閑4 ルイーゼ冒険者ギルドのトレンド2

 ミツカがザインとリズを伴い丁1Dに向かって間もなく、顔を青くした物見がまたも報告にやってきた。


 丁1Dの入り口部分で突如現れたコカトリスとダンジョンから溢出したメタルリザードが戦闘を開始、負傷したコカトリスがルイーゼ方面に逃げ落ち、メタルリザードがそれを追従しているという。


 両者ともこの地方では滅多に出現しない、ルイーゼの冒険者総出で討伐に当たるような魔物だ。それが二匹同時に、しかもルイーゼ方面に向かっているという。


 今さっきルイーゼでも有力な冒険者の筆頭格が丁1Dに向かったところだ。コカトリスとかち合っていれば足止めは可能かもしれないが、いくら何でも三人でコカトリスと立て続けにメタルリザードの討伐までは……



 だが何よりも、そのような魔物をルイーゼの街にまで立ち入らせる訳にはいかない。ケニーは手の空いた冒険者に声を掛け、討伐とまではいかなくても安全に足止めに当たるよう指示を出した。

 もしコカトリスの足止めに成功すればそのままメタルリザードと邂逅して再戦、共倒れか、どちらかだけでも潰れてくれれば儲けものだ。リスクの高い賭けではあるが、現状はそれが一番マシと言えた。


 指示を受けた冒険者が早速コカトリスの足止めに向かうが、【石化】の状態異常をもたらすコカトリスの足止めはルイーゼの冒険者にとっては至難のわざ。前情報と徹底した安全地帯からの迎撃により石化を食らう者はいなかったが、それでも何人かは負傷し、十分な足止めはできなかった。


 そこに颯爽と現れたのが、高貴な装束を身に纏い、武器も装備していない少女だった。

 負傷しながらも足止めに努める冒険者を一瞥いちべつすると、少女はあり得ないスピードでコカトリスに向かって駆けた。

 咄嗟に止まるよう声を掛けたものの、既に少女はコカトリスの目前。何を血迷ったかと冒険者たちは思ったが、次の瞬間に起きた出来事を彼らは忘れることはないだろう。


 コカトリスのくちばしが迫ったその刹那、少女はいつの間にか持っていた粗末な鉄剣でコカトリスの眼球を貫いた。


 剣はそのまま脳天を貫き、コカトリスは動きを止めてビクビクと痙攣し始めた。少女はさらに流れるような所作で剣を抜くと、目にも留まらぬ斬撃で崩れ落ちるコカトリスの太い首をねた。


 元々負傷していた上に冒険者の足止めにより消耗していたとは言え、Cランクに属するコカトリスはルイーゼの冒険者にとって災害にも等しい。それを僅か数手で圧倒した目の前の少女は一体何者なのか。


 が、周囲の冒険者たちが事態を理解するよりも早く次なる脅威が迫っていた。

 コカトリスを追ってきたメタルリザードがその場に出くわしたのだ。


 冒険者たちが思考する間も無く、少女は既にメタルリザードの眼前に掛けていた。

 またも止め損ねた冒険者たちは、コカトリスを数手でほうむった彼女なら或いは、と一瞬思いはしたもののすぐに思い直した。メタルリザードはその強固な装甲こそが脅威であると。

 彼女が振るっているのは明らかにオンボロの使い古した鉄剣だ。コカトリスには通用する腕があろうとメタルリザード相手に太刀打ちできるはずがない。


 が、そうと気付いて死に物狂いで戻るように叫ぼうとする冒険者を余所に、少女は自身に咬み付こうと迫ったメタルリザードの眼球を鉄剣で思いっきり突き刺した。


 冒険者たちは唖然とした。

 自由に動き回る魔物の攻撃を掻い潜りながら眼球を的確に突き刺すような芸当はマグレでもそうそう起こり得るものではない。

 だがそれを自身の何倍もの体躯を持つ魔物相手に一切怯むことなく立て続けに、初手で、しかもその辺のゴブリンでも使っていそうなボロ剣でやってみせた。


 恐らくそのまま脳まで貫かれたであろうメタルリザードはふらつき、少女はふらつくメタルリザードの首の下に潜ると、速すぎてその場の誰もがハッキリとは見えなかったが、恐らく首の下から二振りの斬撃を加えた。

 三日月型の斬撃が真上に放たれたかと思うと、強固な装甲を持つメタルリザードの首が落ちた。


 冒険者たちはもはや言葉が出なかった。

 Cランクの魔物を単身で立て続けに圧倒した華奢な少女。我に返ると、そのあり得ない光景からくる不気味さに言葉を失ったのだ。

 彼女はたまたま目の前の魔物の対処に加勢してはくれたが、そもそもどこの誰で、自分たちの味方かどうかも分からない。たった今強力な魔物二匹の首を刎ねた斬撃が次の瞬間にはこちらに放たれるかもしれない。

 

 だが冒険者たちの一抹の恐怖を余所に、さっと彼らのもとに近寄った少女は何と回復魔法を展開し、負傷した冒険者たちを治癒して回った。


 「回復間に合ってますか?」


 そう凛とした声で訊かれた冒険者は依然戸惑いながらも頷く。


 あれだけの剣技を披露した上で回復魔法まで使える様に、彼らは名高き栄誉職である『聖騎士パラディン』を思い浮かべた。

 装備自体はきらびやかではあるが聖職者のそれとは違うように見える。武器はオンボロ。だが颯爽と駆けつけて魔物を討伐し、負傷者を回復して回るその清廉せいれんさに、最早その場で疑う者は居なかった。





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