第22話 踊るトナカイ

 

 さて、原宿でダッシャーを回収した俺達がつぎに向かったのは、山手線をぐるりと回って秋葉原だった。

 オタクの聖地とか言われてるけど、オフィス街だし、俺的には原宿よりはこっちの方が落ち着く感じだ。


 次のトナカイの名前は『ダンサー』で8番目らしい。

 かくいうダンサーさん、なんとこれがすぐに見つかったのだ。

 

 秋葉原駅の電気街口を出てすぐのこと、ルドルフが真っ赤な鼻をひくつかせていると「あ!」と、ダッシャーが指をさした。

 それは頭上。巨大な画面でアイドルやアニメの映像が流れてる、その横の横の横。大小の看板の一つ、多分、メイド喫茶かなんかだろう。

 どうやらその中の一人がダッシャーらしい。

「だんちゃんだ!」

「あら本当、ダンサーだわ」

「あいつ、なにやってんだ」

 三者三様それぞれに看板を見上げて口にする。

 看板には十人も女の子が映っているので俺にはどれがダンサーなのか判別つかないが、彼女たちが言うのだから間違いないのだろう。

 看板には『みみっこ☆かふぇ』と店の名前が書いてあった。

 頭に動物の耳がついているからみみっこなんだろう。俺はスマホでさくっと検索をかけた。

「とりあえず行ってみるか」

「場所分かるの?」

 ルドルフが不思議そうに尋ねる。

「目的地さえ分かれば調べられるから、今回は大丈夫だぞ」

「へぇ、すごいですね」

「やるじゃん、三田」

 キューピッドとダッシャーが俺を尊敬の眼差しで見つめてきた。

 そう言われると悪い気はしない。

 まあ、本当にすごいのは俺じゃなくてスマホなんだけどな。

「というわけで、こっちだな」

 地図を見ながら歩き出した。



『みみっこ☆かふぇ』は中央通りから一つ路地を曲がったところにあった。

「あっ、またかわいい人が立ってる!」

「お人形さん発見だな!」

 ルドルフが言うかわいい人、ダッシャーの言うお人形さんとは、ちょくちょく見かけるメイド喫茶の女の子達のことだ。

 ふりふりひらひらの衣装に身を包み、ちらしを配って呼び込みをしている彼女達を見ては二人して目を輝かせている。

 が、等の本人達の方がかわいくてよほど人形じみていると俺は思う。

「お嬢様方、こんにちは」

 にっこりと微笑み、二人に声をかけたのは、茶色の猫耳をつけたメイドさんだった。

「おじょうさま!」

 二人の鼻息が荒くなる。どうどう落ち着け。

「もしよろしければ、『みみっこ☆かふぇ』でお茶の時間を楽しみませんか? 今ならすぐにご案内できます。当店名物、メイド達による『みみみみコンサート』がもうすぐはじまります。いかがですか?」

「はい! いきます! お茶します!」

「私も! 私もだ!」

 ぴょこぴょこ跳ねる二人に気をよくしたらしい。

 メイドさんは俺に、にこりと微笑んだ。

 多分保護者だと思われたんだろう。どうされますか? の意味の微笑みなんだろうな。

「あ、あの」

 それまでずっと黙っていた。いや、本当に静かに俺の隣を歩いていたキューピッドが言った。

「わ、私も、行って、みたいです」

 あれ? 

 もしかして、すごく静かだったけど、静かに興奮してたんだろうか? 

 かわいいのが好きなのは女性ならではなのか、このトナカイ達がそうなのか俺には分からない。

 それでも、キューピッドはうずうずした様子で俺を見た。

「ああ、えっと、目的地はこの店なので行きますよ。えと、四人なんですが、大丈夫ですか?」

 メイドさんは満面の笑みで二階へと続く階段へ案内してくれた。

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