4 1時間後、北西の入り口で待つ

 深夜、住民ホールに立つブーリン警部は、ドス紫の顔色をしていた。

「やむを得ん、ユビキタスの護送を1時間後に行う」

「ええっ、こんな急に⁉︎」

「クレイト市警から連絡があった。非常にまずいことが起きている。ここに朝まで置いて置くのは危険だ」

「しかし」

「サウザス警察からギャリバーを何台か借りる。クレイト警察にもこっちへ向かわせる。中間地点で受け渡す。うまくいけばコンベイ付近で合流だ、それで進める」


 警護官が逃走した件で、現場は窮地に陥っていた。

「クラウディオ、部下とともに護送に同行してくれ」

「了解だ。準備を済ませてこよう」

 クラウディオはマントを翻し、足早に去っていった。

「そして……申し訳ないが、ショーン・ターナー君にも同行をお願いしたい」

 ブーリン警部が、崖牛がけうし族の2本角をグッと下げた。


 ショーン、紅葉、リュカ、アーサー記者の4人は、あれからすぐ役場へと訪れていた。

 何か情報協力できれば、との想いで来てみたが、ラヴァ州警察の関心事はすでに、『ユビキタスの護送』ただ1点になっていた。

「ショーン君、【帝国調査隊】でもないのに巻き込んでしまってすまない。だが、ユビキタスは呪文の使い手だ。彼の仲間もそうかもしれない。クラウディオひとりは、どうにも不安だ」

「いえ警部。僕は平気です……でも、ギャリバー護送ってかなり時間がかかるんじゃ……列車を待って、コッソリ行った方がいいのでは?」

「だめだ、何が起きるか分からない。当初の護送計画は知られていると思った方がいい。予定を変更しないとまずい」

「——まって、私も行く!」

 ショーンの背後から、紅葉の大声がホールへ響いた。



「紅葉っ⁉︎ 何言ってんだ、ダメに決まってる!」

「アルバの事なら、警察より私の方が詳しいよ! わたしも行く!」

 長い鉄斧を持った女がひとり、役場ホールで叫ぶ様子に、周囲は怪訝な表情でうかがっていた。

「……本当かね?」 

「やっ…」

「──ほんとよ! ターナー夫妻からアルバのあらゆる事を教わってきたの、対処法も熟知してる!」

 警部はひどく困惑した表情をしていた。ショーンとリュカだけは事実をかなり “盛っている” と知っていたが、紅葉の気迫に完全に気圧されていた。


「……しかし、乗り物が」

「私は自分のギャリバーがあります。勝手に付いていくから、それでいいでしょう」

 紅葉は瞳孔が完全に開き、青い鬼のような形相をしていた。

「…………では、君に関しては何があっても責任は取らないし、命も保証しない。それで良ければ、トランシーバーだけ持っていきたまえ」

 なんと許しが出てしまった。

 ショーンは愕然としていたが、警部にしてみたらこれ以上相手にしてる場合じゃない。事は一刻を争う。

「——では1時間後、北大通りの北西の入り口で待つ」

 役場にいた州警察とサウザス警察は、めいめいに散っていった。



 リュカは鍛冶屋へ、紅葉とショーンはラタ・タッタへ足早に帰った。

 アーサー記者はとっくの昔に消えていた。

 ショーンは北大通りを小走りに駆ける間、戦斧を大事そうに握り締めている紅葉に、一言も声をかけられなかった。

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