第三十六話

 その頃、カイルのことを聞いて魔術協会への報告を後回しに空港に到着したヤトは、晴明からリトが儀園神社にいるとメッセージで報告を受けたため慌てて魔術協会に引き返した。

 カイルの状態、リトのことを考えると一度、魔術協会に報告をして指示を仰がなければならない事態だ。


「……私に、どうにか出来る力があればいいのだけれどね……」


 とはいえ、上にのし上がりのさばる力はまったくもって不要なのだが、と考えつつヤトは魔術協会に戻った。


「どうした。ヤト・クライス」

「ご報告を」


 悪態をついていた時とは打って変わり、ヤトは真剣な表情で三賢人に報告をした。


「何があった」


 三賢人がヤトの報告を待つ。


「カイルが―――」


 少し、躊躇う。

 報告して良いものなのか。

 それでカイルが……いや、報告をしなければならないのだ。

 あの安倍晴明でも結界を保つので精一杯であり、浄化をすることすら困難だという。


「日ノ国より情報が入りました。我が弟子、カイル・シュヴェリアが闇の器として何者かを纏わされた、と」


 犯人は霧野 零なる人物であることを明かした。


「何!? あのカイル・シュヴェリアが、か」


 ヤトは神妙に頷く。

 更に報告としてリトのことも伝える。

 どこで何をしていたのかはまだヤトも聞いておらず、リト自身も衰弱していて今は発見された儀園神社で保護されているということも。


「一体……何が、どうなっている」

「それにつきましては私もまだ把握が出来ていません」


 ただ、とヤトは言葉を続ける。


「リトに関しては休めば大丈夫とのこと。心配なのは、カイルの方です。一体、何を纏わされたのか……誰が……目的な何なのか……何も、分かっていませんので」


 闇であることは間違いがない。

 それはカイルの下僕となったハデスが言っていたことを晴明が知らせてくれたからだ。

 カイルの様子については三賢人とて聞き捨てならないことだった。


「闇……か。どういう状況でそうなったのじゃ」

「私も実際にその場にいた訳ではありませんので。ただ……レイキ会に所属している霧野 零が犯人と判明しています」

「ではレイキ会に抗議をすべきではないのか?」


 ヤトは首を振る。


「レイキ会の意思、総意ではないそうで。日ノ国のレイキ会でもその霧野 零を総出で行方を追っているとのことです。レイキ会に抗議をするにしても少々、今は時期尚早かと」


 まだ、何か足りない。

 繋がらない。

 リトからも話を聞かなければ今回の件、繋がらない可能性が高い。


「今も安倍晴明の邸の奥にてカイルは纏わされた闇に侵されているとのことです」


 三賢人達は互いに顔を見合わせる。

 今までにないことだ。

 過去、中世にはそのようなことも少なからずあっただろうが、魔術師も減り、“人ならざるモノゴースト”を視る“人”も減っている時代……初めての事象かもしれない。

 どうするべきか。

 しかしヤト自身もカイルがどういう状態なのか。

 リトが何を見てどうして儀園神社で衰弱していたのか。

 日ノ国の第九の書と霧野 零。

 こちらのノイン・ログ……。

 何も分からないことだらけだ。


「しかし、どうするべきか……」


 考える三賢人に対してヤトは口を開く。


「未だ、状況は誰も掴めていません。カイルのことも、リトのことも。なので、数名の魔術師の同行の許可を」


 特に、治癒や結界、闇などを研究している魔術師を、とヤトは申告する。

 考え得る事象に対処出来れば良いのだが……。


「しばし待て」


 行ってくれる魔術師をまずは見極めなければならない。

 その上で、同行したいと言う魔術師を集めなければならない。


「時間がありません!」


 リトは今のところ、落ち着いているだろう。

 だが問題はカイルだ。

 もしもカイルが闇に負ければ……何が起こるかさっぱり予想が出来ない。


「もしものことがあれば……」


 ヤトが言いたいことも三賢人は分かっている。


「時間がないのはワシらとて分かっておる。カイル・シュヴェリアを失うのは大損失。だからこそ、慎重を期さねばならんのも事実」


 三賢人はベルを鳴らすと魔術協会に所属している魔術師を集めるように言う。

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