31 Louise-Din04【猪火柱】

>Louise-Dinner04【猪火柱】

近隣で採れる猪系魔物の肉が名物。

大胆に一匹串刺しにしたボアーを縦に焼き上げる猪火柱が名物。

ガッツリ系で冒険者や職人に人気。




 買い出しは無事終わり、良い時間になったのでザインオススメの肉料理屋に四人でやってきた。


 ザインが好きそうなガッツリ系の肉料理を振舞う店のようだが、ガッツリ系と見るや意外なことにカツゾウとリズが目を輝かせていた。

 主な使用肉はこの辺でよく出没するボアー種……丁1Dのボスであるキングボアーの近縁種の肉らしい。香ってくる匂いがもう旨そうだ。

 

 ザインが気前よく頼んだ料理が次から次へとテーブルに並んでは平らげられていき、ほどほどに空腹が満たされたところでザインとリズが酒を頼み、談笑が始まった。

 

 話題は突如ルイーゼに現れた凄腕の冒険者志望二人……つまり俺とカツゾウの話だ。


 俺がザインを小手先で負かしたところから始まり、丁1Dの攻略をザインとリズを伴いたった三人で達成どころか周回までしたということで、英雄が現れたと湧きに湧いたらしい。


 一方で、まさかの溢出によりダンジョン内で出会えなかったコカトリスやメタルリザードを颯爽と現れて討伐した上、負傷していた冒険者の手当てまでしたというカツゾウの評判も凄まじかったようだ。

 カツゾウはレアドロップ狙いで横槍したとだけ言っていたが、彼女のマナー観的に苦戦していた冒険者を見かねて参戦したのだろう。なんと二匹とも臆せず接近して眼球から脳天を貫くという見た目と似合わない苛烈な攻めを披露し、冒険者の間では噂で持切りだったという。

 さらに回復魔法は通常高価な費用を払って治癒士に施してもらうものであったが、そうと知らずに片っ端から怪我人を治癒して回るカツゾウの無私の精神にてられ、さながら辺境の災害を救いに現れた聖女の如き扱いだったという。


 そんな突如現れた英雄が突如現れた聖女を連れてダンジョンに向かって中々帰ってこないものだから、街はちょっとした騒ぎになっていた。


 俺とカツゾウが大急ぎでダンジョンに向かった後一向に帰ってくる気配がなく、特にカツゾウに助けられた人々がそれなりに心配したようで、起きていた冒険者は街中と近場のフィールドを探しに走り回ったらしい。

 そうとは知らずに何となしに朝帰りしてさっさとカツゾウの宿に引き上げた俺たちは宿屋の一室で語らって寝落ち。カツゾウが泊まったらしいという宿に何度目かの聞き込みで「ついさっき二人で帰って来たよ」とあっけらかんと言われ「まぁ帰って来てるなら……」と捜索を終了。ギルドに報告が入り、一息ついたら顔を出すだろうということで一件落着である。


 「まさかそんなにも周回していたとはな」


 「相変わらずバケモノね」


 二人きりでたった一晩で十三周もしたということにザインとリズは呆れていた。

 一方カツゾウは、二人で宿の同室に引き上げた件で街の冒険者連中に何やら勘違いされたかもしれない事に赤面していた。シチュエーション的にそう取られても仕方ないことはしている以上、敢えて何もなかったと触れ回るのは白々しくてどうしようもない。

 ……まぁ人の噂も何とかと云うし、どうせルイーゼにはそう長くは留まらないのだから俺は気にしないことにしよう。


 ザインは酒が入りより饒舌になると、特に自分の戦闘スタイルについての助言を熱心に求めた。

 彼は既に前衛盾役としての土台ができているので、あとは個人としての技量をどれだけ高め、手数を増やし、より守備範囲の広い盾役として熟していくかというのが当面の課題だ。

 習得スキルを増やし、実戦で経験を積む。結局はこれに尽きる。


 ザインもリズも基本的にルイーゼに駐留しているということなので、目下必要な技量と言えばルイーゼ近辺の討伐、そして今回のようなスタンピードにおける前線での対処だろう。

 まだ二人だけでは楽ではないかもしれないが、二人の練度は既に平時の丁1Dくらいは難なく周回できるレベルにまで達している。後進となる仲間を育てて手堅く丁1Dを周回し、ルイーゼの冒険者全体の水準を底上げつつ自身の腕を磨いていけばいい。

 聞いた限りでは長閑な地方というだけあって冒険者の実力水準は相当に低いようだが、二人とその後進への回復手段の普及で数段底上げされるのは間違いない。


 「もしまだルイーゼに留まるなら、丁1Dの攻略をもう少しミツカ殿の下で学ばせてもらいたい」


 「そうですねぇ……」


 ザインは酔っていながらも真面目な顔で頭を下げる。 

 実は俺も、昨日の周回ではザインとリズをキングボアーと真正面から直接対峙する経験をさせられなかったことが心残りだった。

 実際、あまり度が過ぎると問題だが、引率役がいる中で安全に道理を学ばせるのは効率的だ。俺自身、ドロップは別に美味しくもないが、レベリングのついでと思えばやぶさかではない。


 「付き合いますよ」


 ちら、と横のカツゾウをどう説得したものかと視線を向けると、あっさりと同行の意思を示した。


 「ついでなんで、他の冒険者さんたちも連れて、丁1Dの攻略方法叩き込んだらどうですか」


 カツゾウそう続けるとザインとリズはこの数時間の一見ぶっきらぼうな態度を見ていたからか、意外そうな顔をする。

 NSVでは『鬼武蔵』と恐れられた『勝蔵長可』ことカツゾウだが、知る人ぞ知る一面がこの面倒見の良さだ。彼女はチャットでのやり取りはぶっきらぼうな部類だったが、寡黙で口調が投げやりというだけで基本的には親切だった。

 ただ歯に衣着せぬ一面もあったため、親切よりも言葉のトゲのみが刺さって気を悪くした人が大勢いたと思われる。


 彼女の提案にザインとリズは歓喜した。

 怪我人を通り縋りに治癒して回るくらい、当人はそれが親切だと思ってしているかは分からないが、彼女にとっては取るに足らないこと、別にやってもやらなくてもいいだろうことを当たり前にこなす。

 彼女が好ましく思えるのは、その情けと非情が彼女の中で住み分けられて両者とも在ることだ。本当に思いがけず良いパートナーに出会えたものだ。


 そんなこんなで、明日は俺とカツゾウを筆頭に、ザインとリズを含むルイーゼの冒険者の有志を集って丁1Dの攻略研修を行うことになった。





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