Episode3-41 【第六番団副団長】ルーガ・アルディカ VS 【第二番団団長】ジャラク・アラバル
シスターを背負いながら王都を駆け抜けていく。
屋根伝いに飛び移り、聖女様を追いかけつつ、人の少ない方へ。
「ちっ……! 厄介な奴め……!」
チラと後方を見やれば、俺たちの後を尾けるブルルガンクの姿。
どうやらあいつの興味は俺にあるみたいだが、いつ何の罪もない人々に手を出すかわからない。
聖女様の位置はわかっているのに、まっすぐ近づけない中で生まれる焦り。
『みなさん、慌てずに避難してください! 問題ありません! こちらにいる第六番団副団長:ルーガ・アルディカさんが討伐にあたっています!!』
背中にいるシスターが【加護】を使って避難勧告を行ってくれている。
悲鳴が飛び交う街を駆け抜ける中、選択を迫られていた。
ここで迎え撃つか。もう一つは……。
先ほど彼女が浮かべた表情を思い出し、それを踏まえたうえで俺は託すことを決めた。
「……マド」
「――自分に任せてください、ルーガ先輩」
食い気味に。あるいは自ら進言するつもりだったのか、俺の隣に並んだマドカはそう口にした。
鋭く力のこもった瞳が俺のわずかな迷いを受け消した。
覚悟がある。
本当に命がかかった戦いに赴く覚悟が。
「おっと、一人でいい思いはさせないよ。ボクもいるのを忘れないでよね」
ミツリもまた
腕に装着された手甲刀をカンカンと叩いて、アピールしている。
二人とも決して己が死ぬつもりで言葉を発していない。
勝って役目を果たす。魔族を討ち払い、平和を守る。
立派な志と覚悟が伴った聖騎士の顔つきだ。
ここまでされては俺がかける言葉はほとんどないだろう。
「マドカ。生きて帰れ」
「もちろんです。私にはルーガ先輩と結婚する夢がありますから」
「ミツリ。ぶちかましてこい」
「わかってますよ。ボクにも夢があるから……越えてくるよ、この
「――頼んだ」
「はいっ!」「うんっ!」
俺は方向を切り替えて、聖女様が連れ去られた場所へ一直線に向かう。
数秒後、後方で破砕音が響く。
決して振り返らない。
それは彼女たちへの裏切り行為だ。
なによりヒシヒシと感じていたブルルガンクのプレッシャーは消えている。
「シスター。口を閉じておいてください。スピードを上げます」
「わかりましたっ」
「――疾っ」
聖女様のおっぱいのオーラは白く濁りのない温かさを感じさせる。
まだまだどんな姿にも成長を思わせる未完成の状態。
眼を閉じていても確かに俺を導いてくれた。
目的地は大聖堂。
聖騎士の総本山だ。
大聖堂はちょうど戦力が手薄になっている。
第一番団、第三番団は遠征。そのほかも主力は聖女様の護衛のため、聖騎士養成学園へと集結していた。
そもそも聖騎士たちはジャラクが大聖堂を貸し切ったとしても何ら疑問に思わない。
聖女様を連れ込む姿さえ見られなければ、こんなに安全な場所はないだろう。
「っ……! あれは……!」
大聖堂の前に捉えた一つの影。
見覚えのある顔をした彼女は上空から接近する俺に気づくと、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。
聖女様の近くにあった強い
「よぉ。また会ったな」
「全裸暗殺者……!」
「てめぇに言われたくねぇよ、全裸聖騎士のくせに!?」
「今日は脱がなくていいのか?」
「ぶっ殺すぞ!? 私は露出狂じゃねぇ!」
黒装束ではなく変装用の修道女服を身にまとった暗殺者は顔を真っ赤にして叫ぶ。
無事に着地した俺はそっとシスターを下ろして、彼女が離れるまでの時間を稼ぐ。
彼女も腕が立つのは知っている。
だからこそ、制圧するための最短時間を計算していたのだが、どうも目の前の彼女からは殺気が一切感じられない。
「おいおい。なに間抜けな面してんだよ」
「…………」
「……まぁ、お前の考えてるくらいわかる。その通りだよ。私に今のお前と戦うつもりはない」
武器すら構える様子もない彼女はあっけらかんと言い放つ。
「ハァ……ねむ」とあくびする姿もこちらの攻撃を誘うために隙を作っているのではなく、自然に出たものだ。
「……いいのか?」
「別に? 私は万全のお前と再戦したいだけ。ボロボロのお前に勝っても私のプライドが許さない」
そもそも、と彼女は続ける。
「こんな真昼間から堂々と殺してたら暗殺者失格だろ?」
「……ははっ! 確かに言う通りだ」
「だから、さっさと行けよ。んで、サクっと終わらせて治ったら次はちゃんと殺しに行く」
そう言って彼女は奥の大聖堂の扉を指さす。
矜持を守るためなら堂々と職務を放棄する彼女とは違う出会い方をしていたら、仲良くなれていたかもしれないな。
「……ありがとう」
「気にすんなよ。次は命もらうし。それに私が命じられたのは邪魔者を通すなってだけ。聖騎士と修道女が大聖堂に入るのは何らおかしくないだろ?」
「いい性格してるよ、あんた」
俺はシスターを手招きして、暗殺者の隣を越えて、大聖堂の扉に手をかける。
「この戦いが終わったらいつでも相手してやる。
「その前に生きて帰ってこいよ、変態聖騎士。死んだら地獄でぶっ殺す」
激励ともとれる言葉を背に受けて、俺たちは大聖堂へと足を踏み入れる。
教壇の前にはウエディングドレスに着替えさせられた聖女様。
そして、気持ち悪さを全面に押し出したジャラクの姿があった。
「ルーガ副団長……! ライラ……!」
「アルディカ!? なぜ貴様がここに……!?」
完全に振り切った気でいたのだろう。
甘い。結局、お前は聖騎士としては多少、優秀レベルなのだ。
世の中には常識に当てはまらない人間がいる事実を考慮しなければならない。
俺が聖女様のおっぱいの気を感じて、追跡できる可能性を思いつかなかった時点で詰んでいる。
「決まっているだろう。聖女様を助けに来た。お前という悪魔の手からな」
黒の短剣を抜く。
リオン団長、マドカにミツリ。カルキア学園長、隣にいるシスター……。
様々な人から期待がかけられている。
それらに応えるのが聖騎士というものだ。
『BLOODY CHARGE!!』
「【黒鎧血装】!」
正義を執行する黒の鎧を招来する。
空から降り注ぐ光を一身に浴びて、黒刀で切り裂いた。
そして、次に切り殺す獲物を刀身に映しだす。
「お前の野望……俺の聖剣が切り裂く!」
「ほざけ、小童が! フレアは誰にも渡さん……! ここまでやって邪魔だてはさせんぞ!!」
【第六番団副団長】ルーガ・アルディカ VS 【第二番団団長】ジャラク・アラバル
◇というわけで、三か所で同時戦闘勃発です。
順番としてはリオン団長→マドカ&ミツリ→ルーガの順で一戦ずつ決着まで書いてまいりますので引き続きよろしくお願いいたします。
新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。◇
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