56 NSV世界ランキング二位【オウル】
NSV世界ランキング二位 オウル
彼はとても親しみやすく人の好いキャラとして有名だった。
ランクに関わらず誰と接する上でも人当たりの良さを徹底し、その柔和さ故優しく人想いな人物像を抱かれていた。
だが彼自身気付いていなかったその本質は、カツゾウのように戦闘スキルにおいて一定の興味を抱いた数人を除いてはプレイヤーを一様に裏に人格のあるNPCくらいの有象無象としか捉えていないだけだった。それこそありとあらゆる魔物のパターンに応じて対処するのと同様に、誰に対しても一定の距離感を保ち、当たり障りのない一定の応対パターンで接していただけだ。
対外的にはプレイヤーに慕われるオウル。だがプレイヤー オウルは孤独だった。
彼を孤独たらしめた要因は幾つかある。
一位と彼との間に明確な差があったこと。
同様に彼と三位以下との間にも明確な差があったこと。
それにより、他大勢と見えているものが根本的に違っていたことにある。
NSV世界ランキング一位。それは誰に言わせても「インチキ」という言葉で片付けてしまいたくなるほどの理不尽が凝縮された何かだった。
だが親しみやすいが故に人間味があるかのように捉えられていた世界ランキング二位も、三位以下からすれば十分すぎるほど理不尽な存在だった。
何故なら二位は、唯一一位にだけは敵わない一方でその他大勢を圧倒し二位に居座り続けたからだ。
彼は一部では「歩く攻略本」とまで呼ばれていた。
あらゆる新要素に対し凄まじい速度で最適解を導き出す。彼の並外れた観察眼、実践力、蓄積した知識と発想が成せる業だった。
実際には常に彼が先駆けであった訳では無く他人から気付きを得ることも少なからずあり、彼にそれを与えた人は一様に彼に好まれた。
だがカツゾウや一部の例外を除き、彼に好まれた特に上位のプレイヤーは逆に彼の好意が気味悪く思え、その一層の親しみやすさを苦手とすら思っていた。彼の人の好さと実戦における鬼畜ぶりが余りにも整合性が取れなかったからだ。
なまじセンスがあるだけに、明確に一段上にいる彼の頭の中が読めないことが不気味だった。彼に知識や技術を見初められ見透かされた者は自身の全てが底のない闇に呑まれ、彼と相対する時はその中で藻掻いているかのような錯覚さえ覚えた。それ故に気を病み、NSVから退いた上位プレイヤーも居たくらいだ。
英雄の如く慕われていたオウル。本人すら自覚のないその本性を垣間見た者は少ない。
………
つまるところは無関心。何がいつどこで何をどう用いるか、その全てが彼にとっては「設定」の一言で片付けられることだった。
当然だ。彼の本懐は最初から一切ブレずに「攻略」の一言に尽きる。そこに彼の願望があり悦びがある。
この世界に来て人々と触れ合う中で、ゲームとは違った生身感を確かに認知したオウルこと御崎 満嘉。だがNSV時代には感じたことのない焦りと怒りに突き動かされても結局成すことはNSV時代と同じ、手順を読んで一つ一つ詰めていく。毅然たる態度、圧倒的な強さはその極めてメカニカルな思考に収束する。
神兵イルシウスはHP・MPの自己回復ペースが速いが、削りがある一定ラインにまで到達すれば大きな隙を生むことができる。
今までのちまちました遠間からの削りはほんのおまけのようなもので、本命は今狙った水蒸気爆発だ。
魔法の複合属性には連鎖反応を起こすものがある。例えば今回用いたのは炎と水の複合による【
本来爆発属性は三属性の複合により発動するが、事前に炎と水の作用により戦闘エリア内に水蒸気を起こした上で炎と地の複合による【
地属性の魔物には水属性の付帯効果【浸食】により環境補正で微ダメージが入る。遠間からの攻撃と蒸気でのじわ削りに加えて突然の水蒸気爆発。彼女はその仕組みを理解しないのでこの奇襲は必ず成功する。
NSV時代にオウルが編み出した最も安全かつ確実にイルシウスをソロ討伐するセオリーだ。
唐突な大爆発の後、王座に立っていたイルシウスは一瞬前の美貌からは考えられないような全身がひび割れ所々が欠損した無惨な格好になっていた。
奇襲からの大ダメージによる大スタンと蓄積ダウンの重ね掛け。残りを削り切るまでは一切の動作を許さない。
すかさず二刀に持ち替え水丙弐【水衣】でバフを掛けながら一瞬で王座を駆け上がり、最早動くこともままならない崩れかけの身体に容赦ない連撃を畳みかける。
斬突織り交ぜた強力な連撃 中剣極【銀河】と水丁肆【水刃】・水丙壱【水槍】を合わせた複合連撃【
削りに削りを重ね、最早姿勢も保てなくなったイルシウスは先までの凛とした面影も無く四肢を捥がれたような状態で王座に力なくもたれ掛かる。
あと一息。ここまで来るとまるで弱い者苛めのような恰好になってしまうが、腐っても乙等級ボスクラス。放っておけば数分で全快してしまうような理不尽の化身だ。
最後まで容赦はしない。俺はここを通って核座に向かう。
口をパクパクとさせ途切れ途切れな声で断末魔を叫ぶイルシウスを前に三つの魔法陣を展開する。
炎丙壱【火炎弾】、水丙肆【大水弾】、地丙壱【岩弾】
現状使える丙の高火力魔法の掛け合わせを格闘術拾【発勁】に乗せる。
中ボスの石像に放ったような省エネバージョンではない、【爆勁】と言えば最低でもこの火力から。つまり本物の実戦級爆勁。
ただ淡々と、今までこなしてきたのと同じように慣れた手付きでイルシウスの胸元に拳を据える。
今は急ぎの用事があるので、最早何も躊躇うまい。
何の感慨も無く、表情も変えず、洗練され美しく整った姿勢で放たれた一撃により、イルシウスは全身のヒビと言うヒビから爆炎を散らしながら成す術無く消滅していった。
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