18 T1D攻略の手筈

 手順一、魔物は見つけ次第片っ端から狩る。


 ダンジョンの魔物は通常種でもフィールドの魔物より経験値が割高で、変異種になるとさらに若干高くなる。通常のスタンピード周回では変異種以外はスルーだが、今回はレベリングも兼ねて雑魚の掃討はきっちりこなす。


 最初こそ主にリズが尻込みしていたが、掃討をこなすうちに「下手に慎重に行くよりも手堅く攻めた方が安全」と理解したのか、積極的な攻めに転じた。

 ザインは主に飛燕の実戦訓練をしつつ、ある程度打ち合える相手には盾術のテクニックを実践、ほぼノーダメージで安全にこなしている。リズの方はザインがエースと言うだけあって、各場面における選択とタイミングは中々に冴えていて、後衛攻撃職としてしっかり機能していた。


 俺はせっかくなので弓術の習得と熟練にも勤しんだ。

 まずは訓練場では手付かずだった【丑ノ型ウシ】と【寅ノ型トラ】だ。

 丑ノ型は強力な迎撃狙撃、つまり相手の攻撃に対しカウンターとして用いるスキルなので、動かない的では熟練判定が出ない。襲ってきた相手にカウンターで打ち込み、会心クリティカルで熟練5。残りの熟練に必要な牛タイプのモンスターは丁1Dルイゼリオスでは出現しないのでひとまずここまで。

 次いで寅ノ型は強力な単純狙撃だが、こちらは一撃でのダメージ量が熟練の肝で、HP500以上の魔物を一撃で仕留める必要がある。訓練場の的はHPが足らないので魔物を見繕ってこなす必要があるが、それなりのステータス或いは装備を要する他、クリティカルでも五本こなさなければ本数トリガーが達成されないと気持ち辛めである。熟練させれば頼もしいスキルなのでテキパキ五本こなす。

 無事二つの型を熟練度5まで上げたところで【申ノ型トリ】と【戌ノ型イヌ】を習得するが、こちらは連射系なので矢に余裕ができてから熟練を試みる。

 ついでに道中鼠系の魔物を見つけたので【子ノ型】で十回撃破し、これを以って精密狙撃子ノ型の熟練度が極に、また猪系の魔物も同様に【亥ノ型】で二十五回撃破し、単直狙撃亥ノ型の熟練度が極になった。

 後はボス戦で【午ノ型ウマ】を5まで熟練させれば当面は通用するレベルの弓術の土台が完成である。



 手順二、魔物を狩る傍ら、キメタケをひたすら喰らう。

 

 別にどうしても必要な訳でもないが、今回はザインとリズの二人を伴うにあたり、主に二人がより安全に変異ボスを攻略するために幻覚耐性獲得を狙うことにした。

 当然二人は尻込みしたが、魔法による攻撃をリズ任せにできるのでこちらはMPを惜しみなく使い二人に絶え間なく状態異常回復魔法をかけられることを説明し、納得してもらった。

 このペースで変異種狩りを行っても、実際に変異ボスに遭遇するとしたら三周目以降になるだろうから、それまでには耐性もある程度モノになっているだろう。

 余談だがキメタケは生でもそこそこ美味い。毒キノコは美味いの定説通りだ。



 手順三、変異ボスとの戦いに備え、通常ボスで手筈を確認する。



 「というわけでこの先がボス部屋ですけど」



 洞窟の中に明らかに人の手では作れないような、それでいて不自然に人工的な鉄扉が佇んでいる。

 この先現れるボスの姿を示唆しているのか、扉には巨大な猪の意匠が彫られている。ダンジョンの中にはボスが特定の部屋や階層に留まらない理不尽なものもあるので、こうして分かりやすくボス部屋が設置されているダンジョンは親切な部類である。


 二人が扉を前に息を飲むのが分かる。


 「まさかこんなにも早く、しかもたった三人で辿り着くとは……」


 しみじみと言うザインにとってこの場所は苦い思い出があるのかもしれない。


 「では、手筈をおさらいします


  扉を開けたら、奥行きのある広めの通路が展開します。脇に立つ柱の陰に大勢ゴブリンが潜んでいるので、ザインさんはまず前線に出て脇のゴブリンたちのターゲットを取ってもらいます。


  その中にジェネラル級が一匹だけいます。

  通路の奥にドーム状の空間があって、そこにボスが鎮座しています。

  ボス自体はすぐには動き出さないのでザインさんはジェネラルの対処を。

  初撃は必ず強烈な叩き落しで来るので、道中教えたように初盾弐【逸らし】、

  往なした直後に初盾肆【盾打ち】でダウンを狙ってください。

  リズさんは盾打ちのタイミングでジェネラルの顔面を狙って攻撃魔法で援護を。

  ここのジェネラルは基本力押しで来るので、

  打ち合いではなく打ち崩してからの畳みかけで手堅く仕留めてください。

  序盤はダウンを奪ったところで足を集中攻撃で弱らせて、

  ダウンが響いたところで隙を見て脳天に【剛蹄】です。


  俺はその隙にまず奥にいる魔法を使うメイジ級を弓で仕留めてから雑魚を一層してボスの討伐に回ります。

  

  途中俺が合図をしたら、一旦引いてその場で飛び跳ねてください」


 一通り説明すると、二人はもはや驚くのにも疲れたのか呆れた様子だ。


 「丁1Dルイゼリオスに来るのは初めてだと言っていたが……何故そこまで詳しく中の様子が分かるんだ?まるで何度もここで戦闘をこなしてきたかのような采配だ」


 ザインは攻略を経験しているだけあって思うところがあるのだろう。


 「本当に三人でいけるのかしら……」


 リズの方は、今まで三人という小規模パーティーでの攻略は経験がなく、大規模パーティーで比較的安全な後衛に立ち続けてきたからか不安が大きそうだ。


 「今の三人ならこれで余裕です。相手の数に惑わされず、こちらのペースで進めましょう」


 ここのボス戦で初心者がパニくる最たる要因がボス以外の雑魚の多さだ。

 脇に控えたゴブリンたち、その中で強力なジェネラル級が一匹と、魔法攻撃を展開しつつ時にゴブリンやボスを回復・支援するメイジ級が一匹いるという多勢に無勢で足並みを乱す。だが、ボス自体はすぐに動き出すわけではないので対処の優先順位が明確であり、取り乱さずに立ち回れば余裕だ。

 うっかりPTメンバーが通路で足止めされているうちにボスが動き出すとという入門ダンジョン初段から親切でない初見殺し仕様だ。

 後のダンジョンで活きる手順研究の入りとしてわざわざこのような采配が成されたのだろう。


 「行きますよ」

 

 言ってとても人の手では開けなさそうな重厚な扉の正面に手をかざすと、ゴゴゴゴゴと重苦しい音を立てて扉が開いていき、ボスの待つ広間へと続く広大な通路が現れた。





※ ※ ※


お読みいただきありがとうございます。

面白い!ここが気になる!というようなご意見ご感想

レビュー、ブクマ、応援、コメント等とても励みになります!どうぞお気軽にお願いします。


※ ※ ※

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る