第108話 暗闇は切り開くもの
その後はおばけの格好をした本物の旅館従業員に何度か驚かされ、
「次はどっちが行く?」
「
「いいよ、お姉ちゃんが先に行って?」
「そう? じゃあ、私が行くわね」
そんな流れで2番目はミクになり、震える彩音は美月に任せて出発する。
微かに悪い顔が見えたような気もしたけれど、帰ってくるまで彩音さんが無事だといいな。
おそらく叶いそうにない願いを胸に秘めつつ、莉斗は再度薄暗い森の中へと入っていくのだった。
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「お化け、本当に出そうね」
「ミクも怖い?」
「……知ってるでしょ、私が暗いの苦手なの」
「もう克服したのかと思って」
先程から彼女は手を握ってきているが、莉斗に震えは伝わってきていないし、表情にもそこそこ余裕がある。
だから、怖がっていないのだろうと思っていたのだが、本人が言うにはそういうことではないらしかった。
「昔、押し入れに閉じ込められたことがあったでしょ?」
「僕が上の段でミクが下の段だった時の?」
「そう、あの時のことを思い出すと安心するの」
それは2人がまだ小学生の時のこと。ミクの父親が家のものを片付けると言って押し入れのものを全て出した日があった。
その時、彼女が好奇心で『入ってみたい』と言ったのだ。買ってもらったばかりのおもちゃのトランシーバーを使い、押し入れを閉めて真っ暗な中で上の段と下の段で会話をしたりして……。
そしていざ出ようとした時、何かが引っかかるて出られなくなっていることに気がついた。
結局はすぐ外に積んであった箱が崩れてストッパーになっていたのだけれど、そんなことは知らないミクは大慌て。
『どうしよう……どうしよう……』
父親を呼んでも、家の中に居ないのか来てくれない。ミクの暗闇を怖がる感情はこの時に生まれたのだ。
唯一聞こえるのは幼馴染の声だけ。彼女は不安な気持ちを紛らわせるために、上の段にいる莉斗に手を繋いで欲しいとお願いした。
彼はそれに応えるために手を伸ばすが、扉と自分が乗っている段との隙間はほとんどない。
それでも泣きそうにお願いしてくるミクのために、莉斗は必死で隙間に手を通そうとした。
『あと少し……通っ――――――っ?!』
結果から言えば、隙間に腕は通った。が、ミクが引っ張ったせいで体が大きく傾き、押し入れの扉に肩が勢いよくぶつかる。
ただでさえ腕を通すために外向きに押していたこともあって、小学生の体重が一気にのしかかった扉はパカッとスライドレーンから外れてしまった。
その後は言わずもがな、莉斗は上の段から転げ落ちて背中を打ってしまう。
しかし、ただ痛かっただけで怪我はなく、結局は無事に外に出ることが出来たのだ。
「あの時の私は思ったの。手を繋いでいれば、怖いことなんてないんだなって」
「随分とメルヘンチックな考え方だね」
「今でも信じてるのよ? こうして手を握っていれば、莉斗が何とかしてくれるはずだもの」
そう言いながら手を握る力を少しだけ強めた彼女。莉斗はそんな様子に「そう言われたら守るしかないね」と呟いて、にっこりと微笑んだのだった。
……そう言えば、この時からだったかもしれない。お腹にモヤモヤとした違和感を感じ始めたのは。
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