第56話<物好き>


「獣人のガオンさんとコボルトのネズさん。さっき仲間になったモグラさんと魔王さんです」




ルミニーの質問に笑顔で答えるエミリは、魔王という肩書きが禁句だとは思っていなさそうだ。




意外と天然だったのか?


異世界と云えば魔王が討伐対象なのは常識だろう。




何とか魔王だと誤魔化せたネズが居るから、説明すら出来ない。




見た感じ冒険者だが、大量のキラーアントを倒す位だから強いに決まっている。




このまま魔王と解れば又、モグラの時みたいに戦闘は避けれない。




「魔王……?」




案の定、ルミニーの鋭い視線が俺だけに集中する。




「マオーって呼び名なんだ、珍しいだろ……」




出来るだけ緊張を悟られないように、明るく返す。




名前ではなく呼び名なら、そう違和感は無いはずだ。




後はガオンとネズが余計な事さえ言わなければ……。




「……マオー? 確かに普通は付けないね」




出生が不運だったと思ったのか親が物好きだと思ったのか解らないが、ルミニーは其れ以上詮索しない。




良し、何とか乗りきったぞ。


魔王の服装だが、人間の姿だったので助かったな。




そう思ったのも束の間、背後で黙っていたガオンが口を開く。




「お前達が此のキラーアントを倒したのか?」




「まぁ、半分以上はアタシだけどね」




あっけらかんとしたルミニーの言葉を聞き、ガオンが不敵に笑う。




外に放り投げたキラーアントの残骸を含めば合計二百位、其の半分以上を一人で倒した事になる。




見たところ残骸の中に紅い蟻は居なかったが、其の数はガオンが洞穴内でキラーアントを倒した数より多く。




戦闘狂なガオンの事だから、もう嫌な予感しかしない。




「ガハハ、強いな冒険者の女よ。是非手合わせしてくれ」




案の定だよ。


折角戦闘回避出来たのに、こっちからバトル申し込んでるじゃねーか。




「アラ~、ガオンさん頑張って下さいな。骨になったら美味しそうな人間ですわ」




ネズ余計な事を言うんじゃね~。


更に話しがややこしくなるだろうが。




流石に一対一で闘うと思うが、頼むから巻き込まないでくれ。




「此の残骸観ても戦いたいなんて、アンタも物好きだね」




そう言って剣を手に取ったルミニーは、ガオンに向かって構え。




其れを戦闘開始の合図と云わんばかりに、ガオンの大斧が降り下ろされる。




「ルミニーさん危ない!!」




心配するエミリの声が響き。




降り下ろされたガオンの大斧を、ルミニーは後方に飛び避け笑う。




だが笑っていたのはルミニーだけではなく、其れはガオンも同じだった。




まるで狂戦士の様に笑いながら二人は駆け寄り、言葉を交わす様に剣を交える。




とはいえ手加減はなく、一瞬でも気を抜けば致命傷は避けれない。




交差する剣撃が衝撃で火花を散らし、攻防の緊張感でその場の誰もが言葉を失う。




其れでも笑いながら闘う姿は、互いに物好きとしか言い様がなかった。

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