第29話 八足の髑髏痕
「んん? 待ってくれ。『凱旋門』が何かはわかるよな?」
「はい。シャンゼリゼ通りにある建造物ですよね。軍事的勝利を祝うために用意された大きな門です」
「んんん!?」
それはただの凱旋門だ。
柩使いの組織『凱旋門』じゃない。
「……まさか、この時点ではまだ『凱旋門』に所属していないのか?」
「この時点? 楪灰さん、先ほどからいったい何の話をしていらっしゃるのですか?」
「あかるいみらいの話」
原作開始時には、メアリは『凱旋門』のトップに君臨していた。いくら原作開始まで時間があるといっても、とっくに組織に所属しているものかと思ったんだが。
「いや待て。だとしたらオレを訪ねてどうするつもりだったんだ。柩のことはどこで知った」
筋が通らないじゃないか。
『凱旋門』に所属している。
その前提がなければ矛盾が生じる。
「先に柩について答えましょう。理由は、私の祖父が、舶来品の
「舶来品って……それ『岩戸』からは疎まれたんじゃ」
「なるほど。数年前我が家に強盗に入った組織は『岩戸』と申すのですね」
「……マジで何も知らなかったのか」
そして『岩戸』はしれっと強盗してるのな。
まあ、取られたものを取り返しただけだし、
「そして、楪灰さんを訪ねてどうするつもりだったのかについてですが……ここでは場所が悪いですね」
メアリが周囲をきょろきょろと見まわして呟いた。
「人がいるとまずいのか?」
「そうなります」
まあ、呪い関係なら秘密にしたいこともあるだろうな。
「なら、どこか場所を移して――」
「わたくしの家に、いらっしゃいませんか?」
「――は?」
メアリが人差し指を口に当て、微笑む。
「誰にも、秘密ですよ?」
*
どうしてオレは、年頃の女の子の家に上がり込んでいるんだ?
牌羽メアリが人目のつかない場所を選んだからだ。
オーケー。
論理的思考回路はしっかり稼働しているな。
よし、次の問題だ。
(なんで牌羽は脱ぎ始めたんだ!?)
わからん!
まったくわからん!!
いったい何がどうなってるんだ!!
「……ぁ?」
ふわり。
メアリが首から上を右左と振ると、彼女の銀色の髪が慣性に従って横になびいた。長い髪が隠していた首から腰に掛けての背骨のライン。
そこに、うごめく影があった。
「……これが、わたくしが楪灰さんを訪ねた理由ですわ」
「なんだ、これ……呪いか? いや、呪いの気配は」
「……やはり、楪灰さんにもわかりませんか」
それは、一言でいえばドクロだった。
中心に大きな頭蓋骨のような黒い影があり、そこから左右に四対の骨が伸びていて、それが足のように気味悪く動いている。
「鑑定スキル持ちや、
メアリが再び衣服を身にまとった。
……こんなおぞましいものを背負っているなんて、ゲームでは一言も言及されなかったじゃないか。
「ただ、原因はおそらく、祖父が買ってきた黒い柩なんですよ。幼かった私は、訳も分からずふたを開けてしまい、そこから飛び出した厄災に身をむしばまれたのです」
……そこで、柩がかかわってくるのか。
おい『岩戸』。
奪還するころには手遅れになってんじゃねえか。
「それで、日本に帰った菓子職人さんから、黒い柩を使う少年を見たという話を聞きつけ、楪灰さんのことを調べていただいて、同じ学校に転入したのです」
「オレの名前を知ってたのはそういうことか」
「いえ。それは今朝、登校中にすれ違った際に覚えました」
「……あ」
思い出した。
そういえば朝、メアリっぽい子とすれ違った。
そのときちなつがオレのこと想矢って呼んでた。
「なんだ! そういうことか! あっはっは、あー、おかし」
「ゆ、楪灰さん?」
『凱旋門』とかモルモットとか、全部オレの深読みだったわけか。
「うし、わかった。メアリのその背中、オレが必ずもとに戻してみせるよ」
「……そのようなことが、可能なのですか?」
「ああ」
断言できるだけの手札なんてない。
だけど、弱音なんて絶対にはかない。
「だってオレ、世界最強のモブキャラだから」
原作をぶち壊す。
ただその一点のために、オレはここにいる。
「行くぜ、【アドミニストレータ】。もっかい洗い直しだ」
モノクロに染まる世界で、オレは決意を改めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます