第75話 家庭科の授業

 横浜山手総合学園高等部では技術・家庭科の授業は男女合同で行う。月ごとにテーマが変わり、授業は一月に四回行われる。前回は授業は技術で本棚を作り上げた。今回の授業は調理実習で四回に渡り、定食が成立する料理を作り上げるのだ。

 学園の方針は家庭で困らない為の技術を習得させる為に、敢えて技術・家庭科の授業は専門職の先生では無く、クラス担任が担当する。男女問わず好きな者は向上し、イヤイヤ受けている者はそれなりの仕上がりとった。


 (調理実習室にて)

 長谷川先生は教壇に立った。

「はい、いいですか! 先週伝えましたが、今月の技術家庭科は調理実習です。和食には一汁三菜って言う言葉が有ります。聞いた事は有りますか?」

長谷川先生は生徒達を見回し、ハスを向いた松本蓮を指した。

 松本蓮は席を立ち答えた。

「はい、一汁と言うから味噌汁の事でしょ。それと三菜は山で取れる植物の料理かな。……ん? ご飯は食べないのかな?」

 生徒から笑いが起きた。

「松本、面白い答えだな! 三菜の三は山では無く、数字の三だよ。他に解る者はいますか?」


 長谷川先生は中山美咲を指し、中山美咲は席を立った。

「はい、ご飯の他に味噌汁と漬け物、煮物、そして肉または魚を食卓に並べる献立の事です」


 長谷川先生はニコッと笑った。

「中山、二重丸だ! 良い答えです。食卓に一汁三菜を揃える事で栄養バランスの取れた食事になります。そこで今日、一週目目は献立作りです。二週目はご飯と味噌汁、浅漬けを作ります。三週目に副菜の煮物を作り、四週目は主菜を作ります。教科書にそれぞれの献立例が載っているので参考にして、時分分達が作るモノを探して下さい。もちろん載っていない献立でも良いですよ。それでは早速、献立を考えて下さい。


 海斗達はいつもの六人がテーブルに揃い、話し合いを始めた。海斗は教科書をめくりながら話しかけた。

「ねえ皆、作りたいモノ、食べたいモノは有るかな?」

 林莉子は授業優先に考えた。

「食べたいモノにすると、難しくなるんじゃない」

 鎌倉美月は賛成した。

「そ~ね、これは授業だから、無難に作り上げられるモノが良いと思うよ」

 小野梨紗は提案をした。

「料理の上手な美咲に決めて貰えば、間違えないんじゃない?!」

皆はうなずいた。中山美咲は教科書をめくりながら考えた。

「そ~ね、お豆腐のお味噌汁とキャベツの浅漬け、副菜に肉ジャガと、主菜は豚肉の生姜焼きなんてどうかしら」

 皆は一つ返事で賛成をした。小野梨紗は興味を持った。

「わー、嬉しい! どれも作って見たい献立ね。私がんばって覚えるんだ」

 松本蓮はホットした。

「ウチの班は美咲が居て、助かるね」鎌倉美月も続いた。

「ホント、助かるわ」

中山美咲は照れながら、人数分の材料を書き出した。


 林莉子は問題を上げた。

「材料の買い出しは、どうする?」海斗が答えた。

「じゃあ、俺と蓮で、買ってこようか!」

 鎌倉美月には不安が有った。

「あなた達は、モノの良し悪しが分かるの? ねえ蓮」

「そんな野菜なんて、どれも同じだろ。どれでも同じ……じゃ無いの?」

 女子は一斉に否定し、中山美咲は注意した。

「全然違うのよ! ちゃんと見て買わないとね」海斗は改めた。

「弁当のように加工品を買うわけじゃ無いから、選ぶ知識も必要だったね」

 中山美咲は気を張った。

「そうね、私が前日に買っておくわ。後で、割り勘をしましょう」

 林莉子はすかさず気を効かした。

「じゃあ、海斗、荷物を持ってあげなさいよ。ちゃんと手伝うのよ」


 林莉子は中山美咲にアイコンタクトをした。中山美咲は林莉子のサインを見て照れた。海斗は中山美咲を見た。

「うん! そうだね、美咲に何でも任したら悪いよね。一緒に行っても良いかな」

「海斗が持ってくれたら、助かるわ」


 海斗と中山美咲は買い出しの日時と場所を相談した。二人は三週に渡り、一緒に買出しする事を楽しみにした。

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