第111話<一仕事>

「今のうちです、皆さん早く……」


立ち塞がるエミリにゴーレムは殴り掛かるが、薄い光りに阻まれゴーレムは触れる事も出来ない。


「コレは格好悪い所、見せられないね」


無傷なコボルト達三人が、負傷したコボルト達を抱え脱出の隙を伺い。


駆け出すガルのメンバーは、背後のゴーレムと交戦を始める。


先導するルドエルが、ゴーレムの攻撃を誘発させ。


リジョンの岩石魔法で、ゴーレムとの距離を調整する。


大振りなゴーレムの攻撃を避けながら、ルミニーは飛剣での斬撃を繰り返し。


其の連係に依って積み重ねたダメージは、徐々にゴーレムの装甲を削っていき。


微かにだが、胸元のコアが露出する迄になっていた。


「本当にタフな奴だね、そろそろ御開きだよ」


宣言通りルミニーが繰り出す横一線の飛剣で、逃げ場を塞いでいた一体のゴーレムはその場に崩れ。


もう動く事もなく、瓦礫となっている。


「さあアンタ達、さっさとトンズラだよ」


ルミニーはコボルト調査部隊に合図を送り、一筋の希望が見えた其の時。


エミリが抑えていたゴーレムは拳で壁を破壊し、エミリが逃げない様に回り込む。


エミリの能力は防御としては絶対的だが、押し返す力が有る訳では無い。


真横に墜落すれば死ぬ威圧感と恐怖で圧され、ジリジリとエミリは落とされそうになっていく。


「エミリ-!!早くこっちに走るんだよ! 」


ルミニーの叫び声も虚しく、エミリは風穴に追い詰められたまま身動きが取れないでいる。


「行けエミリ!」


そう言って飛び出したトウは、ゴーレムに火の玉を吹き。


ゴーレムの敵意を自分に向けようとするが、災難は其れだけでは無かった。


エミリの背後に有る風穴から静かに伸びてきた触手が、エミリを光りの膜ごと包み。


上空に引っ張り上げ、連れ去ってしまったのだった。


エミリの悲鳴と同時にトウは風穴に飛び出し、バタバタともがく様に空を飛びエミリの後を追う。


一体のゴーレムと共に、塔内に取り残されたルミニー達。


このまま逃げるか、ゴーレムを倒しエミリを追い上を目指すか。


誰もが茫然とする中、判断はリーダ-で在るルミニーに委ねられる。


新たに標的を変えた、ゴーレムの視線がルミニー達を捉え。


動きだそうとした時、ルミニーが口を開く。


「冒険者ってのはね、命有っての物種なのさ。 だからね、どんな大物倒そうと死んだらお仕舞いなんだよ…… 」


「其れは連れ去られた仲間を諦め、撤退するという事か? 」


反対する異図は無かったが、思わずコボルト達は訊ねる。


「だから此処からは冒険者じゃなく、アタシ達ヒトとしての戦いなのさ」


「やっぱり、そうなるよな」


「ですよね」


ルミニーの言う事が解っていたかの様に、ルドエルとリジョンはゴーレムと向かい合う。


「正気なのか、全滅しに行く様な物だぞ…… 」


一様にコボルト達は、驚きの表情を隠せない。


「帰りは魔物も居ないだろうから、これで依頼は達成だね。 

アンタ達は先に戻りな」


自ら死地へと向かうルミニー達に、気の利いた言葉なんて思い浮かばず。


「すまない、感謝する…… 」


そう言ってコボルト達は、走り去って行く。


「さあアンタ達!もう一仕事するよ」


そう言って二人に檄を飛ばし、ルミニーは剣を握り直す。


ルドエルとリジョンは、もう最後になるかもしれない笑顔を返し。


ガルの三人は、襲い来るゴーレムに向かって駆けて行くのだった。

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