17 NPC(EXTRA HARD)

 「あー……すみません。深く考えずに聞き流してください」


 言ってはみるが遅いにもほどがある。到底聞き流せないだろう情報が既に渡ってしまっているし、恐らく他にも何やら知っていることも気取られている。

 迂闊だったなぁ。それでも多分、比較的知られても問題が無さそうな人たちだから良かった。今更ながらケニーが頭を掻き毟っていた理由が分かる。俺も今猛烈に頭を掻きたい。


 「聞き流せない」


 リズがきっぱりと言い切る。彼女はどこか頭が固そうな印象なので、ちょっと面倒くさいことになる予感がするが……


 「お願い、魔法について教えて」


 「……はい?」


 「あなた、魔法はついさっき覚えたような口振りだったけど、今さっき覚えたものも……そうでないものも含めてもっと色々なことを知っているんでしょう?」


 リズは険しい顔でズカズカと詰め寄って来る。


 「あんな剣術と魔法を掛け合わせるような、それこそ一流の冒険者が振るうような技術も……でも、あれもあなただけが特別使えるスキルというわけではない……でしょ?」


 「俺もそれが気になっていた」と言いたげにザインもこちらに寄って来る。

 さすがにしらばっくれる訳には行かないよなぁ~と策を練ろうとするが


 「お願い」


 リズはその場に跪いて頭を下げ、縋るような声色で語る。


 「今日出会ったばかりのあなたに不躾ぶしつけなお願いであることは百も承知よ。でも、お願い……私たちに力を貸して」


 「……俺も同意見だ」


 急な畏まった懇願に思わず拍子抜けしていると、ザインも続けてその場に膝をつく。


 「その突き詰められた戦闘技術……恐らく途方もなく修練を積んだであろう結晶を、さして対価も差し出さずに教えを乞おうというのは虫のいい話だと分かっている。だが俺たちにとっては天啓のようなものなんだ、ミツカ殿」


 いや、天啓だなんて大げさだろう。

 まぁスタートを切ったと思ったらスタンピードに直面するなんて運命的すぎる気もするが。


 「あー……その、つまり、お二人が冒険者として、ルイーゼの人々の盾として振るう力に手を貸してほしいという話ですよね?」


 訊ねると、二人揃って深く頷く。


 「……ならそんな大層な対価は要りませんよ」


 NSV時代は、申し訳程度の漠然とした人助けシナリオにのっと殊勝しゅしょうな心構えで挑んでいたわけではない。単純に強くなること、魅せること、攻略すること。その三つに取り憑かれていただけのゲーマー思考だった。

 今は……正直今もこの世界を攻略して、見ることの叶わなかった見れるかもしれない新しい景色を、捨て損ねた執着で追いかけているにすぎない。だがその背景に現実を生きる人の命があるのなら、何より「利害が一致」するなら、捨て置くのは


 「ほら、しばらくご飯をおごってくれるんじゃないですか。それで十分です」


 これは本心だ。攻略を進めるうちに欲しいモノは大体自力で手に入れられる。……はずだ。

 だがこの世界での人と人との繋がり、生活、それはゲーム仕込みの機械的なこなしではどうしようもない。攻略も行き詰まる。ゲームでない以上、結局は人との接触でしか得られないものに頼らなければ生きる上での安寧あんねいは得られない。それこそ魔物ではなく人が敵となる場面も多くなるだろうから。

 冒険者という流浪の境遇からすれば俺だけが特別不自然というわけではないが、このよく分からない世界に独りつかわされて身寄りのない俺を、一人の人として接してくれる。俺という一個人を好意的に見てくれる人がいるということは大きな安寧だ。それに美味しいご飯が付いているというだけで、正直かなり救われる。

 そんな返事を受けて二人は真顔でこちらを見上げる。


 「……何だか、伝説に出てくる勇者みたいな人ね。あなたって」


 「ははは、或いは本当にそうなのかもしれないな」


 「二人ともさっきから大げさですって……」


 魔物を討伐しきって静かになった広間に三人分の笑い声が木霊する。

 知り合ったばかりだが、戦闘という濃密な時を共有したことで、実際に過ごした時間以上に心は通じ合った気がする。

 さて、親睦しんぼくが深まり、大筋の利害が一致していることも確認できたので本分に移ろう。


 「今回はスタンピードの根源を絶つ、という目標で来ているので、ボスに向けて……」


 「ちょ、ちょ、ちょっと待って。スタンピードを止める方法も知っているのね?」


 とんでもない疑問がぶっこまれた。

 逆に知らなかったのか?ケニーの口振りから、スタンピード中のダンジョン攻略が収束の鍵になっていることくらいは周知なのかと思っていたが。

 ……ん?そういえばケニーは「水際対策」と言っていたような。


 「……俺が知る限りでは、変異ボスの討伐で徐々に収まりますよ」


 言うと二人は目を丸くした。


 「徐々に……なるほど」


 恐らく変異ボス討伐で直ちに収まるものではないという実際の記録が残っているのだろう。そしてそのようなタイムラグと変異ボス出現に関するトリガーまで周知されていないとすれば、


 「過去、ボスを討伐しても収まらなかった事例もあるが……」


 「スタンピードの根源となる核座の異常は、変異種を一定数討伐することで出現する変異ボスを討伐することで収まります。恐らくその時討伐したボスはスタンピードとは関係のない通常ボスだったんじゃないかと」


 「まさかそんなことが……いや、だとすれば辻褄が……」


 ザインは驚愕しつつも何やら記憶と照らし合わせている様子だ。


 「なので、ダンジョンを周回しつつ変異種を狩り、一定数狩れたらその足で変異ボスに挑みます」


 ついでに経験値と素材収集でウハウハである。


 「……最初に攻略と言っていたのは本気なのね?」


 険しい顔をしつつもリズはこちらを見据えている。


 「えぇ、まぁ本気です」


 探索という名目で来てはいるが、あわよくば攻略どころか周回する気マンマンだ。


 「……できるのね?」


 その一言には恐らく彼女と、ザインも含めて山ほど言いたいことが含まれている。


 「できます。こう言ってはなんですが、この三人なら余裕です」


 これまで見てきた攻略的な要素は知っている設定通りだ。丁1Dルイゼリオスの構造と変異パターンも最後まで設定通りであれば、変異ボスの対処はどう転んでも余裕としか言えない。

 全盛期の、それこそ丁1Dのボスくらいはワンパンでほふれた時の感覚からすれば今のステータスでの周回は手間暇かかりすぎてやっていられないくらいだが……育成のためだ、甘んじて受け入れよう。


 「……そこまで言い切るなら信じるわ」


 リズは逡巡しゅんじゅんしたもののそう言った。


 「では、ボス討伐の前にいくつか下準備をしましょう。サクサク攻略するために、これから言う手順通りに立ち回ってください」





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