第21話

 結局―――


「結局、こうなるのかよー!!」


 翌日。

 いつも通り早朝、大河と祭に起こされ、境内の掃除をして朝食を食べた後、カイル達は神と蒼司に強制連行された。

 流雨と蒼司が泊まった部屋へ入ってからは、あれよあれよと三人そろって流雨の着せ替え人形にされたのである。

 カイルは黒を基調としたゴスロリ衣装を着せられ、スカートを握り締めた。

 おまけに薄化粧までされるという始末。

 男として屈辱的だ。

 女装をさせられている上に化粧までされるとは。


「ちょっと大河! 動かないでちょうだい!」

「母上……もうやめましょう。というかやめてください」


 現在、大河は流雨に化粧をされている所である。


「うわぁ~カーくんかわいいよ!」


 祭に至っては男のプライドというものがないのか、天使をイメージしたのか純白で、フリルがあしらわれた服を着てもどうとも思っていないようである。

 あろうことか、可愛いとまで言う。


「オレは男だ! 何でこんな格好しなきゃなんねェんだよ! 可愛いって言われて素直に「ありがとう」なんか言えるか!」

「えぇ~。本当に似合ってるんだもん。それに、仮装パーティーみたいで楽しいからいいじゃない」

「テメーは暇じゃなけりゃ何でもいいのかよ!」


 そうカイルが言えば、祭は笑顔を崩さず


「うん!」


 と答えた。

 ダメだ。

 彼と話をしていると、体力も気力も持っていかれる気がする。


「さぁ、できたわ! あぁ、さすがわたくしの息子。美しいわ! わたくしに似て美人の息子でよかったわ!」


 大河の出来上がりに満足しているのか、流雨はカメラを向けながら大喜びだ。

 夫である蒼司は彼女を止めることなく静かに部屋の隅で茶をすすっている。


「ふっふっふ~。カイルくん、隙ありぃ!」


 神に至っては、カイルの隙をついてスカートをめくりあげる攻撃に出てくる。


「うわっ! この、テメー! やめやがれ! 男が男のスカートめくるんじゃねェよ!」


 カイルの怒鳴り声も右から左へ聞き流し、神は面白くなさそうに、何だブリーフじゃなくてトランクス派か、パンツも女の子のものにしてイチゴ柄や白いものにしたらいいのに、などと呟いている。


「まぁいいや。じゃあ次は中華なお姫様の大河クンにでもイケナイ悪戯しちゃおうかなっ」


 一日で本調子に戻った彼の悪戯は、激しかった。

 掃除が終わりひとまず休憩しようと部屋に戻ればイニシャルGとイニシャルKが、どこから集めていつ放ったのか、大量に蠢いていた。

 朝食の席ではカイルと大河の周りをちょろちょろと動き回り、おかずを盗む。

 流雨に女装させられていたら、今のようにスカートをめくる。

 大河とカイルの気力はもう底をつきかけていた。


「パパ上。どうせなら祭を構ってやればいいのでは? 俺達をからかわなくても」

「ふっふーん。甘いね、大河クン。大河クンとカイルくんがしでかした昨日の悪戯、ぜぇんぶお返しするんだからねっ。パパに歯向かった報いだよっ」


 しまいには狐術で風を呼び、大河のドレスやカイルのスカートをめくりあげ始める。

 祭は面白そうに大河とカイルに混ざって、ふんわりめくりあがるスカートの動きが面白いのか笑っている。

 流雨に至っては神を止める所か写真にその様子を映しながら、蒼司にビデオカメラを持たせて動画で記録まで始めている。


「あなた! しっかり録画してくれないと、執務室を同人誌の海にいたしますからねっ」


 無表情で彼女の言う通り、ビデオカメラで録画をしていた。

 神は大河とカイルに狐術を使ってからかうのに飽きたのか、蒼司の隣に座る。


「相変わらず、流雨ちゃんの尻に敷かれてるね。いっそのこと、一緒に同人誌でも作ったら?」

「相変わらず、お前は傍若無人を貫き通しているな。無理だ」

「楽しければ何でもいいじゃない。蒼司は固いんだよ。もっとはっちゃけようよ。わざわざ大河クンを私の所に寄越して人間界の勉強させなくたっていいじゃない。ね? パパのマイエンジェル! アイドル祭ちゅわん!」

「パパ! 今日はすごく楽しい日だねっ」


 三人並んで写真を撮るから、と流雨に言われて三人は無理やり並ばされる。


「大河、もっと笑ってちょうだいな。カイルちゃん! 逃げないで!」


 カメラを手にあれこれと指示を飛ばす。

 いつまでこの遊びは続くのか。


「大河っ。ほらっ笑ってよっ」


 疲れ知らずの笑顔で、祭は大河の頬を引っ張る。

 だが大河の眉間にはさらに皺が寄るばかりだ。


「大河もカーくんも、楽しもうよ。そりゃボク達、男の子だから女の子の服を着るのは恥ずかしいけれど、楽しんだらあっという間に終わっちゃうから」


 眉間に皺っと祭は大河の眉間に指をあててぐりぐりとする。

 このお気楽天然が、とカイルは悪態をついて胡坐をかいて座り込む。

 杖を封印され、神からの悪戯、進まない状況、何もかもがカイルを苛立たせる。


「神ちゃん、祭ちゃんを大河にくださいな」

「やーだー! 祭ちゅわんがいなくなったらパパ死んじゃう! いくら流雨ちゃんでもそれはダメだからねっ」


 もう限界だ。

 こんな服、着ていられない。

 杖がなくとも出来ることはあるはずだ。

 自分は、この国を知るために来たわけでもなければ、遊ぶために来たわけでもないのだ。


「なぁ。もう脱いでもいいか?」

「あら。もう脱いでしまいますの? 惜しいわ……同人誌で実名を出されたり、この写真をばら撒かれたりされたくなければ、もう少しそのままでいてくださいな」


 それは脅しだろう。

 プライバシーも何もあったものではない。

 ぐうの音も出ずにいると、カイルの肩を大河が叩いた。


「諦めろ。母上はドリームモードが最高潮になると、本当にどこまでやるか分からん。ある意味、パパ上と同じくらい手が付けられない」

「カーくん、楽しもうよっ。こんな綺麗な服、滅多に着られないよ?」


 反対側の肩を叩いたのは祭である。

 大河も祭に言いくるめられ、腹をくくったらしく、男のプライドはもはやないようだ。


「生き残るためならば仕方があるまい。プライドなど、死んでも食えないもので死ぬのは最低の死に方だからな」

「嫌なことははっきり嫌だと言わなきゃなんねェ時があるだろうが。それって今だろ?」

「嫌だと言って、母上やパパ上が大人しく言うことを聞いて嫌なことをしないとでも思っているのか?」


 思わない。

 カイルと大河が話をしていると、祭が最後に三人並んでもう一度、写真撮影があると引っ張られ、散々、写真を撮られた。

 ようやく流雨は満足したらしい。


「さっそく帰って、映像を編集して写真を引き伸ばして、あぁ、原稿も描かなければなりませんわ! あなた、帰りますわよっ」


 写真が出来上がったら送る、と約束して蒼司を引き連れて彼女は帰って行った。

 嵐が、やっとのことで過ぎ去ったような気がしたカイルであった。

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