第15話<ゴング>

寝心地は最悪だったが、気分は悪くない。


きっと目覚めても彼女の顔が頭から離れないからだ。




恋の力というのは恐ろしいものだ。


もしかしたら何かの能力かもしれないと、勘違いしたくなる位に。


彼女の為なら魔王とでも闘えるかも知れない。




彼女もこんな所で寝かされたのだろうか。


取り敢えず無事かどうか確認したいが、牢屋から出れないんじゃどうしようもない。




其れにしても改めて観ると殺風景な場所だな。


夜には気付かなかったが、壁際に簡易なトイレらしき穴が在るだけで他は窓以外に何も無い。


何日もこんな場所に居たら気が狂ってしまいそうだ。




そんな事を考えていると、骸骨兵達の足音が近付いて来ている。


其の足音に、呑気に寝ていた他の囚人達も眼を覚ましていく。




新しい囚人なのかと覗きこんでいたが、骸骨兵は誰も連れてはいない。


但し三体の骸骨兵が立ち止まったのは、俺の真ん前だった。




此れは目が合っているのか?嫌な予感しかしない。


頼むから他の奴を連れて行ってくれ。


そんな願いも虚しく、鍵を開けて連れ出されたのは俺だった。




抵抗した方が良いのか。


俺は殺されて飯になってしまうのか。


骸骨兵の表情からは目的地の予想すら出来ない。




連れられたまま数分おずおずと歩き、着いた場所は円形の広場。


処刑を楽しむ為なのか、広場の中央で解放された俺を大勢の魔物達が取り囲んでいる。




終わった。


もう死ぬ予想しかない。


彼女の為なら魔王とでも闘えるなんて思っていた頃が、夢の様に思える。




そんな事を考えていたら、背後から「ククク、クク」と聞き覚えの有る特徴的な笑い声が聞こえてきた。


振り返ると、同室の囚人達も取り囲む側で並ばされている。




もしかしたら彼女も並ばされて居るのか。


そう思い探そうとした時に、正面から自分と同じように兎の魔物が連れられてきた。




さあ闘えとでも云わんばかりに、向かい合わされた俺と兎。


状況というのは恐いものだ。


この何も無い広場が、もう武闘場にしかみえない。




兎は全体的な見た目カワイイが、額に角が有り目付きも鋭く間違いなく魔物である。


闘うようなスキルも無く、武器も渡されてはいない。




助かる可能性は擬態スキルのレベルアップだけだ。


慌ててステータスから、擬態Lv1オーク声真似の使用を選択。


身体が自然に、グフッグフッとオークの鼻息を出すのを連発。




恒例行事的にククク、ククと笑い声が聞こえるが無視。


MPを使いきったタイミングで頭に機械的な声が響く。




<擬態Lv3姿真似を取得しました>


キタ-Lv3。作戦成功だ。




だが姿真似?どう考えても戦闘には使えそうにない。


そんな俺の気も知らず観客の囚人達は「殺ゼ、食べる」と歓声を上げ騒ぎ始め。


兎が襲ってこないから良いものの、今にもバトルが始まってしまいそうだ。




暴動さえ起きそうな、そんな中。


何やら偉そうな一体の骸骨兵が中央に来て、腕を振り合図を送ると鈍いゴングが響き。


其れと同時に頭に機械的な声が響く。




職種・囚人から[職種・囚人・時々拳闘士]に変わりました。


どうでも良い、今それどころじゃねーよ。


晴れ時々みたいに云ってんじゃね-。




そんなふうに思っていた、この時。


職業に依り得る事の出来るスキルが在るなんて、思いもしていなかった。

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