第50話 アメリカンクッキー
エレンは丁寧に説明を始めた。
「慣れて来れば目分量でも良いけど、お菓子作りは計量が大事なのよ」
エレンは材料を計量機で計った。梨紗と葵は逐次メモを取った。
「バターをチンをして、少し溶かしてボールに入るの。バターは全体が柔らかく白くなるまで混ぜるの。次に砂糖、卵、ベーキングパウダー、小麦粉、アーモンドパウダーを入れて、また良く混ぜるの。オーブンから天板を取り出して、百八十度で予熱しておく事。次に天板にクッキングシートを敷いて、生地を適当な大きさにして落とすのよ」
「へ~、こんなに柔らかくて良いのですか」
「そうよ、葵ちゃんが思っているのは、耳たぶ程度の固さを平らに伸ばして、型抜き器で抜く、クッキーの事ね。あの生地よりとっても柔らかいのよ」
「落とした生地をフォークで成型して、後は焼くだけ、どうお? 簡単でしょ」
海斗と葵は驚いた
「凄い! ホント、あっと言う間に出来ちゃった」
クッキーは十五分で焼き上がった。部屋中に甘く香ばしい香りが充満した。
テーブルにクッキーとお茶を用意して、皆でテーブルを囲んだ。
「わー、凄いよ、おばさん、とっても美味しそうだ」
「うん、お兄ちゃん、良い香りがするね」
エレンは子供達を見た
「さあ、どうぞ召し上がれ」
海斗も葵も喜んだ。自分達が作ったものとは、比べ物にならなかったのだ。
外はサクッと中はふんわりして、香ばしい匂いがした。
「ママ、今度は私一人でも、作れるかもしれないわ」
「そうね、作ってみると良いわ。私のママから教わったように、あなたも覚えると
将来子供が喜ぶわ」
「お兄ちゃん、葵の失敗の原因が解りました。生地の固さが、私の知っているクッキーと全く違ったのよ。やっぱり教わらないと出来なかったね」
「そうだね。エレンおばさん、今日は有難う御座いました。そうそう梨沙から言われていた感謝状を持って来たよ」
梨沙は受け取り、広げてエレンに見せた。
「ワオ、グレート! エクセレントね、あの子が、こんなに立派な青年に成って、私は嬉しいわ。博美が生きていたら、どんなに喜んでいたでしょうね。エレンは涙を浮かべて喜んだ。
海斗は亡き母について訪ねた
「ねえ、エレンおばさんは、いつ、お母さんと知り合ったの?」
「あっ、ママ、私も聞きたい」
「ちょっと、長くなるわね。それは私が来日した日に話が遡るのよ。私は二十二歳の時に日本の文化に憧れてカルフォルニアから、知人が居る仙台に来日したの。当時、日本では英会話学習がブームでね、日本語が喋れなくても講師になれたの。日本人にはネイティブな発音が聞けて、それが良かったのよ。その時に孝太郎さんが、習いに来たのよ。
「おじさんは仙台出身なんだ」
「英語を教えているうちに、食事に誘われてから学校以外でも良く遊ぶようになったの。一年が経たった頃にプロポーズされたのよ。当時は国際結婚が、今よりも珍しくて孝太郎さんは苦労していたわ。そして結婚したの。梨紗は仙台に居た事を覚えているかしら?」
「うん、少しだけ覚えているよ」
「小学生に入る頃、孝太郎さんの転勤が決まり横浜に引っ越して来たのよ。仙台は自然が多く、綺麗で住みやすかったの。仙台に比べて横浜はビルばっかりで、ゴミゴミしていて暮らしにくかったわ。友達も居ないし梨紗を小学校へ入学させなければいけなかったし、英語は通じないし、ママは精神的に落ち込んでいたの。
孝太郎さんは学生の頃、アパートを借りて東京の大学に通っていたのよ。落ち込んでいる私に見かねて、大学時代の友人に頼ったの。それから正太郎家族と交流を持つようになり、博美さんに出会ったのよ。
建物の中では息がつまりそうだから、自然の中でバーベキューに連れ出してくれたの。たまたま博美には同い年の子供が居て、同じ歳の子供を持つ親として話題も合ったわ。色々な相談に乗ってくれたのよ。博美は優しくて気配りが出来て、ホント良い親友になれたわ。懐かしいわね」
海斗はお母さんの話が聞けて嬉しかった。
「エレンおばさん、お母さんの思い出を教えてくれて有難う」
「いいえ、私の方こそ。私に息子が出来たみたいで、とっても楽しいわ」
お茶の時間を終え、梨紗は海斗と葵を誘い自分の部屋でテーブルゲームを
楽しんだ。夕方になり、エレンが梨紗の部屋をノックした。
「海斗さん、葵さん、今晩は泊まっていってね。今、明子さんに了解を貰ったから」
海斗達は驚いた
「えー!」
「さあ、夕食は久しぶりに沢山作るわよー! 今日も孝太郎さんは出張で居ないから気楽にしてね。海斗君は孝太郎さんのパジャマを用意しておくわ。梨紗は葵さんに、パジャマを貸してあげてね」
エレンはリビングに戻って行った。
葵は思った、皆でお泊まりが出来て楽しいな。海斗は思った、あ~あ、美咲に知られたら焼き餅焼くんだろうな。でもエレンおばさんの手料理楽しみだな。梨紗は思った、オーマイガー、海斗と同棲じゃん。私、恥ずかいよ。考えも三者三様のなのだ。
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