第127話 倍返しじゃ済まない

 ビンタから数十秒後のこと。


あかねちゃんとあおいちゃん。こんにちは♪」


 2人が隠れていた細い道に男を引きずり込んだ彩音あやねは、ニコニコ笑顔で彼を壁際へと追い詰めていた。


「中学生には少し刺激が強いから、目と耳を塞いでてくれるかな?」


 そう言われると茜たちは素直に頷き、ギュッと目を閉じてお互いの耳を塞ぎ合う。

 ただ、好奇心は抑えられないようで、薄目でこちらを見ているのがわかった。


「さてと。先輩、全部白状してくださいね?」

「だから、俺は何もしてな―――――――――」


 誤魔化そうとした男の言葉はそこで止まった。いや、止められたと言うべきかもしれない。

 彼の右耳スレスレの位置に、彩音の靴裏が蹴りつけられたから。普通の人間ではシラを切り続けられるはずがないのだ。


「お姉ちゃんが嘘をついたとでも?」

「ほ、本当に何もしてないんだよ!」

「……ほう、分かりました」


 その言葉に男がホッと安堵したのも束の間、彩音は斜め掛けしていたポーチの中から何かを取り出して見せる。……ハンマーだ。


「私、お姉ちゃんのためなら何しでかすか分かりませんよ?」

「ちょ、さ、さすがに脅しだよな?」

「……さあ? 本気だったらどうします?」


 彼女はそう言いながら、足元に落ちていた石目掛けてハンマーを振り下ろす。

 鉄で出来たソレでいとも簡単に砕かれた石を見て、男は自分の運命を悟ったのだろう。突然震えながら謝り始めた。


「わ、悪かった! でも、手は出してないから!」

の間違いですよね?」

「そ、そうだけど……」

「先輩、この石を見てください。こんな風にバラバラになりたいですか?」

「こ、この通りだから……勘弁してくれ……」


 土下座をする男を見下ろす彩音の目は、明らかに正気ではない。許すつもりなんて呼び出した瞬間からなかったのだろう。


「泣けば済むと思ってます? お姉ちゃんもそうやって謝ったんじゃないですかぁ?」

「その通りです……」

「なら、同じ運命辿りましょうよ。異性から心に深い傷、残されちゃうっていうね?」

「ひっ?!」


 振り上げられる腕に怯えるソイツに、彩音の口元がにやりと歪んだ。

 彼女は「まあ、体にも残りますけど」と言いながら思いっきりハンマーを叩きつけ―――――――。


 バキッ


 ――――――――――――砕けた。


「……へ?」


 頭蓋骨、ではなくハンマーの方が。いや、もはやハンマーと呼んでいいのかすらわからなくなってしまった、ただのプラスチックの塊だ。


「ふっ、ふふ……先輩、騙されてやんの。お姉ちゃんを苦しめたやつを一発で消すなんて、そんな勿体ないこと私はしませんよ」

「ど、どういう……」


 困惑する男の視線が莉斗りとの方を向くが、彼は依然として落ち着いている。

 だって、土下座していた男には見えていなかったであろうものが、莉斗には見えていたから。


「途中で取り換えたんですよ、偽物に」

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