第115話<春>

俺の願いが神様に届いたのか、聞き覚えの在るデカイ笑い声が聞こえてきた。


まだ木々で姿は見えないが、間違いないガオンだ。


何故此処に居るのか。

エミリも一緒なのかは解らないが、とにかく合流だ。


近付いていくと何人か見知らぬ獣人とゴブリン、魔物らしき蔓の残骸。


良い予感はしないので、其れらはスルーしておこう。


俺達に気付いたガオンが、大きな声で笑い呼び掛ける。


「ガハハ、魔王様も修行ですか?」


例の如くゴブドが連れ回されてるので、どうやら遠出の修行らしい。


「そういう訳ではないが、エミリが何処に行ったか知らないか?」


「ガハハ、修行でしょう」


そんな訳が無い。

聞いた俺が馬鹿だった。


「匂いは、向こうからしますわ」


ネズが指差した方角には、一面森の中に異質な塔が聳え立っていて。


塔辺りの空は、紅紫に染まった不吉な色をしている。


何故かガオン達と一緒に居たゴブリンの道案内で、俺達は塔に向かう事となった。


「お初御目ニャ掛かります魔王様、私はガオン様の嫁ウルルと申します」


「其の執事ジトーでございます」


道すがら自己紹介を受けたが、衝撃を隠せない。


聞き間違いじゃないよな。

今、嫁って言わなかったか?


その上道案内してくれてるゴブリンの女性も、ゴブドをチラチラ見てるし。


俺の春であるエミリが、原因不明の行方不明だというのに。


コイツ達には春か! とうとう異世界に春が来たのか!?


俺がそんな事を考え動揺していると、ネズが声を掛けてくる。


「塔の奥から匂いがしますわ」


だが塔の入り口には大きな蔓が絡まっていて、どう見ても入れそうにない。


考えあぐねていると、問答無用でガオンが蔓を叩き斬る。


「ガハハ、魔王様参りましょう」


明らかにヤバそうな場所なのに、この楽しそうな感じ相変わらず理解不能だ。


塔の中に入ろうとすると、何故か中から出て来たコボルト達と視線が合う。


デカイ蔓のせいで、閉じ込められていたのか?


だが其れよりも気になるのは、この上から下から舐める様な視線だ。


此れにはトラウマの如く見覚えが在る。そうネズだ。


数分と経たず、止まらないヨダレ。


まるで恋して時間が止まったかの様に、コボルト達は俺を見つめていやがる。


俺が望んでいるのは、こんな春じゃね-よ。

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