第53話 本心
まさかの、愛の、告白、だった―――――――――!!!
え? ほんとに? 俺に? 俺のこと? ほんとにほんと?
「ネコちゃんが、大好きなんです!」
「………………………………………ねこ?」
「はい!」
キューピッドはこれまで堪えていた思いをぶちまけるがごとく、猫への愛を語った。
猫がいかにかわいいか。癒やしの存在か。目に入れても痛くない。
なんなら食べちゃいたいくらいかわいいと。
「あ、でも本気で食べたいなんて思ってませんよ。例えです。あくまで例えなんですけど」
ああ………。
なんだか、目眩がした。
頬を赤らめ、もじもじと恥ずかしそうにしながらも、その潤んだ瞳をキラキラさせて語るキューピッドは、もはや俺の知るキューピッドではなかった。
でも、予兆はあったんだよなぁ。
原宿の路地裏でも猫が好きだと言って一人で見てたし、ああ、そうかと俺は納得した。
メイドカフェに行った時も、キューピッドがときめいていたのはメイドさんではなく、猫耳だったのか。
腑に落ちれば、なるほどなと思った。
「なので、三田様、私は、あの、『森の猫カフェ』に行きたいのです」
これがキューピッドの語りたかった本心。キューピッドが日本に来た本当の理由。今までずーっと話す機会があったのに、言えなかったんだもんな。
そりゃあ、気落ちもするってもんだ。
そうだよなー……うん?
「あれ? なんで今まで黙ってたんだ。猫カフェくらいなら、いくらでも行けたのに」
「それは、その、あのですね……」
「もしかして、迷惑かけるとか考えた?」
キューピッドはバツが悪そうな顔をする。だから俺は「いいよ」と頷いた。
「いいよいいよ、いくらでもわがまま言って。せっかく日本まで来たんだ。目的果たせずに帰るなんて、後悔が残るようなことしないでくれ」
「いいん、ですか?」
「いいんですよ。他の姉妹達見てみろよ。好き勝手にやってるだろ。ほんじゃ、明日行くか」
買い物袋を持って歩き出すと、キューピッドもついてきた。
「三田様、ありがとうございます」
「いや、猫カフェ行くなんてお安い御用だよ」
「三田様は本当にお優しい方です」
「んなことない」
ふふっと、キューピッドは隣で笑った。
「三田様」
名前を呼ばれ、腕を引かれた。引き留められて俺は素直に立ち止まる。
俺と向き合ったキューピッドは俺に手を伸ばした。その細い指先が俺の唇の端に触れた。
「あんこ、ついてます」
指先で取ったあんこをキューピッドはそのまま口にした。
「たい焼きごちそうさまでした。明日、楽しみにしてます」
キューピッドは俺の手から買い物袋を一つ取ると歩き出す。
冷えた十二月の風に乗って、甘い花のような香りがかすめる。
俺は歩き出せず、その場に留まっていた。
脈が速い。顔が熱い。
俺は自分の手で口元を覆った。
ついてこない俺を不思議に思ったのか、俺を呼ぶ優しい声がする。
溜息がこぼれた。
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