Episode1-5 二度あることは三度ある(変則形式)

 とある日の朝。


「あー、おっぱい揉みてぇ……」


 そろそろ限界だった。いや、毎日限界だが。


 四六時中、四方八方、上下左右。


 目に飛び込むおっぱい、おっぱい、おっぱい。


 聖騎士養成学園は男ばかりで楽だった。


 女の子は少なかったし、意識せずに過ごせた。


 本当の意味での楽園はあそこだったのかもしれない。


「朝からなに言ってるんだ、俺は」


 たまりにたまった性欲で頭がおかしくなっている。


 だが、それはそれとしておっぱいは揉みたい。


 例えば団長が一揉みさせてくれたら半年は戦える。


 まぁ、この寮ではオナニーできないんですけどね。


 そうだよ。自分で慰めることさえ禁止っておかしいよ。


 日々のネタには過剰供給されているのに使用する場面がない。


 なぜなら、団員が部屋まで遊びに来る機会が増えたからだ。


 この一か月間、とにかくおっぱいに食いつかないことだけを目標に生きてきた。


 その甲斐あってちょくちょく俺のもとへ相談だったり、談笑だったり、誘いに来てくれるようになったのだ。


 まさか自分の手で首を絞める羽目になろうとは……。


 でも、女の子に話しかけられるのは嬉しいから許してしまう。


 おそらくおっぱいを揉ませてくれる子がいたら俺はその子を好きになると思う。


 ハリのあるお尻? ぷにぷにのおなか?


 いらぬ! 我が求めるのはただおっぱいのみ!


「……ははっ。朝からなにやってんだろう、俺……」


 これじゃあ淫夢魔サキュバスとなんら変わらないじゃないか。


 軽く自己嫌悪して、着替えることにした。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おはようございます、ルーガくん」


「ふわぁ、おはよー」


「おはようございます、団長。カルラさん」


 食堂にはすでに二人の姿があり、正面の席が空いていたのでお邪魔する。


 生活のリズムにもなんとなく性格が出ている。


「カルラさん……また夜更かしですか? お酒の飲みすぎはよくありませんよ」


「うるせぇ。お前はアタシのおかんか」


「ふふっ、二人ともとっても仲良しね」


 団長とももっと仲良ししたいです。


 今日も素晴らしいおっぱいですね。


 元気有り余ってシャツがはち切れそう……ん? なんかギチギチ鳴って……?


「きゃっ!?」


「目がっ!?」


 はじけ飛んだボタンが目に直撃する。


 さらに体勢を崩して椅子から転げ落ち、頭と腰を強打した。


 痛い! 痛い! 痛い!


 罰ですか、神様!? すみません、やましい男ですみません! 


「おー、出た出た。ボタンがパァン! 今日のリオンは絶好調だな」


 判断基準それでいいのか?


 カラカラ愉快そうに笑うカルラさん。


 あっ、でも、俺に回復魔法ヒールかけてくれてる……優しい……。


 流石みんなの姉御肌だ。こういうところが好かれる理由なんだろうな。


「笑ってる場合じゃないでしょ!? ルーガくん大丈夫!?」


「ヒールしてるし問題ないだろ。リオンもさっさと着替えてこい。今のままだとルーガの奴、多分自分で目つぶしするから」


「どんな理屈で!?」


「ん? あぁ、違った。土下座だったわ」


「それも十分おかしいけど!? で、でも、確かに見えてる状態だし着替えてくるね」


 パタパタと団長の足音が小さくなっていく。


 ……もう目開けていいかな?


「よーし。もういいぞ」 


「……ありがとうございます」


「いいっていいって。お前なりに気を遣ってるの知ってるからさ。今のはこっちの不手際だし気にすんな」


「カルラさん……」


「ほら、さっさと飯食べてしまおうぜ。アタシの予想だとあと二回はボタンがパァンする」


「……今日の執務中は気を付けます」


「そうしろよ。……リオン、またサイズが大きくなったか……?」


 後半は何を言っているか聞き取れなかったが、直感が正解だと告げているので聞き返さない。


 俺も切り替えて食事にいそしむとしよう。


 はぁぁ……今日もスープが美味しい。温かくて心が落ち着く。


「あっ、そうだ。ルーガに聞きたいことがあったんだけどさ」


「なんでしょう?」


「お前って男色家なの?」


「ぶふぅっ!?」


「目がぁぁぁっ!?」


「ああ、すみません! すみません!!」


 恩を仇で返してしまった!


 慌ててヒールして、上着をカルラさんに羽織らせる。


 脚をジタバタさせていた彼女だったが、冷静になったのかゆっくりと起き上がる。


「本当にすみません、カルラさん」


「いや、こっちこそすまん。ちょっと気になったもんだからさ。その……お前が男が好きなのか……お、女が好きなのか」


「えっ……?」


「……な、なんでもない。悪い。あぁ……アタシもなんであんな根も葉もない噂を信じて……」


 んん? カルラさんの考えがわからないぞ。


 どうして俺が男色家だと気になるのだろう?


 むしろ、危険が減ったと喜ばれる内容だと思っていたのだが……。


 このご時世だ。別に忌避される類でもない。


「ルーガ。お茶取ってくれるか? それ飲んで落ち着くわ」


「はい、どうぞ」


「おう、サンキュー」


 温かいお茶を飲んで一息ついた様子のカルラさん。


 どうやら彼女も勘違いしていたようだから、今のうちに誤解を解いておこう。


 断じて俺は男色家ではない。


 生まれた時からずっと女の人が好きだ。


 激しい運動の前に髪をかき上げた際にチラリと覗けるうなじが性癖な男。


 だから、髪の長いカルラさんがいつも練習の相手を務めてくれて感謝している。


 汗をかいたら絶対にポニーテールにしてくれるから。


「カルラさん」


「ん?」


「俺はあなたみたいな女性ひとが好きですよ」


「んぶふっ!?」


「熱い!? 目が!? 燃える!?」


「ごめん、ルーガ! いや、お前も悪い! けど、ごめん!」


「お待たせ、二人――え? なに? どうなってるの?」


 戻ってきた団長の困惑した声音が上から降ってくる。


 そりゃそういう反応になるよな。


 でも、事態の理解に忙しいところすみません。


 先にヒールしてもらっていいですか。


 目が焼けそうです。

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