Episode1-8 第六番団所属団員:ルーガ・アルディカ
心構えは出来ているけど、実際にまた対面すると嫌だなぁ。
俺と団長はわざわざうちを選んでやってきた第五番団の連中を出迎えていた。
「本当にいいの?」
「構いません。これが本来ある形なんですから」
「……ごめんなさい。あれだとルーガくんの夢が」
「――好きなんです、リオン団長」
「ふぇっ」
「あなたと笑い合う時間も、カルラさんにからかわれるのも、マドカに剣を教えるのも……第六番団のみんなが笑い合えるこの場所が」
「……ルーガくん」
「みんなが傷つく可能性が1%でもあるのなら俺はやります。大切なモノを守るために」
交流試合とは守護騎士団どうしで毎年行われる実力比べ。
試合形式はそれぞれの代表5人が勝ち抜き戦。
勝った団は褒美に一定額の臨時経費がもらえて、負ければ褒美の一部を肩代わりさせられる。
【加護】はもちろん武器類の使用も可能な実戦的訓練ともいえる。
「よぉ、また会ったなモブ野郎。逃げないでお利口じゃねぇか」
到着早々、突っかかってくるミュザーク団長。
額同士がくっついてしまいそうな位置。
今日も随分と決まっていらっしゃる。
見た目だけは優れているから凄んでみせれば確かに迫力があるな。
彼より実力で劣る者は身をすくませてしまうだろう。
「褒めていただけて光栄です。……ところでミュザーク団長はご存知でしょうか?」
「あ?」
「自分が男色家だという噂を。……ふふっ」
「……ひとりでやってろ」
流石のミュザークもケツを掘られる趣味はないらしい。
安心しろ、俺にもない。
ですから、団長は隣であわあわと口を震わせないでください。
当然、演技だ。このキャラを演じていれば俺が副団長に選ばれた理由を勘違いさせることができる。
実力ではなく、男好きで安全だと判断したから抜擢されたと。
「さっさと案内してくれよ、マイリィ。なんならさっそく休憩でもいいが……」
「……訓練場はこっちよ」
ミュザークが伸ばした手を弾き、いつになく鋭利な雰囲気をまとった団長が今日の舞台へと先導する。
俺は最後方に回って奴らが変な動きをしないように見張り役。
しかし、団員たちもトップに似て、見てくれが荒々しい。
全員真っ黒な隊服とは聖騎士の自覚があるのか?
下品な視線。下卑た笑い。スラム街の犯罪者と紹介された方がしっくりくる。
団長はボディラインを隠す鎧をすでに着込んでいるが、それでも欲に忠実な奴らは止まらない。
「マイリィ団長。他の団員はいないんですかー?」
「さっきから一人もすれ違わないんですけど」
てめぇらなんかのために
当然、遭遇しないようにあらかじめルートを周知させている。
業務を止めることはできないが、危機回避の手は打っていた。
「もしかして団長さんがオレら全員の相手してくれるんですかぁ?」
……まさかここに来て
怒りが沸いてもちゃんと蓋で閉じれている。
「ふっ、そんなせっかちにならないでくださいよ、第五番団の皆さん。俺がちゃーんと全員分の相手をしてあげますから」
「……キモ」
「口開くな、変態」
「…………」
こいつら、ぶっ殺す!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺たちが用意した舞台は普段は室内練習場として使用している大部屋。
第五番団を一か所に留めておくことができて、本物の剣を利用しても問題のない場所はここしかなかった。
床には事前に石板を敷き詰めているから剣による傷のケアもばっちりだ。
つまり、遠慮なくこいつらをボコボコにできる。
「しょうもねぇ部屋だな。本当にここでやるのかよ?」
「お似合いでしょう?」
「確かに。モブのセンスならこれが限界か」
「この部屋の装飾担当はリオン団長ですよ」
「……つくづく人をいらだたせる奴だなぁ、てめぇ……」
「そんなに熱い視線向けないでください。照れますよ」
「……っ! っ!!」
とにかくヘイトを俺に集めさせる。
団長から意識が逸れればベスト。とにかく他の団員に気が向かなければ問題ない。
この場には俺以外にリオン団長、カルラさん、ミア先輩、ラフィアさんの五人。
ミア先輩やラフィアさんはリオン団長が選出しただけあって第六番団の中でもベテラン。
万が一の事態があっても動ける実力者だ。
マドカは出張っている俺たちの代わりに執務室でお仕事中だ。
「ミュザーク団長。ルールの確認を」
「ちっ……。マイリィも変な奴を飼ってんな。俺に振り向かないと思ったら、こんな趣味の悪い男がタイプだとは思わなかったぜ」
「大切な部下を侮辱する人よりレベルの低い男性なんているのかしらね」
「それはお前が男を知らねぇからさ。せっかく俺が女の喜びを教えてやるって言ってんのに」
「ありえない。あなたも、あなたの部下の視線もただ気持ち悪いだけだわ」
「いいねぇ。強気な女は大好物だ。屈したときの顔がそそるからなぁ」
交錯する視線。火花が散っている。
わずかに強者の圧が漏れ出ている。
奴も腐っても団長クラス。強き意志を持った者たちが一歩も譲らずにぶつかり合えば、周囲にも影響を及ぼすか。
「ふん……楽しみは最後まで取っておいてやる。さっさと説明しろ」
「基本的には聖騎士隊が推奨しているものと同じ。5対5の勝ち抜き戦。【加護】の使用あり。降参、または気絶などの戦闘不能状態になった場合のみ勝敗が決まる」
「それでいいぜ。ただ一つ追加だ。望んだ場合、
ミュザークの追加案は奴がわざわざ交流試合で第六番団を指名した時点で予想していた。
やっぱりそれが目的か。
――
聖騎士隊において両者が同意した場合のみ許可される賭けを含んだ戦い。
事前に勝利した際に相手に負わせる要求を通知。
勝負の結果、敗者は勝者の要求を必ず呑まなければならない。
「……最低」
「何のことだぁ? 互いが合意した時だけだぜ? 断ればいいだけの話だろうが」
聖己戦が行われる条件を鵜呑みすれば、確かにミュザークの言う通りではある。
だが、今の状況下ではどうだろうか。
奴らは交流試合の名目に便乗して、うちの団員を痛めつけようとするだろう。
勝敗は降参以外では気絶などの
ある程度の傷は許されてしまう。
言外にミュザークは聖己戦の許可を出さなければ、お前の大切な部下がどうなっても知らないぞと脅迫しているのだ。
リオン団長の優しさを利用した作戦。
この交流試合は彼女に聖己戦を受けさせるために組まれたといっても過言ではない。
「…………わかりました」
苦渋を飲まされたような表情で団長は承諾した。
「賢明な判断だな」
「……この外道」
「ん~? いつもの声の張りがないな? ほら、さっさと試合を始めるぞ。今晩は楽しいことがありそうだからな」
ケラケラと愉悦に浸るミュザーク。
「……もういいでしょ。はやく試合を始めましょう。……オーダー交換を」
「ああ。これが俺たちのオーダーだ」
そう言って互いに出場順を書いた紙を交換する。
とはいっても副団長と団長はその実力差から副将、大将と位置が決められているが。
奴らもルールに則って団員3人のあとに副団長、ミュザークの順番で続く。
それを見て、リオン団長は笑った。
ここまですべて想定通りに事が運んだから。
「……おいっ!? これは何の冗談で……!」
「ああ、ごめんなさい。そう言えば伝えるのが遅れたわ」
リオン団長の言葉を聞きながら、俺は正装を整える。
純白の隊服を身にまとい、正義のエンブレムが刺繍された手袋をはめる。
「彼、昨日付けで副団長から降格処分が下されたの。女風呂を覗いた罰としてね。ちゃんと聖女様の御許可も得ているわ」
愛剣を軽く振って、状態を確かめる。
……ああ、絶好調だ。
「だから、第六番団の先鋒は――ルーガ・アルディカよ」
今からこいつらの悔しがる顔が見れると考えたらな。
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