第115話・守護様の悪あがき。
和佐山城 畠山高正
山中に敵対した土橋城が落ちた。火矢の攻撃によって、一刻ほどで焼け落ちたのだ。わが城からは目と鼻の先だ、闇夜に高く上がる炎が不気味に見えていた。
土橋城が抵抗している間に、西の雑賀衆を立たせて、南から湯川・湯浅に北からは和泉勢と根来衆の居残り組で包囲殲滅する策が潰えた。
おのれ、山中め!
「殿、ここにいては危ういですぞ。すぐに退避を!」
「馬鹿な、高屋城が三好の手に渡った今、ここを出て何処に行こうと言うのだ」
「有田郡の湯浅を頼りましょう。一旦退避して反撃の機会を伺うのです」
「まだだ。まだ飯盛山城と龍門城が抵抗している。その背後の城も健在だ、ここで儂が最初に逃げれば国人衆の信頼を失う」
「わかりました。ですが機を失うと命はありませぬぞ」
「うむ・・」
品川の申すとおり長くはおられぬ。それは解っておる。だが、ここを去れば儂の自立は無いのだ。湯浅や湯川に頼ったとしてもそこは我が居城では無く居候に過ぎないのだ・・
とにかく今は、山中に抵抗する龍門山城と飯森山城の要請に応えなければ。
「高木と村中は五名ほどを連れて、飯森山城と龍門山城に兵糧を入れよ。麓の村々に儂が命じたと言え。聞かぬなら手段を選ぶな。両城がどの位持ち堪えるかで儂の命運が決まるのだ」
「はっ、承知いたしました」
南岸制圧本隊 北村新介
某は一千兵で最初ヶ峰城に陣を敷いた。峰と言ってもこんもりとした丘だ。高さはさほどはない。ここは南北朝時代に塩屋伊勢守が布陣して北朝方の畠山氏と戦ったという縁起の良い場所だ。
高原に五百兵を任せて龍門山西側の精進峠を確保しに行かせ、北稲にも五百兵を率いて龍門山の反対側の田代峠に向かわせた。
高原乱蔵と北稲新作は木津の者で、兵の指揮が上手く期待の若手だ。実戦を経験させるべく新たに隊長に任じて連れて来た。
古参の田中豪太には、一千の兵で山の背後の村々を制圧しに向かわせた。背後の村々は多く、あちこちに小さな城塞も多い。そこを制圧するのには相当な兵が必要だ。
龍門山はこの辺りで一番とも言えるほど高い。ここ最初ヶ峰に比べて三倍もの高さがあるのだ。南北は急斜面でとても兵が上がれるような所では無く、難攻不落の山城だと言える。
だが険しい地形で多くの兵が籠もれず、水が無い。おまけに九度山政所からの情報に寄れば兵糧も少ないと言う。寒いこの時期に山城に籠もるのは辛いだろうな。
東の飯盛山城を窺っている梅谷どのから連絡が入った。
開城した今坂山城主の産蓮と言う僧侶から聞き出した情報で、龍門城に籠もったのは截然という僧で畠山家の者だと言う。百兵・火縄二十・弓二十に守護殿の息が掛かった根来寺の僧兵が入っているという。僧兵の人数や装備は解らぬそうだ。
ふむ、ここは焦る必要は無いな。
飯盛山同様、背後の村々を牽制しての兵糧攻めでも良いかも知れぬ。太田に五百兵で和佐山南の村々の制圧に向かって貰おう。
飯盛山城の裏手に位置する本川村 野原頼勢
「隊長、城に兵糧を運ぼうとしていた者を捕えました」
「・・連れて来い」
山中隊の良い噂は民に広がっているはずだ。なにより村人が避難していないのがその証拠だ。二見でもそうだった。南紀では民が戦場での協力までしたと聞く。その上にここでは、城に兵糧を運べば容赦しないぞという噂で山中隊の方針をわざわざ告知している。
それなのに何故だ?
何故、敢えてそれに逆らうのだ。
次第によっては村を焼かなければならぬな。
連れて来られたのは、五人ほどの百姓・いや身なりからしたら村長らか、その後ろには俵を乗せた荷車に従った六人の男らがいる。皆、顔が歪んで怯えている。
それがこやつらは噂を聞いているという事だ。山中隊の通告を知りながら敵に兵糧を運ぼうとしたのだ。少しぐらいは許されると思ったのか、
山中隊が、我らの殿が舐められたのだ。
許せぬ。
怒りが猛烈に沸き上がってきた。周りの兵の顔も怒りと哀れみの表情が出ている。今すぐにでもこやつらの首を刎ねたい衝動にかられた。
「そなたらは、山中の殿が民に優しい事を知り甘くみて侮ったな。こやつらの村を聞き出し焼き払え!!」
「はっ」
「お・お待ち下され、おねげえです!」
「侮ってなどいませぬ!」
「か・家内が!!」
「娘がぁ!!」
「どうか、どうか、聞いて下され!!」
引っぱって行かれる百姓らが、必死で言い募っている。
ん、家内・娘?
「待て、どう言う事か話させろ」
「・・守護様の兵が来ただ。飯盛山城に兵糧を入れろと言う。それは出来ねえとお断りした。すると兵らは強引に上がり込んで家内を浚って行った。兵糧を入れなければ慰んで他国に売り飛ばす、それでも良いかと・・」
「・・そやつらは、何処にいる、秋葉山城か?」
「違うだ、秋葉山城は見せかけで誰もいねぇ。奴らは平原村のわしの屋敷に隠れているだ」
「娘の命が掛かっているだ。わしらは仕方が無く・・」
こやつらは、飯森山城への間道がある五村の村長だ。女房らを人質にした兵は、平原村の村長屋敷に立て籠もっているらしい。平原村は背後に湯浅領に繋がる間道があり逃げやすい場所だ。
「ならば手前の村から家を焼きながら向かう。村人を平原村の方に追い立てよ!」
「はっ」
「佐々木どのは、先回りして奴らを捕えて頂きたい」
「承知」
佐々木どのらは斥候隊の者だ。山中隊の各隊には斥候隊の者が最低十名ほどは従軍している。
平原村・村長屋敷
「嫌ぁーー」
儂の正面で村木が女房の胸元に手を差し込んでいる。その手から逃れようとする女房の足元が割れて、白い太腿の奥が見えている。
そそるわぃ。
隣では、荒木に無理に口を吸われている娘の眉が悩ましく曲がり、手足をばたつかせている。儂が抱え込んだ女房は、むっちりとした体で手の平に余る胸乳が暖かくて実に心地良いわ。おう、乳首が硬くなってきたぞ。
役得だな、ぐふふ・・
村長どもが我らの言う事を聞かぬからこうなったのだ。守護である畠山様の言う事をおとなしく聞いておれば良いものを。
「あっうう・・お止め下され、お侍さま、あ・あぁぁ・」
女房の胸乳がしこり太腿が熱くなっている、某の一物も滾ってきた。久し振りじゃ、もうたまらんわぃ。
「ああ、嫌あぁ・・」
嫌がる女房を折敷いて股座を広げた。そんな刹那の時に、突然・庭で慌ただしい足音がしたと思ったら、
「留蔵が帰って来たですだ!!」
と、下男が大声を出した。
糞っ、良いところを邪魔しやがって、おのれ、ぶちのめしてくれようか、
・・ん、なんと言った? 帰って来ただと、山城に兵糧を運んだにしては、ちょっと早いではないか。
仕方なく立ち上がって障子を開けた。
下男の爺のおどおどした顔がある、その後ろには駆けてきたらしい百姓が頭から湯気を上げながら荒い息をしている。その百姓は、村長と共に荷を押していった男だな。
「何だ、どういう事だ?」
「わしら、山中兵に見つかって追い返されましただ。城に兵糧を運んだと知り、怒った山中隊が村を焼き払いながらこちらに来ますだ!!」
「何だと!」
外を伺って見ると、人が大勢、必死の形相でこちらに逃げて来ている。その後ろには家屋の燃える煙が難筋も上がっている。
「不味い、逃げるぞ!」
糞っ、百姓らめ、しくじりやがって、だが多勢に無勢だ、ここは逃げるしかない、逃げて別の手を考えよう。
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