第三十五話
晴明の案内の元、ハデス、神、祭だけがカイルの様子を確認するために奥へと進む。
近付けば近付くほどに闇が色濃くなっていく。
「この気は……」
傍らに近付いてからハデスはどことなく、遥か昔に感じたことのある気だと思った。
それがいつで、誰なのかまでは思い出せない。
だが確実にハデスはカイルを包む気を知っていると呟く。
「こちらです。私はヤトさんに連絡を取ってきますので」
扉が開け放たれると、昼間だというのにその部屋だけが闇に包まれているようだった。
ロウソクがなければさらに闇は濃いだろう。
「カーくんっ! ねぇカーくんっ」
真っ先に祭が中に入り、カイルに呼びかけるが彼はぐったりとしたまま返事はない。
時折、苦しいのか彼の表情に苦悶の色が浮かぶ。
カイルの傍にいるのは神、祭、ハデスだけだ。
「祭様。今は呼びかけても、カイル様にはお答えできるほどの気力はありません」
「でも、呼びかけたらカーくんだってきっと分かってくれるよ!」
結界のせいで触れることは出来ないが、祭は何度もカイルの名前を呼ぶ。
一体何があったのか、知る術がない。
電話を終えたらしい晴明が戻り、一旦、神と祭、大河は神社に戻ることとなり、ハデスだけが晴明の邸にしばらく泊まり込むこととなった。
「祭」
「ねぇ、大河。カーくん、どうなっちゃうんだろ……。すっごく苦しそうだったよ!? 大河の力でもどうにもできないの?」
大河は力なく首を振る。
自分にもどうにもできないと。
「祭。俺の力では今の奴には毒になる可能性が高い。それ以前に、俺は……あの部屋に近付くことすら出来んのだ」
「そっか……」
祭も項垂れる。
「祭ちゃん。大河クン。ひとまず戻ろうか。ヤトさんには連絡してあるんだし、彼が来れば状況も変わるかもしれないし、カイルくんももしかしたら目を覚ますかもしれないしね」
「……そうだといいのですが」
祭は後ろ髪を引かれながら、何度も何度も晴明神社を振り返りつつ、神と大河の後に続く。
自分に一体何ができるのだろう。
何が起ころうとしているのだろう。
小さな脳みそでは考えても、考えてこの先がどうなるのかなんて何も思いつかない。
「今、私達にできることは、いつも通りに暮らして―――あ、綺羅々ちゃんの命令実行しながら―――カイルくんが元気に戻ってきてくれるように願うだけだよ。祭ちゃん、時々お見舞いに行こうね」
「うんっパパ。ねぇ大河、千羽鶴折ろうよ! きっと、悪いものを吸い取ってくれるよ!」
「そうだな」
折り紙はいつも神や祭が遊びに使うのでたくさんあったはずだ。
「ん……?」
知った気配を感じて、大河は掃除道具入れに近付いた。
「どうしたの? 大河クン?」
「いえ。何となく、気配が―――」
一拍置いて、大河は掃除道具入れを開けた。
すると、そこから転がり出て来たのはリトだった。
どれくらい前からその場所にいたのかはよく分からないが、顔色が優れない。
「あ! リトさんだ!」
青白い顔色のリトは一旦、上半身だけを起こしたものの
「儀園、神社……ついた」
とだけ呟くと、気を失ったのかそのままぱったりと地面に伏した。
「……本当にこれ、どうなってるの?」
霧野 零といい、カイルといい、リトといい。
神も理解が追い付かなかった。
「とりあえず大河クン、彼を運び込んで。目を覚ましたら事情が聴けるかも!」
「えぇ。祭、すまないが布団を出してくれないか?」
「うんっ!」
神は晴明に連絡を入れて、ヤトに連絡を入れるように伝えた。
儀園神社に帰ると掃除道具入れからリトが倒れ込んで出て来た、と。
その旨をヤトに伝えて欲しい、と。
「さて、相手はカイルくんをどうするつもりなのかな?」
先程連絡を入れた時に晴明は神に東西の行方不明者と行方不明物を神に説明していた。
分かっていること。
カイルが闇に憑依されていること。
東西の行方不明者の内、リトが今見つかったこと。
東西の行方不明物については誰も発見できていないこと。
「魔術とかはさっぱりだけど、やっぱり器って所なのかな。カイルくんは」
何にしても、リトから事情を聴くことが出来れば、少しは進展するかもしれないと神は考え、伸びを一つした。
「私が色々と引っ掻き回すのは好きだけど、引っ掻き回されるのはやっぱり好きじゃないね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます