第56話 港の見える丘公園
鎌倉美月は海斗に耳打ちをした。
「ねえ海斗、蓮、優し過ぎない?」
「幸乃さんの時も、そうだったけど、教えるのが丁寧なんだよ」
鎌倉美月は焼き餅を焼いた。三十分程、撮影を続けて再び噴水の有るベンチに座り休憩をした。二人は撮影した写真を松本蓮に見せた。最初に撮ったものとは格段に良い写真になった。
海斗はしっかり講師をする松本蓮をねぎらった。
「蓮、お疲れ様。良い先生をしていたよ」稲垣京香も続いた
「ホント、とっても分かり易すかったわ、この短い時間でカメラと撮影方法に詳しくなりました。ねえメイ!」
「ええ、私もカメラの機能も取り方も、とっても勉強になったわ」
松本蓮は照れた
「や~、そう言って貰えると、俺も嬉しいよ」
森幸乃は公園に居る沢山の人達を見ていた。
「ねえ美月さん、観光客や恋人が多いと思っていたけれど、小さな子供を連れた、ファミリーが多いのね」
「ホントね、私も人の多さに驚いたわ」
海斗は景色を見ながら答えた
「バラの時期だから、余計に多いんだよ」
皆はうなずいた。
別行動をしていた小野梨沙達が戻ってきた。
「海斗、学校のそばに、こんなに良い所が有るなんて知らなかった」
「そうだね、良い所だよね。ここは昔、有名な横浜の顔だったんだ。今は景色の良い、公園に見えるけどね。なあ蓮」
「そうだよな、やっぱ観光なら、みなとみらいに目が向いちゃうもんな」
松本蓮は噴水を見てピントきた。
「そうだ! 稲垣さん、桜井さん、撮影モードでTV(シャーター速度優先)を使った事は有るかな」
二人とも顔を横に振った。
「噴水で使い方の説明をするから、梨紗達は休憩していてね」
写真部員は席を立ち、小野梨沙達にベンチを譲った。
松本蓮は説明を始めた
「まずは、さっきのモードのまま、撮影するよ。次はTVモードにしてシャッター速度を上げて撮るよ」
松本蓮は違いを見せた。皆は驚いた、稲垣京香は驚いた。
「わー、凄い! こんなにも違うのね」桜井メイも続いた。
「ホント、水玉や、粒々がハッキリ見えて、時間が止まったみたい!」
二人も撮影をして違いを試した。桜井メイは喜んだ
「凄い! 時を操る魔法使いに、なったみたい!」
その時だった。モニターを夢中で見ている桜井メイに、小さな子供が、よそ見をしながら走って来た。桜井メイに正面からぶつかり彼女は背中から噴水に倒れて行った。
この噴水の水槽は直径が六メーター程の丸い形状をしていて、立ち上がりが浅く、外周は奥行きの浅い花壇に囲まれていた。
皆は慌てて手を伸ばしだが届く距離ではなかった。桜井メイは覚悟を決めた。既に成り行きに任せるしかないと思ったが、海斗は花壇に右足を突っ込み、桜井メイを抱きかかえた。桜井メイは海斗の右膝に背中を預けた。
「桜井さん、大丈夫? 大丈夫だよ! 落ちずにすんだよ」
桜井メイは怖くて目を閉じていた。助かった事に気付き、ゆっくり目を開けた。
「あ、り、が……キャー! 近い、近い! ダメ、ダメ、ダメ-!」
桜井メイは海斗の膝で暴れた。
「桜井さん、暴れないで、ねえ、落ちちゃうよ!」
松本蓮は、すかさず彼女の手を掴み引っ張り出しすと、稲垣京香は頭を下げた。
「助けてくれたのに済みません、普段、私達は年頃の男性と、こんな近い距離で接する事が無いので、メイは驚いてしまったのでしょう」
小野梨紗達も騒ぎを見て、駆け付けた。林莉子は驚いた。
「海斗、真っ昼間から何をしているの!」
林莉子はその瞬間を見ていなかった。鎌倉美月が説明をした。
「違うよ、彼女が水に落ちそうになったから、海斗が助けたんだよ」
「それであんなポーズなの。キスでもしそうな距離だったわ」
皆は笑った。森幸乃は海斗に話しかけた。
「海斗君、助けられて良かったわね。そう言えば、ぶつかった子供は?」
小野梨紗は指さした。
「あっちに、走っていったよ、私もびっくりした」
桜井メイは、うつむいて自分の腕を抱いていた。稲垣京香は桜井メイの肩に手を置いた。
「メイ、大丈夫? 濡れなくって良かったね。伏見君が助けてくれたんだよ」
桜井メイは真っ赤な顔を上げた。
「伏見君、助けてくれて有り難う。……私、男の人に抱かれたの初めて、キャー恥ずかしい!」
海斗の仲間は顔を見合わせた。松本蓮は鎌倉美月に耳打ちをした。
「なあ、変な事にならなきゃいいな」
「ええ、そうね。なんか怪しい雰囲気だよね」
海斗は皆に声を掛けた。
「まあ、濡れなくて済んだから、いっか! ココは危ないから展望台に移動しようよ!」
海斗は足跡の付いた花壇を整えてから、皆と展望台に向かった。
皆は景色を楽しんだ。この日も風が吹いていて海風をあびる少女の写真を思い出した。小野梨紗も写真を撮って欲しかった。
「ねえ、海斗、私も綺麗に撮ってよ!」
中山美咲も林莉子も続いた。松本蓮は海斗を見た。
「海斗、こっちは俺がやるから任しといて」
松本蓮は海風を浴びた少女と同じように、稲垣京香、桜井メイ、鎌倉美月を撮影した。海斗も小野梨紗、中山美咲、林莉子の写真を撮った。海斗と松本蓮はSNSのグループに写真を載せた。彼女達は喜んだ。海斗達は撮影後、松本蓮に合流をした。
「ねえ海斗、ココ、こんなに景色が良いけど、この下はどうなっているの」
「梨紗、良く気が付いたね、このフェンスの先に植栽があるでしょ、その先は崖なんだよ」
「えー!、じゃあ下から見たら結構、怖い所に居るのね」
「まあね、でも崩れた話は聞かないから、大丈夫だよ」
皆は一カ所に集まった。松本蓮は言った。
「じゃあ、今日の課外授業はコレでおしまい」
稲垣京香はお礼をした。
「今日はとても楽しく、勉強が出来ました。また課外授業を皆さんと、ご一緒したいです。いいですか」松本蓮は答えた。
「うん、いいよ!」桜井メイもお礼をした。
「松本さん、喫茶「純」では運も実力の内と言われていましたが、実際の所、カメラの知識は素晴らしかったです。基本が有って運が味方をして金賞の写真が撮れるのですね。松本さん、有り難う御座いました。それと伏見さん、今日は助けてくれて有り難う御座いました」
松本蓮も海斗も照れた。海斗は二人に声を掛けた。
「石川町まで一緒に帰えりますか」稲垣京香は遠慮をした。
「私達はもう少し、復習をしてから帰ります。ご機嫌よう」
海斗達も声を合わせて言った
「ご機嫌よう!」
海斗達は石川町駅に向かって歩き始めた。松本蓮は美月を見た。
「なあ美月、今日の勉強会はどうだった?」
「とっても良かったと思うよ。丁寧すぎるくらいだわ」森幸乃も続いた
「私も良かったと思う、スマホでも撮れると思ったけど、やっぱり一眼レフって
凄い事が良く分かったわ」海斗も続いた。
「うん、俺も良かったと思うよ。俺も一眼レフについて勉強になったよ」
小野梨紗は腕を組んだ。
「海斗はダメダメだったよ!」中山美咲も腕を組んだ。
「そうね、ダメダメね。何で桜井さんを抱いちゃったかな?!」
林莉子も腕を組んだ。
「海斗、あれは浮気だね」
海斗は森幸乃に助けを求めた。
「えー! ねえ幸乃さん、あれは正しい対応ですよね」
「ええ、まあ、ねえー」
幸乃は空気を読んで苦笑をした。
「そんな~!」
小野梨紗は笑った
「嘘だよ!」中山美咲も笑った
「私も嘘、いやホント!」林莉子も続いた
「皆を待たしたから、ちょっと皮肉も言いたくなったのよね」
皆は笑い石川町駅に向かった。
松本蓮は講師役が上手くこなせた事が嬉しかった。海斗、鎌倉水貴、森幸乃も松本蓮の知識と技術が勉強になった。小野梨紗、中山美咲、林莉子は、ようやく港の見える丘公園に来られて嬉しかった。稲垣京香と桜井メイは写真の知識がメキメキと上がった。これを期に海斗達と交流が増える事となる。課外活動ではあったものの、それぞれの思いが詰まった一日となった。
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