、フジさんの写真が置かれている。



....今でもあるかどうかは知らない。






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