第30話 えらいかわいいコンビニの店員さん
「イラシャイマセー」
「しゃっしゃせーい」
キムさんは今日もにこやかに接客してくれる。
その隣に見覚えがありすぎる元気娘が立っていた。
「ダッシャー、お前こんなところでなにしてる」
仕事帰りにいつもの習慣で立ち寄ったコンビニで、レジの中にいたのは目にも鮮やかなオレンジのショートボブ。えらいかわいい店員さんだった。
「三田が自分で稼げばいいと言っただろ。だから働いている」
「いや、行動早っ。つーか、よく雇ってもらえたな」
「店員超募集中って紙が貼ってあったから、働きたいって伝えたんだ。そしたら、店長さんがすぐにOKくれたぞ」
えー、そんな安易な?
人手不足だからって、国籍もあやふやな子供を雇って大丈夫なの?
法律にふれない?
ここの店長さんの太っ腹さというか、適当さに呆れる。
だがまあ、スニーカーを手に入れる目的を達成せねばダッシャーだって帰らないかもしれないのだ。
これ以上キューピッドを悩ませるよりはいいのかもしれない。
「そうか、よかったな。何時まで仕事なんだ?」
「もう終わりだ」
「なら、一緒に帰ろう」
「おう。それと三田、おでんなんか買ってどうする? キューピッドが今日は夕飯の買い物に行くって言ってたぞ」
「あ、そうか。つい癖でな。じゃあ、ビールだけにするか」
「まいど」
にこにこしているキムさんに教えられたとおり、ダッシャーは華麗にレジを操ってお会計を済ませる。呑み込みは早いらしい。
「あーしったー。クリスマスチキンとケーキの予約はじまってます。いかがっすかー?」
口調はアレだが、顔がいいのでその笑顔には破壊力がある。俺がもしもダッシャーと無関係な人間だったら、うっかりチキンとケーキの予約をしてしまったかもしれない。
はっ、店長の狙いはこれか?
俺は「いや、いらない」と断って先にコンビニを出た。
外の寒さにぶるりと震える。
しばらくしてコンビニの制服を脱いだダッシャーが現れた。
「なんだそれ」
コンビニの袋を下げていたので聞くと、中身はコンビニのスイーツらしい。
廃棄品をもらったのかと思えばそうではなく、店長が新商品を試食用に買ってくれたらしい。
「今日はチキンとケーキの予約を五件も取ったからな」
ダッシャーは誇らしげに言う。
だからか! このスイーツはそのご褒美ってわけか!
店長の狙い通り、ダッシャーは売り子に最適だったわけだ。
しかしまあ。
「よかったな」
ダッシャーが無邪気に喜んでいるので、俺はそれだけを口にした。
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