第70話 敵ではなく友達として
結局、後半に撮影されたものに写っているのが、全てキスか耳舐めシーンという他の人には見せられないプリクラが排出されてきた。
3人はそれを眺めながら「なんだか暑いわね」「汗かいちゃったよ」「そ、そうだね」と視線を交わし合うと、足早にゲームセンターを後にする。
終わってから思い返してみて、とんでもないことをしてしまったのではとみんな後悔していた。
「そ、そうだ。ここって銭湯なかったっけ?」
同じエリアにジムや運動施設があるため、汗を流してから帰れるという良心設計なのだ。
「帰る前に入っていかない?
「いいわね、せっかくだし入りたいわ」
2人が言うならと莉斗もOKを出し、出口へ向いていた足を反対側へ向けて歩き始める。
建物の端から端まで歩くため、3人はそこそこの時間をかけて銭湯に到着すると、券売機で入場券と入浴に必要なものとを買って、それぞれ男湯と女湯へと入った。
「あら、他に人が居ないわね」
「えっ、貸切状態じゃん!」
「まったく、子供じゃないんだから」
「ミクちゃんはワクワクしないの?」
「そ、それは……少しくらいは……」
照れたようにそっぽを向く様子に頬を緩めた彩音は、ミクの手を引いてズラリと並ぶシャワーのひとつの前に座らせる。
「お背中お流ししますね♪」
「なっ?! 私はそんなことしていいなんて……」
「私思うんだよね、ミクちゃんとは友達になれそうだなって」
「突然何を……」
鏡越しに真っ直ぐ見つめられると、不思議とその瞳から目が離せなくなる。
ミクは背中に触れてくる指に緊張を高められながらも、必死にそれを隠し通そうと下唇を噛み締めた。
「だって、お互い莉斗君が好きなんだよ? 好きなものが同じってすごくない?」
「何言ってるのよ。恋敵と仲良くするなんて無理だから」
「誰も仲良しになるなんて言ってないよ」
「でも、友達って……」
「あくまで戦友ってこと。競って高め合えば、もっと莉斗君に相応しい女の子になれると思うの」
その混じりっけの無い言葉に、彼女は思わず悩んでしまう。本来ならすぐにでも乗り越えてしまいたい相手だが、現状は自分の方が劣っている自覚があったから。
それにもっと莉斗に相応しくなりたい気持ちは同じだった。一人では出来なくても、勝つべき相手が見えていれば成長出来るかもしれない。
「わかったわ、戦友として競い合ってあげる」
「ほんと? よかった♪」
心底嬉しそうに笑う彩音に、ついついミクも微笑んでしまう。
ほんの少しだけ、『いつか莉斗を取られても、この子となら仲良くできるかも』と思ってしまって、ブンブンと首を横に振った。
「どうかした?」
「……いえ、何でもないわ」
「じゃあ、背中洗ってもいいかな?」
「ええ、よろしくお願いするわね」
そう了承した直後、ボディソープを手に出して泡立てた彩音の口元がニヤリと歪んだことに、ミクは気が付くことが出来なかった。
「―――――――ひぅっ?!」
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