ソニアの心配事

 「うわ!気持ち悪っ!」

この言葉を何回口にしたことだろうか。

僕は今、部屋に害虫がいちゅうを必死に駆除くじょしていた。

松明たいまつを使って害虫がいちゅうあぶってはての繰り返しを2日程行っているが、一向いっこうに虫がらない。

もうこの小要塞しょうようさいに住むのあきらめようかとも思ったけど、ケージ内で建物に住めるなんてことは今後絶対ないと思うので、今日きょうも頑張って害虫駆除がいちゅうくじょいそしんでいた。

もはや害虫駆除がいちゅうくじょ日課にっかになってきているのが非常ひじょうに悲しい。

 「もういっその事、この部屋で焚火たきびすればけむりで一気に駆除くじょできるんじゃ…?」なかなか物騒ぶっそうなこと考えるな僕…なんて事を思いつつも、ひたすら虫をあぶっている。

いや、室内で焚火たきびなんてしないからね?

自分が住もうとしてる部屋がくさくなるのはさすがに嫌だし。


 とは言えこの小要塞しょうようさい辿たどいてから3日目。

少しずつではあるが生活空間せいかつくうかん順調じゅんちょうととのえている。

「落ち着いたらソニアを呼んで同棲どうせいなんてことも…」

鼻の下を伸ばしながらだらしない表情になっている事は重々承知じゅうじゅうしょうち

でも考えてみてくれ。あんな美少女と同棲どうせいとか…男の夢でしょ?

僕、ソニアと同棲出来たら3日で死んでもいいや。

気持ち悪いって?知ってる。

あ、でもソニアと一緒に住むってことになったら絶対ヴィンさんも一緒に住むとか言い出しそう…。

あのハゲマッチョと一つ屋根の下とか…ただの罰ゲームじゃん!

 

              *


 ルービスが1人失礼な事を考えている頃、ヴィンは豪快ごうかいに「ぶぁっっくしぇい!」とくしゃみをぶちかましていた。

 「!わぁー。びっくりしましたよ~」

ソニアがヴィンのくしゃみに可愛らしく驚いている。

「あぁ…すまねぇ。誰かが俺の悪口言ってやがるな。」

「ヴィンさん。それは迷信めいしんですよ。」

フフフと笑うソニア。しかし今回は本当にルービスが悪口を言っている。いや、思っていた。

「あぁーっっくしぇい!うぇいちくしょーっ。」

ヴィンがまたもや豪快ごうかいなくしゃみを1発。

「・・・」

あまりのひんのないくしゃみにソニアは苦笑にがわらいをしながら絶句ぜっくしていた。


 「しっかし…。ルービスの奴、全然連絡よこさねぇな。」

ヴィンは少し不機嫌ふきげんそうに頬杖ほおづえをついている。

「今日でもう3日目ですよね?どこかで倒れてなければいいんですけど…」

ソニアもルービスの安否あんぴを心配していた。

「あぁ見えてなかなかしぶとい奴だ。心配いらねぇよ。」

「そう…ですよね…」

ヴィンの言葉を聞いても、やはり心配そうなソニアはぽつりと言葉をらした。

「ルービスさんを探している方は、一体どのような目的で探しているのでしょうか。」

ソニアはルービスと別れた後すぐに、ヴィンから彼が身をかくすにいたった経緯けいいを聞いていた。

「さぁな。だが女に探されるとは、あいつもすみけねぇな。」

ヴィンはまるでソニアをからかうかの様に、にやけ顔をしている。

するとソニアは笑顔でヴィンの方を向いた。

その顔は笑ってはいるが、表情にかげが着いている。

「ヴィンさん?今日の夕飯は抜きです。」

『やっちまった…』とヴィンは心の中で後悔こうかいした。

この後ヴィンは必死にソニアのご機嫌取きげんとりを行い。何とか許してもらえたと言う。


          *


 「さすがにこれだけあぶればもうかないだろう。」

僕は息を切らしながら松明たいまつあぶり、駆除くじょした害虫がいちゅうの山をほうき丁寧ていねいにちりとりにうつしていく。

もう嫌だ…1日中、害虫駆除とか僕は業者ぎょうしゃか!と突っ込みたくもなるが、自分で「ここに住む」と決めたので文句もんく程々ほどほどに片付けを行っていく。

小要塞しょうようさいの中の掃除そうじが完全に終わるまでは、外で調理と食事を行っている。

最初こそこの小要塞しょうようさいたか雑草ざっそうおおわれていたけど、入り口近くの一区画ひとくかくの草むしりをしたからとりあえず調理と食事をするくらいなら特に問題はない。

ワーグナーのはかもこの区画くかくの中にある。

もちろん毎朝手を合わせているよ。


 夜になれば木に登って眠るだけ。

何でわざわざ木に登るかって?危なくないかって?心配ありがとう。

木に登って寝るのは害獣がいじゅうから身を守るためなんだ。

こんな森の中で普通に寝てたら野犬やけんとかにわれかねんからね。

さすがにそんな死に方は嫌だからさ。僕が死ぬときはソニアの腕の中でってもう決めているんだ。

木の上で寝ると落ちそうに思えるかもしれないけど、これが意外と落ちないんだ。昔はよく落ちてたけど…。まぁれだね。

このケージ内ではこの手のスキルが自然と身に着くんだ。

こういう風にポジティブに考えないとここではやっていけない。


 さて、とりあえずあと2、3日程ここで待機して様子を見てからソニアとヴィンさんに報告しに行こう。

ヴィンさんはともかく、ソニアには心配かけたくないしね。

今後の展望てんぼうを考えながら僕はれたつきとあしつきで木に登っていく。

丈夫じょうぶえだ上半身じょうはんしんがぴったりおさまるくらいの長さ、周りに何本もある細い枝を少しいじり、わくの様にすれば準備は完了だ。

あとは眠るだけ。

 枝の上で落ち着いた僕は何も考えず、自然と眠りに落ちるのを待ちながら、しずかに月を眺めていた。

 しかしこの時、着々と僕に近付きつつある存在があった。

僕がそんなことを知るはずもなく、ゆっくりと夜は深くなり、やがて僕は眠りについた。

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