第254話・毛利からの使者。



 永禄九年二月紀湊


「大将、ありゃ、とんでも無い代物だがや!」

と、氏虎がツバを飛ばして言うのは、小早に大砲を積んだ船の事だ。


「この寒空に、兵は何度水に潜ったがや!」


 小早砲の試しは水深の浅い川で行なわれた。砲が海中深く沈めば引き上げられないからだ。とにかく細長い小早に砲撃した衝撃を真っ直ぐ逃さねば沈没するという。その度に綱を付けた砲を引き上げる作業をするのだ。


「で、どのくらいの確率で当たる?」

「二十間(40m)では船が揺れて当たらねえ。十間まで近付けば、三発に二発は当たるな」


「うむ、敵に二十間以内の接近を許せば危ういか・・・」

「だな。月の無え夜だとやられるかもな」


「対策は?」

「見張りに徹底させるしか無えな。闇夜は二十間辺りに小舟を出して、灯りと綱を張り巡らす必要がある・・・」


「ぼっけもんの考えも侮れぬな」

「左様で。やつら考えもしなかったことを考える。それで大将、儂も考えた」


「何を?」

「目立たぬ足の早い小船を作り、反動の少ない小砲を積めば無敵だど」


「・・面白い。氏虎、まずはぼっけもんの小早砲対策を肝付・伊東のお得意様に知らせよ」

「へい!」



 目立たぬ小舟・敢えてステルス船としよう。光りを反射しない工夫をした小型で足の早い船に、小口径の砲を積み夜に紛れて攻撃する。一撃、いや一連射で大船を沈められる小口径の砲だ。

 小舟だと相手の砲撃が当たる確率も激減する、なんなら砲弾を受け流す鉄板を張るか・・・


実は俺もぼっけもんの話で創作心が刺激されて、小口径の銃(砲)は既に試作して試射済みなのだ。

七分口径(21mm)の火縄銃で、長さ半間(90cm)の銃身を円形に八本まとめた見掛けはガドリング銃だ。

だが銃身を回転させる必要は無い、銃身さえ出来れば、ただ八本並べるだけのシンプルな構造ですぐに出来た。


このガドリングもどき銃は迫力満点だ。早速試射してみると、威力は見た感じそのままの結構えげつないものだった。


玉薬と弾丸を籠めた銅製の薬莢を装着して、火縄を順番に回す事で八連射する。その威力は大型船の船腹に穴を開け、二・三発当たれば帆柱も折れるだろう。しかも連射しても銃身の加熱は避けられ、台を工夫することで銃のように狙える。射程も一里はあるし、熊野丸の主砲でも通用しそうだぞ。


 こりゃあ、売るに売れない物を作っちまったなあ。こんな物を敵が持つのは恐怖しか無いからな。

まあ、浅井家の者には遠くから見学させたが。竹中君は驚いて目を丸くして、赤尾の爺さんは顎が外れたように開いていたな。

 まあ、山中国に手を出さない抑止力になれば良いのだけど。まさか国友村で作ったりしないよ・・ね。




「大将、毛利の使者が来ております」

と、俺の居間で氏虎と二人で悪だくみ?をしていたら、差配の相良が来た。


「どなたか?」

「はっ、安国寺恵瓊殿と申される御僧で御座る。三の間に通して御座る」


 面談所は一から十まである。一の間は百人ほど入れる大広間で二の間はその半分ほど、三から十の間は最大でも十人用の間である。年始の評定と宴が行なわれたのは二の間だ。


「そうか、氏虎も行くか」

「お伴仕る」



「毛利家の外交を担当しておりまする安国寺恵瓊で御座る。この度は毛利家執政の小早川隆景殿の命で交渉に参りました」


「山中勇三郎だ」

「山中水軍を預かる堀内氏虎だ」


「昨年から拙僧は博多湊の栄山殿と話をして参りました。その話を持ち帰り大殿と相談致した。結果、条件付きで御座いまするが、豊前の門司城と松山城を山中国にお譲りしても良いと言う事になりました」


「ほう。よくぞ決断なされたな。して、その条件とは?」


「毛利国内は長年の遠征で疲弊しております。早急に民政を整えて復興しなければなりませぬ。そのお手伝いを山中国に願えればと」


「具体的には?」


「国を富ませるのには、商いの発展が欠かせませぬ。安芸に山中国の物が買える店の出店を願いたい。山中銭への両替も不可欠です」


「山中銭との両替をご希望ならば、博多湊や東予湊に参れば良い。それと安芸にも直接両替船を出そう、但し船上での両替で月に一度か二度しか出来ぬ。それとは別に大和屋の出店も考えよう。これで良いか」



「商いの件はそれで結構で御座る。今ひとつ、農地開墾の指導者を出して貰えまいか?」


「相解った。開墾・普請に優れた者十名を期限付きで十組派遣しよう。その者らの費用はこちらで持とう」


「有り難う御座ります。これで拙僧の役目を果たすことが出来申した」


「お役目ご苦労でござる。時に恵瓊殿、元就殿はご高齢で御座るが体調は如何か」


「・・・はい、何年にも渡る日本海の陣城暮らしでかなり弱っておられます」


「やはりな。恵瓊殿、京には当代一の名医と言われる曲直瀬道三殿がおられる。某が曲直瀬殿に安芸までの往信を願おう。山中水軍の船でお送り致すで、恵瓊殿もご一緒に如何か?」


「有難くお受け致しまする」


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