第43話 大ラーメン博物館

 海斗は焦った、先に言われてしまったのだ。精一杯ごまかしてみる事にした。

海斗は葵の頭を撫でた。

「葵、有り難う。俺も妹の葵が好きだよ。それで葵に好きな人が出来たら、応援してあげるね。じゃあ、次のプールに行こうか?!」

 海斗は葵の手を取り腰を上げた。葵は不満だったが話が通らないのは、海斗の鈍感な性格なので、しょうがないと思ったのだ。

 海斗は何とか、その場の感情を受け流した。この後も幾つかのプールに入り施設を後にした。


 二人は着替え、イッサンスタジアムのエントランスに居た。

「あーあ、お兄ちゃん、雨だよ」

「天気予報は怪しかったのに、葵は折りたたみ傘を持ってこなかったのか?」

実は葵は折りたたみ傘を鞄にしまっていた。

「お兄ちゃんは傘、持ってきた?」

「うん、持ってきたよ」

「私、カバンに入れたハズだったけど、見当たらないわ」

「もう、しょうが無いな、一緒に入れてあげるよ」

「ホント? 私、相合傘をするの、初めて!」

葵は海斗の見ていない所でベロを出した。

「葵、お兄ちゃんも初めてなんだ。ちょっぴり照れるね。遅くなったけど、お昼を食べに行くよ」

「はい」


 二人は歩き始めた

「葵はラーメンが好きだよね、どこに行くと思う?」

「私、生活圏でも良く解らないのに、新横浜はもっと解らないよ」

葵は色々なお店が有るのに、何でラーメンなのかと思った。

「ねえ、葵、濡れないように傘の下に入ってね」

海斗は折りたたみの小さな傘を、葵よりにさした。葵は気をつかう海斗が好きだった。海斗の肩が濡れないように、海斗に体を寄せて歩いた。

「ねえ、お兄ちゃん、相合傘ってドキドキするね。」

「そうだね、でも、この傘は向かないね。もっと大きな傘じゃないと濡れちゃうもんね」


 葵は浜鳥橋の上で、足を止めた。

「お兄ちゃん、目にゴミが入ったみたい。ねえ、右目を見てくれる?」

海斗は向かい合い、かがみ込んだ。葵の右目に顔を寄せると、葵はタイミングを図り更に顔を上げた。海斗の唇を見て抱気しめ抱きしめ、口にキスをした。

「チュー」

 海斗は慌てて姿勢を戻した。葵はニコッと笑った。

「わーい! 騙まされた! 私のファーストキスだよ」

「葵、お兄ちゃんをからかわないでよ、もう騙しちゃダメだからね」

「ウフ、お兄ちゃん、私嬉しい」


 葵は高揚をして再び相合傘に入った。葵の感情とは裏腹に、海斗は葵に注意をしながら歩いた。そして目的地が見えた。

「えー! お兄ちゃんは、またギリギリまで言わないんだから、私、ココも来たかったの! もう、お兄ちゃん大好き!」

海斗は困りながら笑った。海斗達は大ラーメン博物館にやって来たのだ。


 この大ラーメン博物館は、ラーメンの歴史が解る展示フロアと、昭和レトロを再現した街並みに全国の有名ラーメン店が営業をしているのだ。


 海斗達は入場券を買い中へ入った。

「わ~、凄い、タイムスリップしたみたい! 前にテレビで見た事あるよ。新横浜にあるんだね」

 海斗達は、再現された街並みを歩いた。葵は見た事の無い、昭和レトロを体験した。海斗は葵に話しかけた

「お腹が空いたから、ラーメンを食べようか」

二人は葵の選んだ博多のラーメン屋さんで、遅い昼食を取った。

「葵、美味しかったね」

「うん、横浜に居て、博多の有名なラーメンが食べられるなんて凄いね」

食べ終わると中央のベンチに座った。


 すると海斗は、話かけられた

「伏見君、あら、デート? 」

 生徒会の小川書記が海斗に話しかけた。隣には池田会長がいた。

海斗は二人を見て驚いた。

「え! 池田さんと小川さんは、付き合っていたのですか?!」

池田会長は困った顔をした

「いや、小川さんとは幼馴染みなんだよ。小川さんが来たいって言うから、

一緒に来たんだよ」

小川優花は池田光の手の甲をつねった。

「いつも一緒に居るのに、なんで付き合っているって言わないかな!」

 海斗は苦笑いをした。池田光は葵を見た

「伏見君の彼女さんは、もしかして中学生? ロリコン趣味なんだね!」

海斗は慌てて訂正をした。

「ち、違いますよ! 妹です。ウチの中等部にいるんですよ」

 葵は海斗の腰をつねった

「なんで彼女って言わないかな! 妹の伏見葵です」

池田光も小川美優も驚いた。池田光は言った

「えー! ずいぶん仲が良い兄妹だね」小川美優も続いた。

「妹さんは、ブラコンなのね?」

「もー、妹を陥れないで下さいよ。たまたまですよ。妹が来た事が無いから、私が連れて来たんですよ」

 葵は海斗が生徒会にまで、知り合いがいる事に驚いた。今日は二人だけで過ごす一日だったのに、新横浜まで来ても知り合いに会うことに葵は落胆した。

「お兄ちゃん、駄菓子屋を見に行きたいな」

「ああ、そうだね。それでは池田さん小川さん、失礼します」


 海斗達は駄菓子屋でお買い物をして、もう一回りしてからエントランスに向かった。大ラーメン博物館を出ると雨は上がっていた。

 葵は自分の唇を指で触り海斗を見た

「あ~あ、お兄ちゃんと、もう少し相合傘をしたかったなあ」


 海斗は思った。十五歳のファーストキスを貰って良いのだろうか。それ以前に、俺を兄として見ているのだろうか? 今までの行動を見ていても好意を持った歳上の男子なんだろうな。今度、美月に相談してみようかな。


「ちょっとー、お兄ちゃん、聞いているの? ねえ」

「ああ、悪い、ちょっと考え事をしていたよ。そうだね、雨が上がって相合傘が出来なくなったね。さあ、帰ろうか」

葵は二人でいられる事を楽しんで家路についた。

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