閑話『あるセカイでの出来事』
ブロッサミア王国、王都ローゼット。
燃え盛る火の海で、人々は逃げ惑っていた。
激しく迫りくる帝国軍、それを阻止しようと戦うが数量で敵わない王国軍。
そして、ある道路の一角。
そこにはある女がいた。
傍らには息絶え、わずかに腐臭を香らせる男の死体。
女の目は……虚ろだ。
「ねぇ、ジョン。すごくきれいよ、ほら……赤くて綺麗」
女はもはや精神を崩壊させていた。
理由は……傍らの男が原因だろう。
自らが浮気をしていた。
その後、宿を出ていった男。間男と情事を行った後、女は外に出た。
降り注ぐ雨の中。
やけに多い人だかり。がやがやと喧騒も聞こえる。
何事か。
人の波をくぐりぬけ、女はソレを見た。
自身が捨てた男である。
村を見捨て、自らを見捨てた男。復讐のために女は表面だけの恋とやらで男を騙して、そしてそれを成し遂げたつもりだった。
だが女は、狂ってしまった。
自らが引き起こしてしまった死を見て、死体に駆け寄り泣き喚く。
そしてそれから3日ほどだろうか。
死体を連れ出して街へ隠れ潜んでいた女は、その死体を撫でながら微笑んでいた。
間男がどこにいるかはわからない。
狂った女にとってはもはやどうでも良いことだった。
女が優しく問いかける。
息絶えた男が返事をすることはない。
物音がした。
何かと思えば、帝国の騎士が立っているではないか。
その片手に持った剣。
女を容易に穿ち殺せるそれを見て、女は反撃もせずに……なおも微笑んだ。
パチパチと燃え盛る火に豪雨が降り注ぐ。
水蒸気の煙で黒く焦げ堕ちた王都の一角。
心臓に剣を突き刺され、男に寄り添い死んだ女がいた。
狂い死んだ女が、そこにいたのだ。
女が狂った理由はわからない。
男を自分の所有物だと思っていたのか、それとも復讐の中で真の愛に目覚めたのか、はたまたそれとはまた別のことなのか。
少なくとも、それを確かめる術はない。
死人に口なし、死人に記憶など喋られるわけがないのだから。
しかし、ある者の言葉を借りれば都合が良いということだろう。
女は最後まで身勝手で、結局の所何も解決はできなかった。男を捨てた後に死体を抱くなど元より狂人の素質がなければできぬ所業。
哀れなのは騙され死に死体を弄ばれた男だろう。
もっとも、彼に次の生があるとすれば。
確実に女とは関わろうとはしないであろう。
それが、もっともの安全策なのかもしれない。
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