Episode2-5 そして俺は興奮のあまり意識を手放した

 時はさかのぼること数十分。


「それでは私はルーガ先輩のお背中を流しに行ってまいります」


「待て待て待て待て」


 マドカちゃんがさっそく暴走しようとしたところをカルラちゃんが止める。


 普段の冷静沈着な姿からは想像できない暴れっぷりだ。


「落ち着け。お前は自分が何を言ってるのかわかってんのか?」


「もちろんです。先輩はお疲れの様子。労るのは後輩の役目でもあります」


「本音は?」


「サキュバスに童貞を奪われるくらいなら私が今から貰います」


「よーし、わかった。いったん話し合おうか」


 カルラちゃんは自慢の【怪力】を使って着席させる。


 渋々と従うが、マドカちゃんの顔には不満と焦りが見て取れた。


「逆に質問なのですが、団長とカルラさんはいいのですか? 先輩が他の女性。それも見ず知らずのサキュバスとヤっても」


 それは絶対に嫌だ。


 風俗にハマったルーガくんを想像しただけでも辛さで吐き気を催す。


 だけど、彼がサキュバスと情事に励むかと問われたら……正直言ってありえないと思う。


 ルーガくんにも一定の性欲があるのは、ここ最近のやりとりで理解している。


 そのうえで彼は情欲に負けないと判断できる。


「マドカちゃんの言い分もわかる。でも、ルーガくんは本当に調査だけして帰ってくるよ」


「その根拠はあるのでしょうか?」


「そんな男なら第六番団に居場所はないもの」


「そうだぜ、マドカ。ルーガはアタシらみんなが認めた立派な聖騎士なんだ。あいつを信じてやれ」


「……それを言われると私も反論できません」


 マドカちゃんはおそらく第六番団で最もルーガくんに懐いている。


 ずっと可愛がってもらっているし、盲目的になってしまうのも仕方ないことだ。


「それじゃあ、この件は終わり。仕事にもど」


「ですが、私はルーガさんが好きです」


「ろう……え?」


「好きな男性の童貞が欲しいと思うのはおかしなことでしょうか?」


 好き……? マドカちゃんがルーガくんを……?


 ズキリと胸が痛む。


 ……なんだろう、この気持ち。もやがかかって晴れない。


 グチャグチャにかき乱される感じがして気持ち悪い。


「…………」


 カルラちゃんも苦虫を噛み潰したよう。


「リオン団長。カルラさん。もう一度聞きます」


 マドカちゃんの告白に一言も返せない私たちを見つめて、彼女は問いかける。


「他の女に童貞を奪われてもいいんですか?」


 ……私は、私は…………!






 彼女の真剣な想いに率いられるように私たちは大浴場へとやってきた。


 私は淫紋を見られないように水着を着て、マドカちゃんとカルラちゃんはバスタオル一枚。


 マドカちゃんが立てた作戦はこうだ。


 先ほどまでの流れを利用して、ルーガくんの体を洗ってあげる。


 どさくさに紛れて3人で襲い掛かる。


 ルーガくんの童貞をゲット!


 まさか私たちが男性を襲う側になるなんて……。


 ……ああ、ダメ。


 淫紋がキュンキュンうずいてる。


「ど、どうしてここに!?」


「母ならば子と一緒にお風呂に入るのは普通ですよ、ルーガ先輩」


「俺とマドカは親子じゃないが!?」


「あらあら、反抗期ですか?」


「すごいなりきり!? カルラさんもおかしいですって!」


「いや、アタシは……その汗を流しに来ただけだから気にすんな」


「無理を言わないでください! リオン団長……団長?」


 ルーガくんが心配気にこちらに近づいてくる。


 わかる。濃いオスの匂いが漂っているのが。


 そのタオルの下に隠れているパンパンに膨れ上がったお金玉の存在感。


 サキュバスの本能がすべてを見抜いて、衝動が体を突き動かす。


「……ふふっ」


「っ! 二人とも俺から離れて!」


「ハァ……ハァ……」


 ルーガくんを押し倒す。


 お尻に硬く、熱がこもったモノを感じる。


「ルーガくん……。ルーガくん……っ」


 胸を押し付ける。こすりつける。


 もっともっと快感を。


 ルーガくんの熱情をたぎらせて……!


「くっ……カルラさん! マドカ!」


「おう!」「任せてください!」


「きゃっ!?」


 カルラちゃんのタックルでルーガくんから引きはがされる。


 彼から離れたおかげか、衝撃で目が覚めたのか。


 もうろうとしていた意識が正気を取り戻した。


「カ、カルラちゃん? 私はいったい……」


「ちょっとエッチで淫らな変態になってただけだ。あんまり気にすんな」


「うぅ……穴があったら入りたい……」


「それよりルーガを助けるぞ。マドカが暴走してる」


 カルラちゃんの視線の先。


 マドカちゃんは私のあとを引き継いで、倒れた彼に馬乗りしている。


「あれ!? 俺の意図、通じてなかった!?」


「ちゃんとわかっていますよ? 巨乳の団長よりさきほど感じた私の胸がいいからチェンジって合図ですよね」


「相性最悪!」


「ママの私がちゃんともらってあげますからね、ルーガ先輩」


「母親は子供の股間に手を伸ばさないと思います!」


「なら、私は今をもってママ役をやめます」


「切り替えが素早い!? そもそも三人とも風呂にやってきた理由がわからないんですが!」


「ルーガ先輩の童貞を奪うためです」


「……は?」


「サキュバスなんかはルーガさんの初めてに相応しくありません」


 うっ。悪意のない流れ弾が私に当たる。


「サキュバスなんてセックスしか頭にない淫族じゃないですか!」


 あうっ。


「すぐに快楽に溺れる蛮族です!」


 んぐっ。


「そんな奴らに大好きな先輩が汚される可能性があるならば! 私が先輩の童貞をもらいます!」


 ポツポツとマドカちゃんの瞳から涙が滴り落ちる。


 ルーガくんの頬を伝うそれが彼女の想いが本気だとヒシヒシと伝えてくる。


 彼女の感情の吐露を間近でぶつけられたルーガくんが最も感じているはずだ。


「……わかった。マドカの気持ちはよくわかった」


「ルーガ先輩……」


「安心してくれ。俺は風俗街のサキュバスに屈したりしない」


 ルーガくんは彼女の不安を取り除くような満面の笑みを浮かべる。


「だって、俺は処女にしか興味ないからさ」


 今までの雰囲気、ムードがすべて消え去った。


「隙あり!」


「きゃっ!?」


 体が固まった隙を狙って、マドカちゃんをお湯の中へ放り投げるルーガくん。


「けほっげほっ……! くっ! やられまし……た……ぁっ」


 マドカちゃんが勢いよく立ち上がる。


 そうすれば水を吸って重くなったバスタオルが落ちるのは当然の結末で……。


 あらわになる桃色の膨らみ。


 正面に立っていた彼からはいちばんはっきり見えただろう。


「……神は存在する」


 最後にそう言い残し、ルーガくんは鼻から鮮血を飛び散らせて倒れた。











 ◇あとがき◇


 本作がラブコメ月間1位となりました。

 読者の皆様、たくさんの温かい応援ありがとうございます。

 いただいた感想ですが火~金と忙しいのでゆっくりと返信させていただきます。

 いつも楽しく読ませてもらっていますので、遠慮せずにお送りください。

 次回、今まで溜めに溜めてきたアレが爆発します。

 これからもよろしくお願いいたします。

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