第73話 熊 手

 海斗達は、お参りを済ませて境内から出てきた。松本蓮は熊手の並ぶ通りへ

皆を案内した。

「さあ、いよいよ熊手を見に行こうぜ、はぐれないでね」

進んでいくと華やかな熊手が目に入った。


 熊手を売る屋台は単管パイプで建てられビニールシートで天井と背面を覆おわれていた。屋台の高さは四メートル程有り、内壁と天井にびっしりと熊手が並んでいた。


 初めて見る彼女達は目を輝かして見ていた。アチコチの露店から景気の良い三三七拍子が聞こえた。小野梨沙は興味が湧いた。

「海斗、私もやりたい、掛け声を言ってみたい!」

「う~ん、そう言われてもなー」


 その時だった。松本蓮が遠藤駿を見つけた。遠藤家族が値踏みをしている最中だった。松本蓮は遠藤駿に声をかけた。

「おい! 遠藤、ちょうど良かった。皆でかけ声に参加したいんだけど、一緒にしてもいいかな?」

 遠藤駿のオヤジさんはこちらを見た。

「おう、松本君と伏見君か! おっ、それとお友達だね。こう言うのは大勢の掛け声で言った方が、景気良く感じるんだよ。一緒に頼むよ!」

遠藤駿は慌てて、やり方を彼女達に伝えた。


 お店のスタッフは口を合わせて言った。

「家内安全、商売繁盛、よー、よよよい、よよよい、よよよい、よい!」

皆も声と手拍子を合わせて言った。

 学生が並んだ事で、どこよりも華やかな売り場になった。客が客を呼び人盛りとなた。店主も張りきって三三七拍子を三回回した。終わると皆で拍手した。オヤジさんは言った。

「今年は特別、華やかだな! 駿、友達も参加してくれて、気分が良いな!」

皆は遠藤家族にお礼を言って離れた。


 皆も初めての体験で、楽しそうな顔をしていた。海斗も楽しかった。

「梨沙、良かったね。俺もやったのは初めてだよ。貴重な体験だね」

「うん、一瞬だったけど、楽しかった。石を叩いて火花を出すのも面白かった」

「あれは火打石って言って、お清めなんだよ」

「あの石、欲しい!」中山美咲は思い出した

「昔、時代劇で見た事があるわ。亭主を送り出すときにやるのよね」

林莉子は勘違いをしないように釘を刺した

「梨紗、今時はやらないわよ! 江戸時代じゃないんだからね」

皆は笑った。


 海斗は皆んなに声を掛けた。

「それじゃあ、屋台に行こうか」

鎌倉美月が海斗を止めた。

「ねえ、あれ見て!」

とびきり大きな熊手が目に入った。そこには羽衣商事の名前が有った。

松本蓮は驚いた

「すっげーな! あれ京野の会社だよ。なあ海斗」

「あんなに大きいと、ある意味イヤミだよな」

海斗と松本蓮は笑った。皆は大きさに驚いた。


 皆は屋台にむかった。小野梨沙はお祭りの規模に驚いた。

「それにしても沢山あるね」

 林莉子は何を食べようか迷っていた。

「行きに見ていたけど、目移りしちゃうわね」

 中山美咲はお腹と相談をしていた

「いろいろ食べたいけど、二つは入らないしね」

 小野梨沙は気付いた

「ねえ、このホテル安いね。しかも時間制みたい、変なの?!」


 ここには数件のホテルが並んでいた。その前に屋台が連なっているのだ。

皆はホテルの存在を無視した。もちろん、葵も中山陽菜も無視をした。

 小野梨紗は続けた。

「ねえ、時間で部屋を借りられるなら、焼きそばとか買って、ココで食べようよ」

「……」

「もー! なんで、皆で無視するの!」

 海斗がコソコソ笑い始めた。皆もつられて笑い出した。分からないのは

小野梨沙だけだった。鎌倉美月は小野梨沙に耳打ちをした。

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