第86話<求める強さ>
「魔王様~!」
翌日の朝。寝室で寝ていた俺は、窓の外から響く声で起こされ。
外を覗くとゴブドが大きく手を振り、元気をアピールしている。
前日の名付け後。一日寝込んでいて、俺が心配していたのを聴いたのだろう。
「お陰で強くなりました、是非観てて下さい」
そう言ってゴブドが一礼すると、近くに居たガオンが大きな何かをゴブドの方に放り投げた。
暫くすると立ち上がった其の何かは、ジャイアントマンテイス。
ガオンと同じ位に大きな、カマキリの魔物だった。
元気になって戦う姿を見せようとしているのだろうが、正直斬殺される展開しか想像出来ない。
ゴブドの見た目は名付け前と変わらず、何処にでも居る普通のゴブリン。
強くなったようには見えないから、戦いが始まれば一瞬で刻まれてしまうだろう。
本当に大丈夫なのか? そう思った矢先に戦闘は始まる。
ジャイアントマンテイスを中心に円を描き、軽やかなフットワークで距離を保つゴブド。
待ちきれず、前進したジャイアントマンテイスが切り掛かり。
背後に回り込んだゴブドが糸の様な何かを放出して、ジャイアントマンテイスを縛りあげる。
もしかして今ゴブドが使ったスキルは粘糸か? 何時の間にこんなに強くなったんだ。
そんな事を考えている間にゴブドは剣を振り下ろし、動けないジャイアントマンテイスにトドメを刺す。
「どうですか魔王様~! 強くなったですよね」
嬉しそうに手を振るゴブドだが、急に強くなり過ぎだろ。
これでは、俺の立場が危ういじゃねーか。
「次は魔王様と手合わせで鍛えて欲しいです、命懸けで頑張ります」
「ガハハ其れは良い。其の次は三人で戦いましょう」
ゴブドの言葉に便乗して、透かさずガオンが戦いたがる。
「我は食糧確保に忙がしいので、また今度な」
取り敢えず其れらしい事を言って誤魔化したのだが、コイツらややこしさがパワーアップしてやがる。
そもそも主君と戦おうとするんじゃねー、 何が命懸けで頑張りますだ。
「フハハハ、にぎやかになってきたではないか」
そんな事を考えていると、他人事の様に笑う魔王の声が直接頭に聞こえてくるのだった。
一方宿屋にて一日を過ごしたセトは、スキル集めの為に森へと向かう。
前回の失敗から学んだのか、足が付く獣人でのスキル狩りはせず。
無難に、スキルを奪っていない魔物を探すのだった。
襲われやすい様にか、武器はナイフのみ。
其れでもギョロついた凶悪な目付きと、ニヤついた口元は他者を遠ざける。
其のイラついた表情が、クーガーに引き摺られた復讐の為なのは云うまでもなく。
より強いスキルを持った魔物を探し、奥へ奥へと進んで行く。
だが何処まで進んでも、強い魔物は現れず。
出てくる魔物はスキルを奪い、倒した事の有る雑魚ばかり。
ずっと不機嫌そうに草や木々を凪ぎ払い、八つ当たりして進み続けていたセトだったが。
陽も暮れ始め、諦めた様子で宿屋に戻り。
強い魔物が居る場所の情報を集め始め、得たのが破樹の塔。
一般的な身体能力では人間よりも強い、獣人達ですら近寄らず。
塔内部では犇めく様に魔物が巣くう、ダンジョンの塔だった。
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